サッカー日本代表は、ベルギー遠征でマリ代表とウクライナ代表と親善試合を行いました。結果は1分け1敗。それ以上に残念だったのは、ハリルジャパンは何をしたいのか不透明なことでした。ロシアW杯に向けて、不安が募りますね……。

 

 この2試合を通じて、思ったことは「何がしたいの?」ということです。今回、招集された選手の不甲斐なさはどうしても目についてしまいました。ロシアW杯が間近に迫っていながら、チームができていない。本大会で同組のセネガルとポーランドを想定した試合でしたが、本家より格下の相手に引き分けや同点ではいけないわけですよ。

 

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が率いる日本代表は「こうやって戦いたい、こうしたい」という姿勢を見せてくれたでしょうか。僕にはそうは見えませんでした。この遠征で「今までの3年間はなんだったのだろう」と思ってしまいました。

 

 選手は監督のコンセプトを体現しようとします。そうしないと、自分が選ばれません。ですが、監督が「右」だと言っても選手が「いや、今は左だ」と判断したら左に行くべき。ゲームの中で臨機応変に対応しないといけないですよね。速攻なのか、遅攻でしっかりキープするのかのメリハリもなさすぎます。

 

 監督は縦に速いサッカーを志向しているようですが、マリ戦のように、“何となく”ボコボコ蹴らせてしまうのは得策とは言えません。「代表でこのレベル?」と思ってしまうほどです。蹴ってダメならパスで崩す。攻撃に緩急をつけるといった工夫がなかった。

 

 鹿島アントラーズ流で言えば、まずしっかり守る。それが重要です。0点に抑えれば負けることはないですから。強固なDFラインの構築はメンバーが変わり過ぎるとできないのにも関わらず、これまでDF吉田麻也(サウサンプトン)の相方を固定してこなかった。DFラインと心中するくらいの覚悟でチームづくりはしないといけないと思います。

 

 これを機会に、選手同士でぶつかる、選手と監督でぶつかるなら今しかないと感じます。不平不満ではなく、あくまでチームが1つになるための議論は大事です。逆に、ここで悪い膿を出しておかないと本当に手遅れになってしまいます。

 

 僕にも似た経験があります。ドーハの悲劇の時です。あの時はなかなかチームが1つにならなかったのですが、最後の最後で「オレたちは何をするために、ここに集まっているんだ!」と話し合いました。「オレたちも、ハンス・オフト監督だってW杯に出たいと思っている。だから、オフトの考えるサッカーで1つにまとまろう」と結束を深めました。今の代表は、1つになりきれていない印象があります。このベルギー遠征で、選手間、もしくは選手と監督の間で“何か”が起こってくれていればいいなと思います。

 

パス&ステイでは困る!

 

 さらに、もっと根の深い課題も浮き彫りになりましたね。サッカーにおける共通認識がないのです。困ったときに、原点に戻ることが大切なのですが、今の日本代表には原点やコンセプトがないように感じます。たとえば、流れが悪いときは「パス&ゴー」を意識してみるなど、シンプルなものでいいのです。僕らみたいなおじさんになると、動けないから「パス&“ステイ”」になってしまいますが(笑)。彼らは現役なんだからステイせずにきっちりと動いてほしい。パスを出したらどこに動くのか、それが空走りになっても相手を引きつけることができますからね。

 

 シンプルでわかりやすい共通認識があるのとないのとでは雲泥の差です。これは、日本サッカー協会の監督選びも関係していると思います。4年ごとに監督が代わると、代表のスタイルまでも変わってしまう。今回の遠征で「日本のサッカーはこれだ」というものを築き上げないといけないなと、痛感しました。

 

 ネガティブな要素が目立った今回の遠征ですが、MF柴崎岳(ヘタフェ)とFW中島翔哉(ポルティモネンセ)は数少ない収穫でしたね。柴崎は戦う姿勢を見せてくれました。鹿島にいたときは「僕ちゃん」的なおとなしい印象が強かったですが(笑)。「ガツガツいってるなぁ」と逞しさを感じました。

 

 中島も面白い存在ですね。Jリーグにいたときは「ボールを持ちすぎ」という声もあったようですが、僕は、ドリブル小僧はドリブル小僧でいいと思います。日本はそういう能力や個性を評価してあげない傾向がありますよね。彼がドリブルで仕掛けることで相手のDFが2人、3人と寄ります。そこで中島が相手をいなすようなパスを出せればより効果的です。

 

 仮に一緒にプレーをしていて、彼がボールを持っているとします。僕がサポートに入って彼の横に動いているのに、ボールを奪われたら「なんで、パスをださないの!」と口では言います(笑)。言いますけど、内心では「その仕掛ける姿勢を大事にしろよ」と思います。積極的に仕掛ける彼のようなタイプは日本にとってアクセントとなると思います。今後に注目ですね。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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