14日、全日本卓球選手権大会が開幕した。今大会は全5種目での日本一が決まるとともに、4月に東京で開催される世界選手権団体代表の最終選考会を兼ねる。既に代表入りを決めているのは、男子の松平健太(早稲田大)岸川聖也(ファースト)、女子の福原愛(ANA)、石川佳純(全農)、田代早紀(日本生命)の計5名だ。出場枠は男女各5名で、男子は残り3枠、女子は2枠を巡って争われる。今大会のシングルス優勝者が世界選手権代表に内定し、その他は強化本部の推薦によって決まる。
(写真:選手宣誓をする昨年度2冠の丹羽)
 丹羽の連続2冠か、松平健太の初優勝か

 男子は白熱した覇権争いが展開されそうだ。ディフェンディングチャンピオンの丹羽孝希(明治大)、昨年の世界選手権ベスト8とブレークした松平健太、全日本を現役最多の5度制している水谷隼(DIOジャパン)、12年のロンドン五輪ベスト8の岸川の4人がその中心となるだろう。

 丹羽は昨年、高校生ながらロンドン五輪に出場し、全日本では松平健太と組んだダブルスと合わせて2冠を達成した。特にシングルスでは準決勝で松平健太、決勝で水谷を下しての優勝。男子卓球界に新たな時代の到来を感じさせた。

 大学に進学後は、学生としの大会に出場しながら、昨シーズンに引き続き、ドイツ・ブンデスリーガでもプレーした。所属する1部フリッケンハオゼンでは開幕から15連勝するなど、ITTFワールドツアーファイナルにも出場した。多くの試合を経験し、更なる成長を見せている。「この1年はすごく充実していたんですけど、3人(松平健太、岸川、水谷)と塩野(真人=東京アート)さんには成績が悪かったので、気持ち的には挑戦者でいれる。まずは最終日に残れるように挑戦していきたい」と謙虚な姿勢で王者は臨む。

 ただし、19歳の王者に死角はないのかと言われれば、そうではない。それは第1シード丹羽のトーナメントの組み合わせにある。丹羽のブロックには松平賢二(協和発酵キリン)という実力者に加え、塩野、村松雄斗(JOCエリートアカデミー)という丹羽が苦手とするカットマンと対戦する可能性がある。まずはこのヤマを乗り越えない限りは、連覇の道はない。

 丹羽のダブルスパートナーである松平健太にも、天皇杯獲得の可能性は十分にある。「毎年優勝を狙っている」という全日本。シングルスではいまだ優勝経験がない。15歳で世界ジュニアを制した後、横浜で行われた世界選手権でベスト16入り。一躍、注目を浴びた松平健太だったが、その後はなかなか結果が出なかった。ようやく花を開き始めたのが昨年。得意のブロックとサーブに加え、フィジカル強化が攻撃面での成長につながった。パリで行われた世界選手権ではマ・リン(中国)、ウラディミール・サムソノフ(ベラルーシ)を撃破し、ベスト8に入った。アジア選手権では銅メダルを獲得。飛躍の年となった。

 昨年の活躍により、世界選手権の代表には内定している。全日本の初タイトルを獲って日本のエースとして名乗りを上げるのか。トップシードの中では比較的与し易い相手が続く。順当に勝ち上がっていけば、準決勝では水谷と対戦する。5年前の決勝で敗れた相手に雪辱を果たせば、初の栄冠は見えてくるはずだ。
(写真:一列に並ぶ男子の優勝候補<左から丹羽、松平健太、岸川、水谷>)

 第2シードの水谷は5連覇達成後、2年連続決勝で涙をのんでいる。ここ2年は「非常に悔しい思いをしている」と雪辱に燃える。12月の代表選考会を制し、勢いに乗る岸川はトップシードには入っていないが、「全日本は特別な大会」と初制覇を虎視眈々と狙っている。7年連続で決勝進出中の水谷は「年々レベルが上がってきて、誰が勝ってもおかしくない」と語る今回の全日本。混戦必至の男子シングルスは16日から開戦し、丹羽らトップシードの選手は翌17日から登場する。

 女子エース対決

 一方の女子は、Wエースの直接対決が、今年も見られる可能性は高い。福原vs.石川は、ここまで2年連続の決勝カード。3年前は準決勝で相まみえており、その年は石川が勝利し、皇后杯を獲得している。ITTF世界ランキングも福原が9位、石川が10位と、ほぼ互角である。全日本女子の村上恭和監督など、大会前から2強が軸なると予想している者は多い。

 12年の初優勝以来、連覇中の福原は、3連覇が懸かる。昨年の大会は右ヒジの手術から明けて臨む復帰第2戦だった。決して万全とは言えない中でも、得意のバックハンドのドライブは冴え、見事に連覇を成し遂げた。

 パリでの世界選手権は初戦敗退に終わったが、6月のジャパンオープンでは日本人初の優勝を飾った。11月のドイツオープンでは準優勝するなど、昨年は完全復活と言っていいだろう。福原は「1年間を通して攻める姿勢を忘れないでいきたい」と、今年の抱負を語った。

 福原にとって「オリンピックより緊張する」という全日本。「このような舞台が1年の始めにあることは、その後を考えるとラッキーなことかなと思っています。一番緊張する大会で自分らしいプレーをして自信をつけたい」。福原は4月の世界選手権の代表には既に内定済み。新年に好スタートを切って、弾みをつけられるか。
(写真:開会式でカップを返還。「女王ではなくイチ選手として優勝を狙いたい」という福原)

 3年前の女王・石川は、2年連続で福原に苦杯をなめさせられている。ロンドン五輪ではベスト4に入った強打のレフティーは、全日本を準優勝後は2月のジャパントップ12で優勝。4月の韓国オープンで準優勝し、5月の世界選手権は3回戦敗退だったが、10月の東アジア競技大会では銅メダルを獲得した。いずれも福原を上回る成績を残した。

 シングルス一本で臨む福原に対し、石川は平野早矢香(ミキハウス)とロンドン五輪団体銀メダルペアとなる女子ダブルス、吉村真晴(愛知工業大)と組む混合ダブルスでもエントリーしており、最多で18試合をこなす可能性がある。今日出場した混合ダブルスでは2連勝。順当に勝ち上がっており、皇后杯奪還には、コンディショニングがカギを握りそうだ。

 女子シングルスは、優勝争いの他に次世代の選手たちにも注目が集まる。浜本由惟、加藤美優、平野美宇のJOCエリートアカデミー勢、そして伊藤美誠(スターツSC)だ。4人はいずれも中学生。中学3年の浜本は昨年のジュニア準優勝、中学2年の加藤は昨年一般の部でベスト16に入った。昨年まで小学生だった平野、伊藤のコンビはシングルスではランキング入り(ベスト16以内)を果たせなかったが、ダブルスでは快進撃を見せ、話題をさらった。今大会のシングルスでは平野以外の3人がシード権を獲得している。

 現在のWエースも10代の頃から全日本で活躍した。福原は中学1、3年時にベスト8、石川は中学2、3年でベスト4と、中学時代で既に日本のトップクラスと肩を並べていた。加藤や伊藤らは年齢的には、6年後の東京五輪では主軸となり得る存在。こういったホープにも目を向けられるのが、全日本の楽しみである。現代の覇権争い、次代のホープの飛躍、見どころ満載の全日本。女子シングルスは明日からスタートする。

【全日本選手権大会(一般の部)】

・14日(火) 混合ダブルス 1〜3回戦
・15日(水) 女子シングルス&男女ダブルス 1回戦、混合ダブルス 4回戦
・16日(木) 男子シングルス1〜2回戦、女子シングルス2〜4回戦、男子ダブルス2〜3回戦、女子ダブルス2回戦、混合ダブルス準々決勝
・17日(金) 男子シングルス&女子ダブルス 3〜4回戦、女子シングルス 5〜6回戦、男子ダブルス4〜5回戦、混合ダブルス 準決勝〜決勝
・18日(土) 男子シングルス 5〜6回戦、女子シングルス&男子ダブルス 準々決勝〜決勝、女子ダブルス 5回戦
・19日(日) 男子シングルス&女子ダブルス 準々決勝〜決勝

※会場はすべて東京体育館

(文・写真/杉浦泰介)