元日本代表監督のトルシエが仏メディアの取材に対し、ハリルホジッチ監督が日本でやろうとしたことは、バルサの選手に「守備をしろ、デュエルで勝てる集団をつくれと言っているようなもの」と答えたそうだ。

 

 なるほど、もしバルサでそんな指示が出されれば選手たちは全員がソッポをむくだろうし、メディアやファンも強烈なアレルギー反応を示すだろう。今回の解任騒動にまつわるどんな識者のコメントよりも、ストンと腑に落ちた。

 

 さて、選手たちにとっては大チャンスの到来である。代表で不遇をかこっていた選手はもちろんのこと、これまではなも引っかけられなかったような立場の選手であっても、ここは色めき立っていい。実績はもちろん大切だが、ロシア行きのチケットに関しては、ほぼ全員分がリセットされたと考えていい。

 

 W杯を目前に控えての監督交代は、もちろん日本にとって初めてのこと。教訓やノウハウを過去から引っ張ってくることはできない。さらにいうならば、いかに有能な監督であったとしても、いまから本大会までに緻密な連携を構築するのはほぼ不可能である。

 

 結果的には壁にはね返されてしまったとはいえ、4年前の日本代表には相手を崩すためのいくつかの共通イメージがあった。それは、ザッケローニ監督が時間をかけて少しずつ積み上げたものだったが、今回は突貫作業で大会に臨まなければならない。

 

 特に攻撃面において求められるのは、より強力な、あるいはより特徴的な個になってくる。

 

 いうまでもなく、ここは日本サッカー界が抱える最大の弱点でもある。大きな欠陥のある選手は少ない代わりに、これといった武器を持った選手も少ない。このあたりの傾向は、自動車の世界とよく似ている。

 

 ただ、日本の自動車産業は徹底した品質管理によって故障が少ないという大きな武器を持っているが、いまの日本サッカーは間違っても“故障=ミス”が少ないと言えるような状態ではない。小気味よくダイレクトパスをつなぎ、滑らかなサッカーを展開していたのは過去の話である。

 

 となれば、何としても一芸に秀でた選手に出てきてもらうしかない。ドリブル番長。空の王者。求められるのは、そんな選手である。幸いなことに、そうした選手が皆無なわけではない。

 

 あとは、中盤の大黒柱か。西野監督が結果を出したガンバには遠藤が、森保コーチのサンフレッチェには青山がいた。中盤に軸となる選手をおくのが好きな首脳陣になった以上、中盤の構成はハリル時代とはまた違ったものになるだろう。

 

 なんにせよ、ここからはスプリント勝負である。所属チームで突出した結果を残せば、大逆転だってありうる。約6週間後に訪れる最終メンバー発表は、日本サッカー史上、もっとも劇的でもっとも意外性に満ちたものになる――そんな気がしてならない。

 

<この原稿は18年4月19日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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