平昌五輪スピードスケート男女マススタート決勝が24日に行われた。髙木菜那(日本電産サンキョー)が優勝。今大会より採用された新種目を制し、初代女王に輝いた。2位にキム・ボルム(韓国)が、3位にはイレーネ・シャウテン(オランダ)が入った。男子はイ・スンフン(韓国)が金メダル。銀メダルはバート・スウィングス(ベルギー)が、銅メダルはクーン・フェルバイ(オランダ)が手にした。日本勢はウイリアムソン師円(日本電産サンキョー)が11位だった。

 

 髙木菜那は種目の特性を生かした戦略で初代女王の称号を手にした。チームパシュートと合わせて今大会2冠を達成。夏季も含め日本女子史上初の快挙である。

 

 マススタートは400mトラックを16周する全長約6400mのレースだ。通常のレースと違うのは、まず1レースの滑走人数。インとアウトレーンに分かれて1組2人ずつだが、マススタートはレーン分けをなくして10数名で滑る。集団をなしてのレース展開に接触、転倒も起こりやすい。さらに特徴的なのがポイント制だ。4周通過ごとのスプリットで上位3人にポイント(1位5点、2位3点、3位1点)を与えられる。ゴール順によるポイント(1位60点、2位30点、3位20点)と合算して最終順位が決まる。

 

 準決勝1組に登場した髙木菜那。12人中8人が決勝へ進出する。昨年の世界距離別選手権で銀メダルを獲得している髙木菜那は第1スプリットでトップを取った。早々に5ポイントを獲得し、この時点で8位以内が確定。一気にペースを落とし、残りの12周を滑る。決勝に向けて体力も温存できる最高の勝ち上がり方である。一方、2組の佐藤綾乃(高崎健康福祉大)は接触に巻き込まれる不運。途中リタイアで準決勝敗退に終わった。

 

 約1時間半後にスタートした決勝。準決勝を上回る16人で行われた。より密集度は増し、ポジション取りがカギを握る。勝ち上がりを優先する準決勝と違い、トップを取るにはゴール順次第だ。オランダ、アメリカ、中国、イタリア勢が2人ずつ。共闘体制を組めば幾分か有利に試合を運べると予想された。それでも髙木菜那は冷静に展開を見極めていた。

 

 レースはアルサル・サスキア(エストニア)が1人先頭を突っ走る。2番手以降に半周以上の差をつけた。第1スプリット、第2スプリット、第3スプリットをトップで通過。サスキアがいくらポイントを稼ごうとも髙木菜那は慌てなかった。彼女の選択はオランダ勢をマークすることだった。「オランダ勢が最後に2人で仕掛けてくると思っていた。イレーネ(・シャウテン)選手の後ろについて、狙えるところで狙っていこうと考えていました」。168cmの長身選手を風よけに使いながら足を溜めた。

 

 不気味なのは髙木菜那の後ろにつけるキム・ボルムだ。昨年の世界距離別選手権で髙木菜那を破り、表彰台の頂点に立っている。ラスト2周では髙木菜那ら集団が先頭を奪う。髙木菜那は依然としてシャウテンに続く。ラスト1周の鐘が鳴ると、2位に浮上した。「狙えるところで狙う」。勝負は最終コーナーだった。ピッタリとマークしていたシャウテンがコーナリングで膨らむ隙を突いた。インから差し切った髙木菜那はキム・ボルムの追撃もかわした。両手を何度も突き上げて、歓喜の感情を爆発させた。

 

「この種目が始まってから表彰台に上がったことはありましたが、金メダルという一番高いところには上がったことはなかった。最高の舞台で一番上に上がることができてうれしい」

 23歳の初代女王は喜んだ。ついに辿り着いた表彰台の頂点。今大会の自身最初のレースとなった5000mでは最下位(12位)に終わった。チームパシュートと合わせて2冠を達成し、「最高のオリンピックにできた」と笑顔で締めた。

 

(文/杉浦泰介)