2018年1月、全日本卓球選手権女子シングルス6回戦で森薗美月(サンリツ)はストレート負けを喫した。森薗は2ゲーム目、先にゲームポイントを奪いながらデュースの末に取られた。第3ゲームも接戦を落とした。だが彼女はどんなに旗色が悪くなっても、強気な表情を変えることはない。最後までファイティングポーズを解くことはなかった。

 

 全日本のシングルス(一般)は10度目の出場。前年がシングルスでの自己最高成績となるベスト16に入った。「今年はベスト8に絶対入りたいと練習してきた」と森薗。4、5回戦を順当に勝ち上がり、初のベスト8進出をかけて6回戦で松澤茉里奈(十六銀行)と対戦した。

 

 松澤とは昨年の全日本社会人、日本リーグで敗れており、苦手意識があった。

「すごく攻めてくるタイプで、徹底的に速いピッチと打点で打ってくる。そういう選手に対して、自分でもいろいろ試行錯誤していった。でもどう戦うかを迷い過ぎて、それで自分のプレーが遅くなった」

 

 試合中もその意識を払拭できずにいた。第1ゲームは2-1から6点畳み掛けられ、2-7。悪い流れを断ち切ることはできず7-11で落とした。第2ゲームは競った展開。10-8で先にゲームポイントを手にしたのは森薗だった。その時、彼女は呟いた。

 

「自信を持って」

 

 自らに語り掛けた言葉の真意を森薗はこう口にする。

「ネガティブになりやすいからこそポジティブな言葉をかけています。『自信を持って』と言っている時点で、たぶん自信がなかったのかもしれない」

 

 弱気になる自分やプレーの迷いを振り払おうとしていた。しかし、このゲームはデュースまで粘られ、12-14で取られた。第3ゲームもデュースの末、11-13で奪われる。第4ゲームは7-11。ストレートで敗れ、前年に続くベスト16となった。シングルスでは自己最高成績タイだが、試合後は「落ち込んだ」という。

 

「負けた相手の戦型も全然違うのですが、全日本を意識し過ぎて空回りしてしまっている。その点に関しては進歩がない。“何をやっているんだ”と」

 とはいえ収穫がなかったわけではない。「改善すべきところがたくさんあることに気付けました」。特に自身で気になった点は「卓球が遅くなっている」ということだった。

 

 ライバルは自分自身

 

 森薗は自身の持ち味を「走るのが得意で、体力は人一倍あります。速いフットワークを生かして、キレのあるプレーが良いところだと思う。フルスイングできるがことが長所なんです」と語る。だが全日本では気持ちの迷いがプレーにも繋がったのか、思うような動きができなかった。

 

 サンリツの近藤欽司総監督は森園をこう評価している。

「得意なのはバックハンドの強打。身体能力が高く、動きも速い。ボールに対する反応が良く、台から下がってもボールを打ち返せる。相手に揺さぶられても、バックハンドでただ台上に入れるだけでなく攻め返すことができる」

 

 かつて全日本女子を率いたこともある名伯楽も認める速さ、反応の良さを発揮できぬまま、今年の全日本を終えた。

 

 2年5カ月後に迫る東京オリンピックを目指している。現在、ITTF(国際卓球連盟)ランキングは104位。日本人では18番目の順位だ。「周りの人たちは“無理だろう”と思うかもしれませんが、最後まで諦めない」。真っ直ぐな瞳で森薗は答えた。

 

「まだまだ自分は発展途上。のびしろは誰よりもあると思っています」

 上り詰めるためのライバルは「結局は自分自身」だという。「今までいろいろな人と比べてきてしまったからこそ思うんです。自分が目指すところはつくっていいのですが、そこばかり見過ぎたら大事なことを忘れがちになってしまう。自分としっかり向き合って自分に勝っていく。結果、その人たちに勝てるんじゃないなと」

 

 森薗は自問自答する。時にプレーや選択に迷うことだってある。彼女は自らの理想を求めて、己と闘う日々を過ごしている。

「好きな選手はいましたが、“こうなりたい”という選手はいない。なぜなら自分で壁をつくってしまうから。それに私はシンプルに自分が思っているものを突き詰めたい」

 

 森薗は小学1年で卓球を始めた。父親と叔父は実業団でプレーした元卓球選手。いとこの美咲、政崇も卓球を習っていた。そういった環境を踏まえれば、もっと早く卓球人生をスタートしてもおかしくはない。だが、彼女には別の夢があった――。

 

(第2回につづく)

 

森薗美月(もりぞの・みづき)プロフィール>

1996年4月9日、愛媛県松山市生まれ。いとこの影響で小学1年から卓球を始める。6年時にJOCジュニアオリンピックカップ女子カデットの部(中学1年生以下)で優勝。中学2年時には全国中学生体育大会で準優勝した。大阪・四天王寺高進学後、高校3年時に全国高校総合体育大会で団体優勝と女子ダブルスで準Vを果たした。14年全日本選手権では女子ダブルス2014年サンリツ入社。16年全日本社会人女子シングルス制覇。身長152cm。右シェークフォア裏裏ドライブ型。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 


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