18日、卓球の全日本選手権5日目が行われ、女子シングルスは決勝で石川佳純(全農)が森さくら(大阪・昇陽高)をストレートで下し、3年ぶりに優勝した。男子ダブルスは高校生ペアの森薗政宗、三部航平(青森山田)組が初優勝。同シングルス6回戦では、前年度覇者の丹羽孝希(明治大)、3位の松平健太(早稲田大)が敗れる波乱があった。女子ダブルス5回戦は4連覇中の藤井寛子、若宮三紗子(日本生命)組、5年前の優勝ペア・平野早矢香(ミキハウス)、石川組が順当に準々決勝に進出した。
(写真:皇后杯を手にし、観客の声援に笑顔で応える石川)

 

 その瞬間、石川は瞳を潤ませた。第4ゲーム、10−9とリードした石川のバックハンドの打球を森が返し切れず、アウトとなった。3年ぶりの優勝を決め、石川は右拳でガッツポーズを作った。

 決勝の相手は、高校2年生の森。福原愛(ANA)との3年連続同一カードという大方の予想を裏切るものだった。森は準々決勝で平野をファイナルゲームで下し、準決勝では2連覇中の福原にストレート勝ちを収める大番狂わせを立て続けに演じていた。

 勢いに乗る森を相手に石川は序盤、苦戦した。森の威力あるボール、打球の回転にタイミングを合わせることができず、第1ゲームは7−10とゲームポイントを先に取られた。劣勢になりながらも、我慢の卓球。デュースに持っていき、結果的にこのゲームを14−12で取った。これが大きかった。

 石川は“取られるかな”と思った第1ゲームを手にしたことで、流れを掌握した。威力あるフォアハンドからの3球目攻撃が冴え渡り、次々に強烈な球を叩き込んでいった。第2ゲームを11−8、第3ゲームを11−5で連取した。

 そして迎えた第4ゲーム、9−6の場面で森の打球がネットにかかると、石川のマッチポイント。しかし、そこから3連続得点を許し、なかなか決めきれない。「あと1本で優勝と考えてしまい、少し弱気になった」という石川。ここでタイムアウトを取り、コーチに檄を飛ばされ気を引き締め直した。直後にポイントを取り、歓喜の涙を流した。

 石川は高校3年時以来の3年ぶり2度目の優勝。当時は「何も考えていなかった」という無欲の勝利だった。そこから2年は福原に決勝で敗れ、あと一歩のところで皇后杯を手にすることができなかった。「勝っても負けても絶対に引かない」と、攻めの姿勢を貫き、栄冠を掴んだ。

 4月末には世界選手権団体が東京で行われ、石川は日本代表として臨む。昨日の混合ダブルスでは決勝で敗れた悔しさをシングルスで晴らした。好スタート切った2014年を「飛躍の年にしたい」と語る。20歳のエースは、4月に弾みをつけるために「心強いペア」の平野とのダブルスで2冠を目指す。

 波乱続出の男子

 高校生の快進撃が目立った女子シングルスに続き、男子ダブルスでは64年ぶりに高校生ペアが優勝した。青森山田の森薗、三部組は、準決勝で前年の覇者である松平健太、丹羽組をストレートで下すと、決勝では昨年5月世界選手権の銅メダルペアの岸川、水谷組と当たった。

 昨年から4月からコンビを結成した2人、しかしインターハイでは優勝できなかった。目標はベスト4に置いていた森薗と三部だが、準決勝で「思った以上に戦えた」(三部)と自信をつけていた。「胸を借りるつもりで思い切ってプレーしよう」と臨んだ決勝は「オーラに惑わされずにプレーができた」と三部。持ち味の速い卓球で攻め続け、1ゲーム目は落としたものの、カウント3−1で制した。

「120%の力が出せた」と快勝を喜んだ森薗。一方で「まだまだ本当の実力だとは思わない。上を目指して頑張りたい」と気を引き締めていた。それでも結成して浅いペアながらの日本一、今大会で「自分たちでもこういうプレーができるんだ」(森薗)と、大きな自信を手にした。18歳と16歳のコンビは、来年の世界選手権出場を狙っている。

 ダブルスで敗れた松平健太、丹羽は、この日にあったシングルス6回戦でも星を落とした。昨年の世界選手権でベスト8に入り、アジア選手権では銅メダルを獲得した松平健太は、今大会優勝候補のひとりに挙げられていた。

 しかし、高木和卓(東京アート)のアグレッシブな卓球に押し込まれ、自らのリズムを作れなかった。「単調になることが多く、それを最後まで変えられなかった」を悔やんだ。7度目の全日本で、初優勝はまたしても届かず。天皇杯獲得は、来年へと持ち越しとなった。

 連覇を狙った丹羽は、吉田雅己(愛知工業大)に2−4で敗れた。中高は青森山田で同級生。対戦成績でも分があった。しかし、2ゲームを連取され、「焦った」という。ゲームカウント2−3まで迫ったが、最後も競ったゲームを落とした。「気持ちで押されていた」と、引いてしまった

 丹羽は松平賢二(協和発酵キリン)、塩野真人(東京アート)ら実力者揃うブロックだっため、調整は十分に積んできたはずだった。「昨年は充実していたが、全日本は難しい」と、守る側となって、このタイトルを狙う難しさを知った。昨年は18歳で初優勝、ダブルスとの2冠を達成した全日本だったが、今年は無冠に終わった。ここ2年はドイツでのプレーを国内と並行してこなしていたが、今年は日本一本に絞る予定だという。「来年は優勝できるように」。丹羽は既にリベンジに燃えていた。

(文・写真/杉浦泰介)