日本ハンドボールリーグ女子4連覇中の北國銀行Honey Bee。昨シーズンは日本リーグ、全日本社会人選手権、国民体育大会の3冠を達成した。その安定した強さ、堅守を支えるのが、守備の要・塩田沙代である。昨シーズンからキャプテンを任され、闘志剥き出しのプレーで常勝軍団を引っ張っている。

 

愛媛新聞社

 

 

 

 

 ポジションはレフトバック(LB)。攻守での貢献が求められるが、特筆すべきは塩田の守備力だ。日本リーグではベストディフェンダー賞を4年連続で獲得している。172cmの長身を生かし、両手を広げて大きな壁になる。時には身を挺してゴールを守る。伝統的にアグレッシブで、運動量を生かして守る北國銀行のスタイルを体現するプレーヤーだ。

 

 日本代表のウルリック・キルケリー監督は「ファイティングスピリットとハングリーさは、非常に良いものを持っている」と評価していた。その期待値の高さは16年6月の就任以降、塩田をコンスタントに代表に呼んでいることからも窺い知れる。

 

 北國銀行の荷川取義浩監督は「守りに関しては日本でトップ」と絶大な信頼を寄せる。

「今年はオフェンス面でも期待はしていますが、まずディフェンスでチームをまとめることが彼女の役目。それに対して安定感もありますし、信頼度は高いです」

 

 攻守に渡る活躍を目指しているが、本人も守備にはこだわりがある。

「守らないと試合には勝てないというのは常に頭の中にあります。体格もありますが、動きながら運動量で守れるのは自分の武器やと思っている。ディフェンス力は常にどのチームが相手、どの大会であろうとも出せるように心がけています」

 

 チームメイトからの信頼も厚い。「塩田さんは機動力もあり、予測もすごい」と口にするピヴォット(PV)の永田美香は、守備の局面では塩田と連係して守備ブロックを構築する。センターバック(CB)の横嶋彩からは攻撃側の視点で、ディフェンダー塩田評を聞いた。「塩田さんは攻撃をしていてやりづらい相手ですね。当たりが強くて痛い」。味方からすれば頼もしく、敵からすれば厄介な相手ということだ。

 

 迷わないディフェンス

 

 ゴールキーパー(GK)の寺田三友紀が「指示もはっきりしているから、一言で終わる」と語るように、守護神との連携もバッチリだ。

「プレーに迷いがないのは、塩田の一番の武器やと思います。ディフェンスが迷うと、周りも私も迷わされる。ミスする成功する関係なく、はっきりプレーしてくれたら後ろも対応しやすいんです」

 

 塩田自身もその点は強く意識しているという。

「ディフェンスはいかに皆で協力するかが大事です。相手が目の前に来た時に“どうしよう”と弱気になってしまったら、隣の選手は不安になる。それで1人が迷うと、皆が迷う。絶対悪循環になります。高い位置で抜かれる分には味方もフォローできる。それで相手がパスを選択すれば、ミスのリスクも高くなる。周りを迷わせないためにはっきりいくというのは意識しています」

 

 北國銀行に移籍したのは2013年。チームが勝ち続けるようになったのも、塩田が入社してからだ。入社6年目の現在、その守りには磨きがかかっている。「北國銀行に来たばかりの頃は何もわからない状態でした。当時はプレーのことしか見てなかった。特にディフェンスは相手の性格や癖を観察し、その時の状況を見極める必要があります。例えば目立ちたい人は自分でシュートを打ってくる。メンタルが弱い人は1本外したら、パスをしてくる。そういうところも判断材料に入れながら、駆け引きをできるようになってきています」

 ここまで積み上げてきた経験が、読みの鋭さに繋がっている。

 

 今年3月に行われた日本リーグ決勝でも塩田の守備は光った。残り時間は2分を切ろうかというところ、北國銀行は広島メイプルレッズに21-20と1点リードしていた。北國銀行がディフェンスの場面で塩田が仕掛けた。“ここ一番でエースにパスを回してくる”。相手のボールをインターセプト。そこからのカウンターでチームは得点を加え、点差を広げた。両チームはその後、1点ずつ奪い、23-21で試合を終えた。北國銀行の4連覇を手繰り寄せたのは、塩田の読みの鋭さ、ボールへの執念が詰まったビッグプレーだった。

 

 現在は日本を代表するハンドボーラーの塩田だが、競技を始めたのは高校入学後と決して早くはない。小中学生の頃は主にバドミントンで汗を流し、ピアノや珠算を習っていた。ハンドボールの“ハ”の字も知らぬ彼女を変えた出会いとは――。

 

(第2回につづく)

 

塩田沙代(しおた・さよ)プロフィール>

1989年3月21日、香川県生まれ。高松商業入学後からハンドボールを始める。同校で全国高校総合体育大会など全国大会を経験。卒業後、実業団の香川銀行チームハンドに加入した。2010年に日本代表としてアジア競技大会に出場。13年、日本リーグの北國銀行へ移籍。14-15シーズンではプレーオフのMVPを獲得した。同シーズンからベストディフェンダー賞を4年連続で受賞するなど、守備力を高く評価されている。北國銀行では昨シーズンよりキャプテンを務める。ポジションはレフトバック。右利き。身長172cm。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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