「アチョー」

 このお叫びで一世を風靡したのは映画『燃えよドラゴン』の主役ブルース・リーである。

 

 

 このカンフー映画が大ヒットしたことで、1970年代前半、全国津々浦々で「アチョー」のお叫びが響き渡ったものである。

 

「アタタタタ」

 というのもあった。こちらは劇画『北斗の拳』の主人公ケンシロウのお叫びである。このお叫びとともに無数の突きを繰り出すラストシーンは圧巻だった。

 

 ブルース・リーが「アチョー」、ケンシロウが「アタタタタ」なら、卓球の張本智和は「チョレイ」である。

 

 さる1月21日、東京体育館で行われた卓球全日本選手権男子シングルス決勝で14歳の張本はV9王者の水谷隼を4-2で破り、初優勝を飾った。史上最年少Vでもあった。

 

「うるさいから聞こえないように耳栓でもしようかな」

 

 試合前、張本の「チョレイ」について聞かれた水谷は、そう軽口を叩いた。この時点では、まだ余裕が感じられた。だが、張本の成長は水谷の想定を上回っていたようだ。

 

 第1ゲーム、張本は強化したフォアハンドで先制すると得意のバックハンドで2点目を取った。得点のたびに館内にお叫びが響き渡った。水谷は耳栓をする間もなかった。

 

 テレビ中継の解説席に座っていた福原愛が「目が覚めるようなスピードですね」と驚くほどの速攻だった。

 

 第1ゲームは11対9、第2ゲームは11対5。第3、第5ゲームこそ取られたものの、1年半前のリオデジャネイロ五輪で2つのメダルを胸に飾った「憧れの先輩」を攻守両面で上回った。

 

 張本は7カ月前の世界選手権(ドイツ・デュッセルドルフ)でも水谷に勝っている。だが、本人によると「前回は勢いで勝っただけ」。今回は「実力で勝った」と胸を張った。

 

 とりわけバックハンドの威力には目を見張るものがあった。「練習は入念にしていたんですが想像以上に質の高いボールで最後まで対応できなかった」。と水谷も兜を脱がざるを得なかった。

 

「バックハンドは僕のフォア側へ逃げていくボール。コースがとても厳しかった。追いついたとしても、次のボールに対応できない。世界でもトップレベルだと感じました」

 

 さらには、こんな弱気発言も。

「今までたくさんの中国選手と試合をしてきたけど、(張本は)彼らと同じレベルにいると感じました。もし今日のプレーが、彼の100%の力だとしたら、僕は何回やっても勝てない」

 

 一方の張本は試合後も“絶口調”だった。

「ここからは自分の時代にしたい。どんな人がきても絶対に負けないような実力を身に付けていきたい」

 

 東京五輪を17歳1カ月で迎える。その先のパリ、そのまた先のロサンゼルス大会でも彼はメダル争いの中心にいるのではないだろうか。

 

「チョレイ」が世界中に響き渡る日が確実に近付いている。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2018年2月11日号に掲載されたものです>

 


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