年が明けて、早くも1月が終わろうとしています。皆様、いかがお過ごしでしょうか。今年も僕のコラムにお付き合いいただければ幸いです。今オフ、Jリーグの各チームは積極的な補強に踏み切ったチームが多いですね。その中で特に気になるチームをいくつかあげてみましょう。

 

 まずはリーグ王者の川崎フロンターレ。鬼木達監督が求めるポジションの補強に成功しました。昨シーズンに築いたものをベースにさらに安定感が出てくるでしょう。目玉は横浜F・マリノスからMF齋藤学を獲得したこと、FC東京からFW大久保嘉人を復帰させたことです。

 

 パス主体の川崎において、齋藤の縦に速いドリブルでの仕掛けや、カットインは良いアクセントになると思います。MF中村憲剛と併用するのか、競わせるのかが注目ですね。1年で復帰した大久保について年俸額が半分になったとの情報もありますが、思い入れがあるクラブからのオファーは嬉しかったのではないでしょうか。昨季、MVP&得点王に輝いたFW小林悠も刺激になりますよね。前線は泥臭い形でもゴールを狙える大久保と、元鹿島アントラーズで昨季はガンバ大阪にレンタル移籍していたFW赤崎秀平も加わります。赤崎は動き出しに定評のある選手です。彼が起用されればショートパスでリズムを作りつつ、相手DFラインの裏を狙う場面が多く見られるでしょう。戦力が整い、特にFWのバリエーションは豊富です。競争原理を植え付けた川崎は今季も面白いと思います。

 

 昨季、無冠に終わった鹿島はドイツからDF内田篤人を呼び戻しました。彼は右膝のケガに苦しみ近年まともにプレーができませんでした。内田としても崖っぷちでしょう。ここで結果を残せないと後がない。そんな気持ちでしょうね。クラブは内田の経験を買ったのではないでしょうか。ベテランのMF小笠原満男と若手の間に入って、うまく鹿島イズムを後輩に伝えてほしいです。

 

 そのほか、DF昌子源とDF植田直通に負担がかかっていたセンターバックには清水エスパルスからDF犬飼智也を補強。両サイドバックと2列目でプレーが可能なDF安西幸輝を東京ヴェルディから獲得しました。これでDFラインの層が厚くなり、今年は十分期待できそうです。

 

“悪魔の左足”を神戸が獲得

 

 そのほか、ジュビロ磐田とヴィッセル神戸が興味深い動きをしました。磐田は筑波大学からFW中野誠也と、名古屋グランパスからMF田口泰士が入団。中野は元々磐田ユース出身です。2017年度関東大学サッカーリーグで21試合に出場し20ゴールを挙げて得点王に輝いた点取り屋。僕はプロ1年目の今年が、チャンスだと思っています。対戦相手は中野のデータをさほど持っていない。それがゆえに今年が彼にとってチャンスになると感じます。また、田口の獲得でパスの出所がMF中村俊輔と2つに増えることもプラスでしょう。相手は的が絞りにくくなるし、中村の負担も減る。それにより39歳のレフティーが活きる気がします。

 

 神戸はタイ代表の左サイドバック、ティーラトン・ブンマタンを期限付きで獲得しました。精度の高い左足のセットプレーが武器です。“悪魔の左足”と異名がついたほど、相手に脅威を与えます。僕は彼を左サイドバックに固定するだけでなく、ボランチなど中盤で使ってみても面白いのではないかと考えています。キックが最大の武器の選手なので、MFでの起用で化けるのかもしれない。楽しみな選手が日本に来てくれました。Jリーグのリズムに馴染めば対戦相手にとって怖い存在になると思いますよ。

 

 監督人事も楽しみなクラブがあります。FC東京には昨シーズンまでG大阪で指揮を執っていた長谷川健太が就任しました。G大阪でやっていた球際で激しく、カウンター主体のサッカーがベースになると思います。ただ、FC東京のメンバーを見るともう少し技巧的な要素を加えても良いのではと感じます。清水で育った長谷川監督らしいテクニカルな部分もサッカーに組み込んでほしい。粒はそろっていますから体力勝負のスタイルばかりだと勿体ないという印象です。彼は“ドーハの悲劇”を経験した仲間なので頑張ってほしいです。

 

 一方で、横浜F・マリノスは少し心配ですね。サイド攻撃のキーマンだった齋藤を失うだけでなく、MFマルティノスも浦和レッズへの移籍が決まりました。チームの主軸が抜けて、なおかつ、今季から監督も変わります。オーストラリア代表を率いていたアンジュ・ポステコグルーが指揮官に就任しました。目立った補強もなく合宿でどれだけ戦術を浸透させられるかが課題でしょう。一番やってほしくないのは、リーグが始まってから結果が出ずにメンバーをコロコロ替えることです。そうなると負の連鎖を引き起こす可能性が高い。スタートがうまくきれなくても、我慢が大事になるのではないでしょうか。

 

 約1カ月後にはJリーグが開幕します。各チーム合宿で身体をつくり、戦術の浸透に躍起になるでしょう。市場が激しく動いたこともあり、楽しみなシーズンになりそうです。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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