8月22日(木)

◇決勝
 2年生エース・高橋光、6安打完投
前橋育英(群馬)   4 = 000030100
延岡学園(宮崎)   3 = 000300000
【本塁打】
(前)田村
「ここにいることが信じられない。最高の気持ち」。前橋育英の指揮を執った荒井直樹監督は感無量の面持ちで語った。群馬の前橋育英が、逆転勝ちで日本一を勝ち取った。群馬県勢では1999年の桐生第一以来、14年ぶり2度目の全国制覇を達成した。

 どちらが勝っても初優勝となるフレッシュな顔合わせとなった決勝戦。初出場でここまでコマを進めた前橋育英の先発マウンドは、2年生エースの高橋光成が立った。決勝までの全5試合に登板し、41回を自責点はゼロ。快進撃を支える“ミスターゼロ”が3回まで延岡学園打線をノーヒットに抑えた。

 しかし、ほぼ1人で投げ抜いてきた疲れからか、4回に打ちこまれる。1死から初ヒットを許すと、ヒットとフォアボールなどで2死満塁のピンチを迎えた。そこで高橋光は7番・薄田凌(2年)にサードへ高いバウンドのゴロを打たれた。打球を処理した三塁手・荒井海斗(3年)の肩と薄田の足との競争となった。ボールを掴んですぐに一塁へ送球したが、慌てた分、送球は一塁手の頭を越えてしまう。内野安打と失策で2走者の生還を許し、高橋光に今大会初めて自責点がついた。

 高橋光は続く打者に四球を与え、再び塁が埋まる。バッターボックスには延岡学園先発の横瀬貴広(3年)。高橋光が投じたインコースのストレートをライトへ弾き返された。1人が還り、二塁ランナーも三塁ベースを蹴った。ここで4点目を防いだのは右翼手の板垣文哉(3年)だ。打球を素早く処理すると、ノーバウンドの好返球。捕手の小川駿輝(3年)のブロックもあって、延岡学園に追加点を許さなかった。結果的にこのプレーが大きかった。

 一方の延岡学園のマウンドには昨日の準決勝で完封勝利を挙げた横瀬。準決勝同様に球速100キロに満たないカーブと130キロ台後半のストレートを軸に緩急をつけたテンポのいいピッチングをした。前橋育英打線は1、3回にフルベースのチャンスを作るが、あと1本が出ていなかった。

 失点直後の5回表、相手に傾きかけた流れを前橋育英が手繰り寄せる。まず先頭の田村駿人(3年)がレフトスタンドへ今大会自身2本目のホームランを叩き込んだ。8番バッターの一発で反撃の狼煙を上げると、動揺もあったのか延岡学園が2つのエラーをし、無死一、三塁となった。ここで延岡学園の重本浩司監督は横瀬を諦め、井出一郎(2年)にスイッチした。打席に立つのは高橋知也(3年)。好守に加え、犠打やバスターなど小技に長けた2番打者が、いきなり初球スクイズを敢行した。ピッチャーの横に見事なバントを転がし、1点差に迫る。さらに2死一、二塁とし、5番・小川が井出が投じた外の真っすぐを逆らわずに右方向へ打ち返した。二塁ランナーが還り、スコアは3−3。1学年上の女房役である小川のタイムリーで同点に追いついた。

 高橋光は5、6回を無失点に抑え、徐々にリズムを取り戻していく。すると、7回表に再び打線が援護。先頭の土谷恵介(3年)がライト線へのスリーベースを放ち、勝ち越しのチャンスを演出する。この好機を荒井は「自分のミスで失点してしまったので、何とかして打ちたかった」と振り返る。汚名返上の場面で、監督の二男であるキャプテンが三塁線を破るタイムリーヒットを放った。“孝行息子”の一打で、この試合初めてのリードを奪う。

 待望の勝ち越し点をもらった高橋光は、ランナーを出しながらもショートの土谷、キャッチャーの小川の好守にも助けられ、スコアボードにゼロを並べていった。「先輩たちの思いも全員の気持ちを込めて思いきり投げました」と力投し、最後のバッターを空振り三振に切って取ると、両手を挙げてガッツポーズ。134球目、今大会通算687球目が報われた瞬間だった。キャプテンの荒井は「疲れは溜まっていたのに気持ちで投げてくれて、日本一に導いてくれたので感謝しています」と、2年生エースを称えた。

 全国3957校の頂点に立ったのは、初出場の前橋育英。荒井監督自慢の堅実な守備はこの日も光った。ヒット性の当たりをアウトにした鉄壁の二遊間、追加点を許さなかったライトの好返球とキャッチャーの好ブロック。そのすべてが2年生エースの力投を支えた。甲子園で全6試合中4試合の1点差ゲームをモノにできたのは、荒井監督が「積み重ねてきたものが表現できて、間違いじゃなかった」と誇った守備から攻撃につなげる野球が要因だろう。史上14校目の初出場初優勝。監督就任12年目にして、自らが標榜した野球は正しかったと、この夏、最高のかたちで証明した。