「会長にしても西野さんにしても、“ハリル、問題があるぞ”と、なぜ一度として言ってくれなかったのか。一度として言われたことはなかった」

 

 

 解任されたサッカー日本代表前監督ヴァイッド・ハリルホジッチの“捨てゼリフ”だ。

 

 会長とは田嶋幸三日本サッカー協会会長、西野さん、とは前技術委員長で、ハリルホジッチに代わってロシアで指揮を執ることになった西野朗のことである。

 

 コミュニケーション不足を理由にクビを切られたハリルホジッチだが、それは自らと選手の間ではなく、自らと協会幹部の間だとでも言いたげだった。

 

 では選手間のコミュニケーションはどうなのか。

 

 最終メンバーの23人が決まるのは5月31日。仲間であると同時にライバルでもある。なかなか腹を割って話す気にはならないだろう。

 

 思い出すのは1997年10月の“アルマトイの夜”である。

 

 フランスW杯出場を目指す日本代表は敵地でカザフスタンと引き分け、窮地に立たされた。背に腹代えられなくなった協会は監督の加茂周を解任し、コーチの岡田武史を昇格させる。この経緯については4月27日発売号の小欄で詳述した。

 

 その夜、ホテルで選手たちによる飲み会が開かれた。音頭を取ったのはキャプテンの井原正巳である。

 

「加茂さんが更迭されたのはオレたちのせいだ。試合に出場していない選手もいるけど、今夜は酒を飲みながら、皆でいろいろなことを話そう」

 

 いわゆる、“無礼講”である。

 試合に出ていない選手は当然、フラストレーションを溜め込んでいた。

 

「カズ(三浦知良)さん、明らかにコンディション悪いですよね? オレが出場すればもっとできますよ」

 

 口火を切ったのはFWの控えだった城彰二である。アルコールの勢いも手伝って、つい本音が口をついた。

 

「確かにそうだと思う。あまりコンディションがよくないんだよ」

 キング・カズが珍しく弱音を吐いた。

「だが監督が(スタメンに)起用してくれる以上、オレは戦う。オレがダメだったら交代もあるはず。だから準備しておいてくれ」

 

「カズさん、わかっています」

 

 このように選手全員が本音を口にすることでわだかまりが消え、チームがひとつになっていったと城は語るのである。

 

 古典的な手法ではあるが、“飲みニケーション”の力を侮ってはいけない。

 

<この原稿は『漫画ゴラク』2018年6月8日号に掲載されたものです>

 


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