この原稿を書いている時点では、日本代表はオーストリアのゼーフェルドで事前合宿を行っている。

 

 

 本番9週間前に監督に就任したばかりの西野朗は突貫工事でチームづくりを行っている。

 

 5月30日に行われた壮行試合のガーナ戦では3-4-2-1のシステムを試した。0対2と完敗を喫したことで、逆に課題が明らかになった。本大会では攻撃力のあるチームに対しては左右のウィングバックを下げて5バックのようなかたちになる時があるかもしれない。しかし、この期に及んできれい事は言っていられない。

 

 ガーナ戦後、西野はこう話した。

「攻撃では長友佑都、原口元気、酒井高徳のウィングバックにポイントを置いている。中央でタメをつくって攻撃するかたちは、ある程度狙い通りにいった」

 

 事前合宿では4-2-3-1のシステムも試している。従来通りの4バックなら、選手の戸惑いも少ないだろう。指揮官は相手によって2つのシステムを使い分ける腹のようだ。

 

 ロシアW杯でカギになりそうな選手がいる。27歳にして初めて大舞台に臨む原口(デュッセルドルフ)である。

 

 先述したガーナ戦、西野は左サイドハーフが本職の原口を右ウィングバックでスタメン起用した。西野がしばしば口にする「ポリバレント」(多様性)の熟度を試したかったのだろう。

 

 さて、原口はどうだったか。1対1の局面でも臆することなくボールを奪いに行き、攻撃ではフリーランニングで相手の裏を突いた。

 

 以下は試合後の本人のコメント。

「ウィングバックで出る場合はもちろん守備から入るが、攻撃でも良いものを出したかった。狙っているかたちが出せたので感覚的には悪くない。もっと詰めていけば、さらによくなると思う」

 

 では4バックで臨む場合、原口に出番はあるのか。西野は右サイドハーフでの起用も視野に入れているようだ。

 

 原口が日本代表にとって欠くことのできない存在になったのは一昨年秋のアジア最終予選からである。

 

 周知のようにヴァイッド・ハリルホジッチ前監督が選手たちに要求したのは「タテへの速い攻め」である。ポゼッション(ボール支配率)を無意味なものととらえ、中盤でのボールの停滞を嫌った。

 

 ある意味、その優等生が原口だった。最終予選のタイ戦、イラク戦、オーストラリア戦、サウジアラビア戦と4試合連続でゴールを奪った。

 

 とりわけオーストラリア戦での先制ゴールは、アウェーゆえに価値があった。勝ち点でサウジアラビアと並んだ決勝ゴールも目に焼きついている。

 

 原口は浦和時代からドリブルでの突破力には定評があった。2014年にドイツでプレーするようになってから守備にも磨きがかかった。屈強な大男たちと伍するには強靭な体幹がいる。それを手に入れた27歳に、大きな期待が寄せられるのは当然である。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2018年6月24日号を一部再構成したものです>

 


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