第8回 宮田充(K-1プロデューサー)「育成重視の独自路線」
「Sportful Talks」は、ブルータグ株式会社と株式会社スポーツコミュニケーションズとの共同企画です。様々な業界からゲストを招き、ブルータグの今矢賢一代表取締役社長との語らいを通して、スポーツの新しい可能性、未来を展望します。
今回のゲストは立ち技格闘技イベント「K-1 」の宮田充プロデューサーです。2014年より生まれ変わり、新たな路線で格闘界に新風を巻き起こしています。宮田プロデューサーが見据える新生K-1 の未来とは――。
草の根活動が大事
二宮清純: K-1 と言えば1993年にスタートしたヘビー級中心の興行をイメージする人も多いと思います。その後、WORLD-MAXという中量級に軸足を移していきましたが、これまでのものとは別物と考えて宜しいのでしょうか?
宮田充: はい。我々は2013年から準備を始めて、まず「K-1ジム」の1号店をオープンしました。翌14年から「K-1アマチュア大会」をスタートして、11月に新体制としての「K-1 WORLD GP」を開催しました。我々は格闘技イベント開催だけでなくジムの運営、アマチュア大会の定期的な実施というピラミッドの形を作っています。K-1 ジムからプロになる方も輩出していますし、スポーツとして親しんでもらうために場所や機会を提供させていただいています。
二宮: 新生K-1はアマチュアも入れて底辺の拡大を図るのが、以前との違いだと?
宮田: もともとアマチュア高校生の日本一を決める「K-1 甲子園」のみ行われていましたが、現在の「K-1アマチュア」は小学生、中学生、高校生、大学生、一般、マスターズ(40歳以上)にカテゴリー分けしつつ、体重別にクラス分けしています。プロとは違った、草の根の活動ですね。
今矢賢一: それまではピラミッドにおける上の部分を主にやっていたということですね。
二宮: サッカーで言えば、ユース世代、ジュニア世代があってのトップチームということですね。そういう正三角形をつくりたいと?
宮田: 過去のK-1はヘビー級をメインにMAXという中量級、63kg級と最終的には3階級がありましたが、やはり安全面を考えるとそれぞれの体格に合った階級分けが必要と考えました。現在は全8階級(スーパー・バンタム、フェザー、スーパー・フェザー、ライト、スーパー・ライト、ウェルター、スーパー・ウェルター、ヘビー)まであります。スーパー・バンタム級の55kgから2.5kg刻みでスーパー・ウェルター級の70kgまでリミット体重を設定しています。ヘビー級はリミット無しの無差別級ですね。
二宮: 日本人でヘビー級を育てるのは容易ではないですね。
宮田: 昨年11月に開催した初代ヘビー級王座決定トーナメントには日本人4選手と欧米の4選手が出場しましたが、日本人で初戦を勝利したのは上原誠選手だけで、彼のベスト4が日本人最高位です。準決勝では1ラウンドKO負けだったので、世界との差は感じました。まだまだこれからですね。
チケットの価値向上目指す
二宮: 過去のK-1 は外国からヘビー級選手を連れてきて、華々しいカードを組み、テレビ放映権料を得るビジネスモデルでしたが、それとは違う路線でいくと?
宮田: 現在はインターネットTV局「AbemaTV」さんと、CSの「GAORA SPORTS」さんで生中継していただいています。また、フジテレビさんで90分枠の録画中継、テレビ東京さんでは毎週レギュラー番組を放送していただいています。もちろん、いい時間帯で放送していただき、いい放映権料をいただけることは有難いですが、もしそれがなくてもイベント展開していけることが理想です。イベントも最初は4000人規模の代々木第二体育館でスタートしましたが、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催の関係で同体育館は改修工事に入りました。そのため昨年からはさいたまスーパーアリーナのコミュニティアリーナ(8000人規模)で3大会を開催して、すべての大会で超満員をマークしてきました。そうして、3月21日のさいたまスーパーアリーナ・メインアリーナ大会も全席完売、1万5000人、超満員札止めとなりました。選手の成長と共に僕らも大きくなっている。もしいきなり1年目でメインアリーナをやっていたら、この成功はなかったと思います。
今矢: それはすごいですね。Jリーグでも1万人以上を呼べないクラブもありますからね。ホスピタリティのようなものは?
宮田: そこは他の大規模なプロスポーツを見習っていきたいと思っています。現在は一番高い席で非売品を贈呈するぐらいです。例えばプロ野球はそういうサービスが充実しています。僕らは、まず今できる一番いいカードを結集するという状況です。ホスピタリティにおいてはまだ勉強中ですね。
二宮: チケットの価格設定は?
宮田: 10万円、5万円、3万円、1万2000円、8000円、6000円ですね。後楽園ホールで開催している「Krush」というイベントは1万5000円、9000円、7000円、5000円です。当然、会場の規模で設定も変わってきます。
今矢: 後楽園は後方の席でも近く感じますからね。海外ではVIP用にゲートや行けるエリアが違う。観戦席以外に食事を楽しめるスペースもあります。グループで楽しまれる方には観戦以外の要素も膨らませていかなければなりませんね。
二宮: 試合の合間に「ちょっと1杯」というのもいいでしょうね。
宮田: 現状でグッズ販売は力を入れているのですが、1枚のチケットでどれだけ楽しめるのかを考える必要もあるでしょうね。さいたまのメインアリーナは広いので、いろいろな楽しみ方を提供できる可能性がある。
二宮: 大相撲のマス席のように複数名用で飲食付きのチケットを販売するというアイデアもありますよね。
宮田: さいたまはリングから離れた場所にVIPルームはあるんですが、ソファー席でモニターを観ながら試合を楽しむ。企業さん向けには販売しているのですが、プロ野球の席割も昔と全然違いますよね。そういう選ぶ楽しみがあるんだなと感じています。
今矢: 会場から離れた場所にゆったりできるラウンジスペース。区画単位でチケットを買ってもらう場合は、専用スタッフを用意すれば、お客さんをその場にいながらサービスを提供できる。すごくニーズがあると思いますし、訪日したアジアの富裕層はそういう環境で観たいと思うんじゃないでしょうかね。また自国の選手が出ていれば、応援にも熱が入り、より盛り上がれる。
宮田: 今は中国の選手も力を付けてきていて、昨年はチャンピオン(ウェイ・ルイ)が誕生しました。欧米の選手を含め、外国人スターが出てくると、さらに盛り上がると思います。
ファイターは一発勝負
今矢: ジムは国内展開のみですか?
宮田: はい。国内の首都圏中心で現在は13店舗ですね。10店舗が直営で、3店舗がフランチャイズになっています。さいたまスーパーアリーナでイベントを開催しているので、埼玉県内にもオープンしようかという計画もあります。
今矢: ジムの運営が収益のベースにはなっているのでしょうか?
宮田: ジムに関しては長い目で考えていて、まずはそれぞれの地域に根付くことが大事だと考えています。それが力になっていくと思うんです。またもっとライトな感じでハードルを下げた「K-1 アマチュア公認ジム」という制度も昨年からスタートして、全国で随時募集をかけています。K-1 のメンバーとして活動したい、と希望する若いジムの代表者たちを中心に、こちらは現在50店舗ぐらいまで伸びています。
二宮: 収益の柱はやはり興行?
宮田: そうなりますね。ただ、興行は水物でもあるので、選手育成を常に意識しています。イベント重視で派手さに走ってしまうと育成が疎かになってしまいますから。信頼できるジムから選手を預かって、しっかり契約を交わした上で、大会に起用しながら育てていくシステムです。
今矢: 選手との契約形態は?
宮田: ファイターたちは一回一回の勝負ですが、魅力的な試合をすれば次に繋がるでしょうし、契約中の選手にはK-1 JAPANグループの「Krush」「KHAOS」のプロイベントも含めて、次のチャンスを与えていきます。
二宮: その間の契約料は発生しているのですか?
宮田: 契約料というものは発生しませんが、契約期間中はK-1 JAPANグループのイベント内で試合の機会を与えるようにはしています。単発ではない契約を結ぶことで、長期的なプランで試合を組んで、選手のプロモーションを実施する。そうすることで選手の認知度や人気も上がっていって、実力もついてきます。K-1をプロスポーツとして発展させるためにも、選手との契約は必要なものだと考えています。
今矢: 選手個人がスポンサーを付けることに制限はあるのでしょうか?
宮田: 今のところは制約を設けてていないです。そこは選手の個性でもあるので、最低限のコンプライアンスはチェックしますが、赤や青、金や銀、色とりどりで自由にしています。やはり試合で履くトランクスに一番協賛メリットがあります。入場時のガウンもありますね。多い選手はそこにもズラリとスポンサー名が並びます。
成長のために試合機会の増加を
二宮: なるほど。新生K-1 の立ち上げから5年目を迎えます。ここまでの手応えは?
宮田: 競技展開とイベント展開、どちらにも挑戦していく。そしてアマチュアもあって、ジム展開もある。そこを理念としてやっているので、現在はブレずにできているかなと思います。
今矢: 持続可能な仕組みにしていくと?
宮田: 2013年のスタート時に掲げたスローガンは「100年続くK-1」です。今年3月の大会はビッグイベントとして「K’FESTA.1(ケーズフェスタ・ワン)」という大会名称としましたが、来年春の「K’FESTA.2」開催も発表しました。その間にも6月、9月、11月に8000人規模の大会を開催して、しっかり熱を持続させていきます。12月には初の大阪大会(12月8日・エディオンアリーナ大阪)の開催も決まっています。背伸びはせず、現状を冷静に見極めて継続的にイベントを開催していきます。
二宮: 宮田さんは「長時間の興行は好きじゃない」とおっしゃっているそうですが、それはお客さんが帰りに食事やお酒を飲みに行くことを考えている。余韻を楽しむという意味でもとても大事なことですよね。
宮田: 収益を上げるために試合数を多くしてしまうことは避けたいですね。後楽園ホールで開催している「Krush」は18時スタートで20時45分終了を目標にしています。
二宮: 人間の集中力が続くのは約3時間と言われていますからね。
宮田: 3月10日の大会は予定通り20時45分ぐらいに終了しましたが、2月の大会はKOが多くて20時10分ほどで終わったんですよ。その時に気付いたのは、みんな笑顔だったことです。激しい試合が観られてお客さんは笑顔だし、会場を貸してくれている後楽園ホールさんのスタッフも笑顔。選手たちもゆっくり帰り支度ができるので、良かったです。特に後楽園ホールでは大事にしています。3月21日の興行は急遽トーナメントが入ったことで試合数がとても増えましたが、なんとか21時前には終えることができました。もし長くなったら、来年開催した際にお客様から「さいたまの試合は長いからな」と敬遠されてしまう恐れがある。
今矢: K-1 における現状の課題はありますか?
宮田: プロイベントでいうと、もっと大会数を増やしていければと思っています。今年は「K-1 」が5回、「Krush」が13回、「KHAOS」が3回、トータル21大会でしたが、もっと選手層を厚くして、若手がキャリアを積めるように小さな会場でも開催したい。年7回のアマチュア大会を含め、試合の機会を増やすことこそ一番大事かなと思っています。
<宮田充(みやた・みつる)プロフィール>
1968年3月6日生まれ。高校卒業後、全日本プロレスを経て、90年に全日本キックボクシングを主催するオールジャパン・エンタープライズに入社した。09年、全日本キックの解散に伴い、Krushを主催する株式会社グッドルーザーを設立し、代表を務める。格闘技プロモーターとして実績を積み、16年よりK-1プロデューサーに就任した。
(構成・鼎談写真/杉浦泰介)