サッカーW杯ロシア大会の“影の主役”は、今大会から導入された「ビデオ・アシスタント・レフェリー」(VAR)である。

 

 

 VARについて、おさらいしておこう。試合中の微妙な局面では、複数のカメラで撮影している映像をモニタールームでチェックし、主審に無線で伝える。その映像を主審はプレーが切れた際にピッチ外のモニターで確認する。なお主審の方から映像での確認を求めることもできる。

 

 整理するとVARが担う役割は①得点の有無、②PKの判定、③一発退場の判定、④警告や退場の人定――この4つである。

 

 とはいえ、VARに直接、判定を下す権限はなく、あくまでも最終的な決定権は主審が有する。「判定を手助けするシステム」というのがFIFAの見解である。

 

 VARの威力をまざまざと見せつけたのがE組のブラジル対コスタリカ戦だった。スコアレスの後半33分、ブラジルのエース・ネイマールがペナルティーエリア内でコスタリカのDFジャンカルロ・ゴンサレスと接触し、両手を広げ、大げさに仰向けに倒れ込んでみせた。

 

 直後に笛が鳴り、主審はすぐさまPKを宣告した。ネイマールの演技力の勝利かと思われた。

 

 ところが、である。人間は騙せても、“科学の眼”までは欺けなかった。VARによりPKは取り消された。南米流のマリーシアは通用しなかったのだ。

 

 誤審もサッカーの一部――。VARの導入を巡っては、こうした意見も、かなり存在した。

 

 W杯史上最大の誤審と言えば、1986年メキシコW杯、準々決勝でのディエゴ・マラドーナによる“神の手”か。このゲーム、アルゼンチンは2対1でイングランドに勝利し、決勝では西ドイツを3対2で破って2度目の優勝を飾った。

 

 ハンドを見逃したのは副審のボグダン・ドチェフというブルガリア人だった。亡くなる直前まで「彼は私の人生を台無しにした」とマラドーナへの恨み節を口にしていたという。神の手の最大の犠牲者だった。

 

<この原稿は『週刊大衆』2018年7月16日号に掲載されたものです>

 


◎バックナンバーはこちらから