(写真:プロデビュー後、無敗の那須川)

 いま、キックボクシング界は人気再興への最大のチャンスを迎えている。だが、それをフイにしそうな状況にもある。もし、このチャンスを逃してしまうのであれば、それは、とても不幸なことだと思う。

 

“神童”那須川天心。

 この19歳の若者は、ただ者ではない。

 

 2014年7月、15歳の時に『RISE100』でプロデビューを果たすと、以降、キックボクシングルールの試合で24連勝(19KO)。この中には、現役のムエタイ王者(ルンピニースタジアム・スーパーフライ級王者)ワンチャローン・PKセンチャイジム、井岡一翔を破りボクシングIBF世界フライ級王座防衛を果たしたアムナット・ルエンロン、元ムエタイ王者(ルンピニースタジアム・スーパーバンタム級王者)スアキム・シットソートテーウといった強者との闘いも含まれている。

 

 バックスピンキックを顎に決めてKO勝ちしたワンチャローン戦は、衝撃の一語に尽きた。スアキム戦では、フィジカル、テクニックのみならず、メンタルの強靱さにも驚かされた。

 

 今後の闘いも、すでに2つ先まで決まっている。

 5月6日にはマリンメッセ福岡で開かれる『RIZIN.10』で中村優作と、6月17日には千葉・幕張メッセでの『RISE125』でムエタイ戦士ロッタン・ジットムアンノンと対戦するのだ。勢いそのままに連勝記録を伸ばすことが期待される。

 

 さて、そんな那須川に、いま求められていることは何だろう。

 日本人初のルンピニースタジアム王者になることか?

 プロボクシングに転向しての世界王座獲得を目指すことか?

 二刀流ファイターとして、総合格闘家としてのトップになることか?

 

 誰もが望むカード

 

 いずれでもないだろう。

 ファンが観たいのは、やはり武尊との一騎討ちである。

 

 那須川天心vs.武尊。

 無敵の進撃を続ける“神童”と“3階級制覇K-1王者”はどっちが強いのか?

 そして、いかなる闘い模様がキャンバスに描かれるのか?

 ファンの興味は、ここに集中しているのだ。

 

 加えて、この2人の対戦がテレビ地上波放送のゴールデンタイムで流されたならば、一気にキックボクシング人気に火がつく可能性がある。

 

 那須川、武尊はともにキックボクシングファンに認知された人気ファイターだが、その2人が互いのプライドをかけて拳を交えることで、キックボクシングの面白さがお茶の間に浸透するはずだ。

 

 現在、那須川は『RIZIN』『RISE』などを、また武尊は『K-1』を主戦場にしているために、マッチメイクが簡単にはいかない状況にある。だが、それを乗り越えて組むべきカードであることは多くの関係者も理解しているところだ。

 

 那須川も、武尊も、ともに対戦を望んでいる。

 関係者の英断、そして夢のカードの実現を切に願う。キックボクシング界の明るい未来のためにも、この千載一遇のチャンスを逃してはならない。

 

 最後になったが、キックボクシング元MA日本ミドル級王者だった港太郎が、4月11日、多臓器不全のため亡くなった。享年46。私が『ゴング格闘技』誌を編んでいた時に港は山木ジムからデビューし、吉鷹弘、ラモン・デッカー、マンソン・ギブソンら強豪選手を相手に数々の激闘を繰り広げた。観る者の心を揺さぶるファイターだった。心より御冥福をお祈りします。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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