優勝候補のブラジルの完成度は極めて高い。ネイマール(パリ・サンジェルマン)とフェリッペ・コウチーニョ(バルセロナ)がテクニックを駆使して相手守備陣をサイドから切り崩す。最後の仕上げは待望の“9番”タイプのガブリエウ・ジェズス(マンチェスター・シティ)が担う。テクニシャンは絶えず出現するが課題だったフィニッシャーにもようやく目途が立った。南米予選では10戦7ゴールを記録。嗅覚に優れ、ペナルティーエリアに侵入するタイミングが抜群だ。シュートのかたちも多彩で相手DFに的を絞らせない。

 

 この強力3トップは守備時もサボることなくプレスをかける。そして攻守両面において総合力の高いフェルナンジーニョ(マンチェスター・シティ)、パウリーニョ(バルセロナ)、カゼミーロ(レアル・マドリード)の中盤の3人がボールを奪い返す。

 

 テクニックを駆使したボール回しや状況に応じて手数をかけずにカウンターを仕掛けられるなど攻撃のバリエーションも豊富だ。まるでクラブチーム並みの仕上がりである。前回大会ではドイツに1対7と大敗を喫した“サッカー王国”の反撃が始まる。

 

 対抗にはスイスをあげる。このチームの攻撃を牽引するのは2人のレフティー。中盤の底でタクトを振るうグラニト・ジャカ(アーセナル)と右サイドアタッカーのジェルダン・シャキリ(ストーク)だ。ジャカは視野の広さと左足のキックで攻撃陣を自由自在に操る。スイスのリズムチェンジは彼が担っている。ミドルレンジからのシュートも得意としている。シャキリは169センチと小柄ながら重心の低いドリブルで右サイドを切り裂く。カットインからのスルーパスでチャンスを演出するプレーヤーだ。ヨーロッパ予選では9連勝を記録するなど安定感があるチームだ。

 

 残るはセルビアとコスタリカだが、前者を大穴にあげたい。セルゲイ・ミリンコビッチ=サビッチ(ラツィオ)は注目のMFだ。身長192センチ、体重82キロの恵まれた体格に柔らかなボールタッチで相手を翻弄する。ロシアW杯の活躍次第でメガクラブに移籍もあり得るタレントである。アンカーのネマニャ・マティッチ(マンチェスター・ユナイテッド)が絶対的存在として中盤に君臨。攻守全体のバランサー役を担う。彼らを軸に周囲の連携が高まれば面白いが、個人能力に頼りすぎる傾向があるのは不安材料だ。

 

(文/大木雄貴)

 

◎ブラジル

○スイス

▲セルビア

 コスタリカ

 

 王国の威信をかけて臨む21度目の祭典

 

 ロシアで21回目を迎えるW杯。全大会に出場しているのはブラジルのみだ。史上最多5度の優勝を誇るサッカー王国は4年前のリベンジに燃える。

 

 2014年、自国でのW杯は屈辱にまみれた。優勝候補と目されながら、準々決勝のコロンビア戦でエースのネイマール(当時バルセロナ。現パリ・サンジェルマン)がケガで戦線離脱。加えて守備の要チアゴ・シウバ(パリ・サンジェルマン)を累積警告による出場停止で欠いた準決勝のドイツ戦は1-7と大敗を喫した。“ミネイロンの悲劇”と呼ばれるほど失意に暮れたブラジル。2年後のリオデジャネイロ五輪でエースのネイマールを擁して悲願の金メダルを獲得したが、W杯の借りはW杯でしか返せない。

 

 サッカー王国と言われるブラジルだが、16年のコパ・アメリカはGL敗退。同年からスタートしたロシアW杯南米予選は2勝1敗3分けで、10カ国中6位だった。監督交代に踏み切り、人心掌握術に長けたチッチ監督就任後は10勝2分けの好成績でトップ通過を果たした。4節を残してW杯出場を決めており、開催国を除く今大会出場31カ国・地域中最速で、ロシア行きのチケットを手にした。

 

 現在もネイマールがエースであることに変わりはないが、彼だけに依存したチームではない。ネイマールが南米予選で6得点、ガブリエウ・ジェズス(マンチェスター・シティ)は7得点、パウリーニョ(バルセロナ)は6得点。フィリペ・コウチーニョ(バルセロナ)とウィリアン(チェルシー)は4得点を挙げ、満遍なくゴールを決めている。

 

 基本フォーメーションは4-3-3。ブラジルと言えば、個人技ばかりが注目されがちだが中盤の陣容は堅実だ。アンカーにカゼミーロ(レアル・マドリード)を置き、パウリーニョとフェルナンジーニョ(マンチェスター・シティ)とレナト・アウグスト(北京国泰)のうちの2人がインサイドハーフを務めると予想される。いずれもボール奪取能力、タテへの推進力に長けたプレーヤーたちである。中でもカゼミーロは、このチームの核と言ってもいい。

 

 今大会も優勝候補に挙げられる存在だ。グループリーグ(GL)は通過点としか見ていない。ブラジル国民が望むのはカナリア軍団がロシアの地で凱歌を奏でることのみ。求められるのは2002年日韓W杯以来の6度目の優勝だ。

 

 スイスは欧州予選10試合7失点。プレーオフも合わせれば8試合で無失点の堅い守りが特長だ。GKヤン・ゾマー(ボルシアMG)を軸に守備で大崩れすることはない。初戦で当たるブラジルを自慢のディフェンスで封じ込められれば、波に乗れるだろう。14年ブラジルW杯ベスト8のコスタリカも守りが売りのチームだ。レアル・マドリードの守護神ケイラー・ナバスは驚異的な反射神経でシュートを止める。5バックで固める布陣も前回と変わらず。とはいえ攻撃はブライアン・ルイス(スポルティング)頼みの感が強い。快進撃の再現は厳しいか。セルビアは欧州予選組をトップ通過したものの、強豪国のいない組分けに恵まれた。決勝トーナメントへの道のりは険しい。

 

◎ブラジル

○スイス

▲コスタリカ

 セルビア

 

(文/杉浦泰介)