錦城護謨株式会社はユニバーサルデザインの屋内専用歩行誘導ソフトマット「HODOHKUN Guideway」(歩導くんガイドウェイ)を製造している企業だ。パラスポーツとの関わりも深く、競技団体や大会などに協賛・協力している。同社のパラスポーツに対する取り組みや持続可能なユニバーサルデザインへの思いを、太田泰造代表取締役社長に訊いた。

 

伊藤数子: 御社の主な事業を教えていただけますか?

太田泰造: 社名の通りゴムに関する事業がメインで、主にゴムの部品製造を行っています。スポーツ関係で使われているゴム製品でいうと、たとえばミズノさんのトップアスリート向けのキャップは当社が成型したものです。他には水泳用のゴーグルのゴムの部分や自転車のブレーキシューなどを造っています。どちらかというと競技者向けの製品が多いですね。

 

二宮清純: 本業のゴム製品開発・製造だけでなくパラスポーツの支援にも積極的に取り組んでいますね。

太田: 弊社では日本ブラインドテニス連盟や、フロアバレーボール大会、日本身体障がい者水泳選手権、車いすテニスの国際・国内大会などに協賛・協力しています。実はスポーツ庁がパラスポーツ団体への支援を推進していまして、この事業に企業として参加させてもらっているんです。昨年7月にはスポーツ庁の鈴木大地長官から感謝状をいただきました。

 

二宮: 御社のゴム製品で培われた技術から生まれたのが、ユニバーサルデザインの誘導路「歩導くんガイドウェイ」。そのきっかけは?

太田: あるご縁で、この商品の原型を考案された視覚障がいの方を紹介していただきました。“現在一般に見かける点字ブロックは視覚障がいのある人には便利ですが、車いすの方やベビーカーを押している人にとってはデコボコが段差となり、移動のじゃまになるケースがある。視覚障がいのある人だけでなく、いろいろな方に配慮したものを創れないか”と考えていたそうです。そのお話を聞いたとき、“誰にとってもバリアーにならず安全に誘導することができる”というコンセプトにすごく共感しました。私どもの得意なゴムの技術でより良いものを実現できないだろうか、というのが「歩導くんガイドウェイ」開発のきっかけです。

 

二宮: 街中の施設で見かける点字ブロックとは何が違うのでしょうか?

太田: 点字ブロックはコンクリートや金属製などですが、「歩導くんガイドウェイ」はゴムでできています。段差がほとんどない、カラーリングが豊富、設置が簡単という特長があります。

 

「歩導くん」とは?

 

二宮: なるほど。まずは色の多さに驚きます。点字ブロックは主に黄色ですが、「歩導くんガイドウェイ」は様々なカラーリングがありますね。

太田: はい。なぜかと言うと、床が白いと黄色は同系色なので見えにくいんです。必ずしも黄色がいいわけではなくて、濃淡がないといけない。多彩なカラーリングはデザイン性にこだわる方にも対応できます。黄色のブロックだと建物によっては景観を損なう場合もありますから、ニーズに合わせて色を選択できることも大事だと思うんです。

 

伊藤: 銀色の点字ブロックもグレーや白の床に敷かれると、ほとんど見えないと聞きます。設置する場所に応じて、たくさんの色が選べることはとても良いことですね。

太田: ゴムであることで実現できる特長もあります。踏んだ時の感触、白杖を突いた時の音の違いで判別できるようになっています。点字ブロックは凹凸がありわかりやすいのですが、障がいは千差万別です。

 

二宮: 確かに、「歩導くんガイドウェイ」はほとんど段差がありませんね。

太田: 床との段差は1ミリ程度の「歩導くんガイドウェイ」は視覚障がいのある人だけでなく全ての人に配慮した製品です。たとえば車いすの方が点字ブロックの上に乗ると段差があるのでガタガタ揺れる課題がありました。それでは腰や首に負担がかかってしまう。段差の少ない「歩導くんガイドウェイ」なら車いすの方が通行する時も負担になりません。

 

二宮: 点字ブロックは濡れていると滑る時があります。ゴム製の「歩導くんガイドウェイ」はどうなのでしょう?

太田: 「歩導くんガイドウェイ」は濡れても滑りにくさは変わらないのが特徴です。そういった安全性に配慮した製品になっています。

 

二宮: その他の特徴は?

太田: 例えば災害時には、避難所で視覚障がいの方がトイレへ行くときの誘導路や、場所分けの仕切りとしても再利用いただけます。また蓄光タイプのガイドウェイがあるのですが、それでしたら地下通路で停電した際にガイドウェイが光り、避難の補助として機能します。平時の誘導だけではなく、有事の際に様々な場面で使うことが可能です。

 

二宮: “一石二鳥”どころか、三鳥、四鳥ですね。

伊藤: 「歩導くんガイドウェイ」は視覚障がいのある人だけでなく、いろいろな人にとって便利なユニバーサルデザインなのですね。

太田: 既存の施設の多くが障がい当事者目線で造られていないために障がいのある人が気軽にスポーツをできない現状があります。既存の施設でも弊社の「歩導くんガイドウェイ」は簡単に設置できますので、多くの方がスポーツをする、観る機会を増やすことに繋げられます。スポーツは参加するとすごく気持ち良くて、楽しいものです。弊社は皆様にスポーツをする、観る喜びを共有していただきたい。これからもユニバーサルデザインに基づいた安心・安全なものづくりに取り組んでいきます。

 

(後編につづく)

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太田泰造(おおた・たいぞう)プロフィール>

1972年生まれ。大阪府出身。1996年、近畿大学商経学部卒、富士ゼロックス株式会社入社。2001年10月に退社し、錦城護謨株式会社入社。土木事業部長、専務取締役を経て、2009年10月に代表取締役社長に就任した。同社で安心・安全なものづくりに取り組んでおり、歩行誘導ソフトマット「HODOHKUN Guideway」は世界三大デザイン賞のひとつ「iF Design Award 2016」の金賞を受賞するなど海外で高い評価を受けた。


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