(写真:第1戦ではレブロンの鬼神のパフォーマンスも報われなかった Photo By Gemini Keez)

 しばらく語り継がれる凡ミス――。2018年のNBAファイナルが大方の予想通りにゴールデンステイト・ウォリアーズの勝利で終わったとすれば、クリーブランド・キャバリアーズ(以下、キャブズ)のファンとメンバーは第1戦の第4クォーター終了間際のプレーを悔やむことになるのだろう。

 

 米メジャースポーツ(MLB、NBA、NFL、NHL)史上初の4年連続同一カードになったNBAファイナル。もはや新鮮味がないのは事実だが、それでもこのマッチアップこそが現代最高のカードであることは間違いない。

 

 現役ベストプレーヤーの名をほしいままにするキャブズの大黒柱レブロン・ジェームズと、近年最強チームであるウォリアーズの対決。5月31日にゴールデンステイトで迎えた第1戦は、その魅力を象徴するような大接戦となった。

 

(写真:最終決戦を迎え、オラクルアリーナのテンションの高さは変わらず)

 最終クォーターも残り4.7秒の時点で、107-107の同点。ここでキャブズのジョージ・ヒルが外したフリースローのリバウンドをJR・スミスが掴み、すぐに逆転のシュートを狙えるはずだった。しかし、スミスは何を思ったか約4秒の間にシュートを打つことなく、そのままドリブルでチャンスを潰してしまう。このプレーで命拾いしたウォリアーズはオーバータイム(延長戦)では17-7とキャブズを圧倒し、そのまま逃げ切り勝利を挙げたのだった。

 

「JRが何を考えていたのかは僕にはわからない」

 キャブズの大黒柱、レブロン・ジェームズは試合後に憮然とした表情でそう語った。もともと集中力散漫になりがちがスミスは、勝っていると勘違いしたのか。本人が主張している通り、ただタイムアウトの声がかかるのを待っていたのか。答えはほぼ間違いなく前者だが、ともあれ、重要なのはキャブズが目の前にぶら下がっていた勝利を掴めなかったことである。

 

 絶対王者に大番狂わせなるか

 

(写真:第1戦で膝を痛めたトンプソンだが、大事には至らなかったようだ Photo By Gemini Keez)

 もともと今シリーズの下馬評は完全にウォリアーズに傾いている。ESPN.comのプレビューでも全24記者がウォリアーズを勝者に選び、そのうち16人が5戦以内の短期シリーズになると見ている。筆者の周囲にもキャブズ勝利を予想するファン、関係者は文字通り皆無なのが現実だ。

 

 ケビン・デュラント、ステフィン・カリー、ドレイモンド・グリーン、クレイ・トンプソンという4大スターを擁するウォリアーズにも昨季のような鋼の強さはなく、ウエスタン・カンファレンス・ファイナルではヒューストン・ロケッツの前に大苦戦を強いられた。それでもレブロンに負担がかかりすぎのキャブズと比べ、戦力は1枚も2枚も上。キャブズが今シリーズを長期戦にできるとすれば、ウォリアーズの本拠地で行われる最初の2試合のうちの1戦に勝ったときという見方が多かった。レブロンがプレーオフでの自己最多となる51得点と大爆発した今回の第1戦こそが、その絶好機。そんな背景があったがゆえ、最後の最後で競り負けたことは余計に痛恨だったのである。

 

(写真:カリーのシュート力は今後もキャブズにとって脅威となりそう Photo By Gemini Keez)

 今後、シリーズの流れはウォリアーズに一気に傾きそうな予感もある。第1戦ではステフィン・カリーが29得点、ケビン・デュラントも26得点を挙げたが、チーム全体としては好調には見えなかった。逆に言えば、そんな状態でも勝ててしまうことが王者の強みでもある。

 

 今ポストシーズンでのウォリアーズには総じて緊張感が感じられないが、第1戦で肝を冷やした後で、今後は引き締めてくるだろう。この恐るべきタレント集団を相手に、キャブズが巻き返すためには何が必要なのか。

 

「今夜の僕たちは今ポストシーズンでも最高のプレーをしていた」

 キャブズにポジティブな材料があるとすれば、第1戦後のレブロンのそんな言葉は単なる身びいきには思えなかったことだ。仕事を果たしたのはエースだけでなく、第2スコアラーのケビン・ラブも21得点、13リバウンド。チームディフェンスも悪くなく、第4クォーター終了時点でスター軍団のウォリアーズを107点に抑えていたことは合格点と言って良い。

 

(写真:キャブズ巻き返しに向けてジェフ・グリーン<左>の働きも重要になる Photo By Gemini Keez)

 さらに望むべきものがあるとすれば、第1戦ではほぼ総じて不振だったシューターたちの精度向上だろう。超人レベルでプレーしているレブロンが作り出したスペースを活かし、カイル・コーバー(第1戦での3ポイントシュートは1/3)、ラブ(同1/8)、ジェフ・グリーン(同1/6)らがロングジャンパーを高確率で沈められれば、勝機は見えてくる。

 

 今回のファイナルでウォリアーズが敗れるようなことがあれば、1991年のマイク・タイソン対ジェームス・“バスター”・ダグラスの統一世界ヘビータイトルマッチに匹敵するような大番狂わせとして記憶されることになる。両者のタレント数にはそれくらいの違いがあり、第1戦をキャブズが残念な形で落としたあとではなおさらだ。

 

 しかし、レブロンが健在な限りは絶対ということはないのも事実。アンダードッグが健闘した方がシリーズは確実に盛り上がる。エースが大爆発すればほぼ互角に戦えることを初戦で証明したあとで、第2戦以降、全米のファン、関係者を驚かせるようなキャブズの頑張りに期待したいところだ。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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