リーフラス株式会社は、全国41都道府県でサッカー、野球、バスケットボールなどのスクール事業を展開し、現在、小中学校の部活指導を41の自治体、累計で約1500校から受託している。2020年からスタートした名古屋市における小学校全校を対象とした部活動全般の支援事業は、全国から注目を集めている。

 

 

“ブラック部活”からの脱却

 

 2022年11月、長崎県内の私立高校で運動部の顧問を務める女性職員が学校側を相手取り、放課後や休日などの部活指導に対する未払い賃金支払いを求めていた訴訟は、学校側が労働時間と認め、解決金185万円を支払うことで和解が成立した。それまで学校側は残業代として、月額1万4000円の固定手当などしか支払っていなかった。このような“ブラック教育現場”は表面化していないだけで、まだ全国にいくつも存在し得る。

 

 教育現場における“ブラック部活”からの脱却に力を入れているのが、東京北区にある聖学院中学校・高等学校だ。2020年7月からリーフラスが部活動支援をしている。リーフラスは高校サッカー部、中高卓球部を皮切りに、現在は5つの部活の指導員を選定し、派遣している。

 

 同校の中高サッカー部顧問を務める日野田昌士(ひのだ・まさと)教頭が、その経緯を語る。

「私は今でも部活動の指導をやりたいのですが、社会科教諭としての仕事の他に、教頭として校内の調整業務などがあり、現実的に部活動をきっちり見ることができません。今後も部活動を教員だけで担当していけるのか。現在は先生たちの善意と努力の犠牲で成り立っているものがほとんど。その先生方が退職されたら、担当していた部活動は回らなくなってしまう。そこで部活のあり方・仕組み自体を変えようと、リーフラスさんにご相談したんです」

 

 聖学院では7、8年前に“働き方改革チーム”が発足し、教員たちにアンケートを取った。「どの業務が負担か」との質問に多くの者が「部活動」と答えたという。まずは2つの部活指導を外部委託するところからスタートした。

 

 

 日野田教頭によれば、指導者を外部に委託することに対する生徒たちの“アレルギー反応”は予想していたよりも少なかった。中には「先生よりもいい」との声もあった。業務負担が軽減された教員からもポジティブな反応が返ってきた。日野田教頭とともにサッカー部を担当している顧問は「自分は保健・体育科の専門であって、サッカーを教える専門家ではありません。生徒が成長するのが私たちの仕事。生徒たちが専門家に教わりたいのであれば、そちらの方がいいと思います」と話した。

 

 聖学院側がリーフラスに委託したのは、同社のスパルタ指導を一切、排除するという理念に共感したからだ。日野田教頭は語った。

「試合で勝つことは目標であっても、目的ではない。例えば試合に3つ勝って、辞める生徒がたくさん出てくるくらいなら、そのチームより勝てなくても誰も辞めないクラブの方がいい。試合に出られなかったベンチの子も『このクラブにいて良かった』と言えるようなクラブが理想です」

 

 現場の声も聞いた。サッカー部の指導員を務める佐久目龍一(さくめ・りゅういち)氏はリーフラス入社前に部活動やクラブチームでの指導経験を持つ。元教員の立場から教職と部活動顧問の両立の大変さを、身をもって知っている。

「部活動が負担になっていて苦しんでいる先生たちのことも現場で知っていました。今は指導員の立場として、少しでも先生方をお手伝いできればと思っています」

 

“一石三鳥”の関係

 

 他校に目を向ければ、業務が忙しく、部活動になかなか顔を出せない教員もいる。その場合、子どもたちだけで練習を行う部もあるという。佐久目氏は「安全面を考えても、大人がひとりいるだけでも違います。子どもたちは誰かが見ていると頑張りますし、声を掛けると喜びます」と話し、続ける。「私たちは子どもたちを部活動の時間しか見ていませんから、先生たちともコミュニケーションを取り、学校生活の様子を聞きます。逆にこちらからは部活動で頑張っている姿を先生たちにお話ししています」

 

 関口翔太氏は、2020年12月から聖学院中・高の卓球部を指導するようになった。元々、北区で卓球場『翔卓T.T.C』を経営している。コロナ禍で指導員に応募した。

「ウチのクラブにジュニアが来られない状態だった。友人に聖学院中学・高校が募集をしていることを聞き、すぐに応募しました」

 教員の負担減だけではく、地域の人にとっての働き口にもなっている。部活動支援は、一石二鳥どころか教員、生徒、指導員の“一石三鳥”になっている、と関口氏は言う。

 

 

 生徒にも話を聞いた。「教えるのが上手く、関口コーチが指導に入ってから僕個人もチーム全体も技術面で成長しました」とは卓球部の生徒。「一番不安だったのは、指導が厳しくて怖かったらどうしよう、と。でも大丈夫でした。今も楽しく指導を受けていますし、初めて指導を受けた日の帰り道に他の部員たちと『楽しくて良かったね』と話をしたのを覚えています」

 

 楽しさを優先するからといって、厳しさがないわけではない。「僕が失礼な態度をとった時に注意してもらったことがありました。そこは正直に言っていただけるのでありがたいです。注意を受けた時に納得できましたし、僕のために注意してくれたということも伝わりました」と卓球部の生徒は話した。

 

 日野田教頭は聖学院の部活動改革を「手段であって目的ではない」と語る。では、最終的な目的は何か。

「教員は、部活動、授業、担任という業務すべてを完璧にこなすスーパーマンばかりじゃない。部活の指導で輝く人や授業で輝く人がいる。前2つは苦手としていても担任業務を得意とする人もいる。教員の凸凹をもっと認められるようになれば、生徒の凸凹ももっと認められる社会になる。そうすればみんながキラキラ輝ける社会になっていくと思います」

 

 部活動の外部委託については、他校からの反応も良い。「延べ40校ぐらいの担当者が見学にいらっしゃった。そこから実際にリーフラスさんとつないで、本校と同じスキームを取っている学校もあります」と日野田教頭。理想とする「キラキラ輝ける社会」実現に向け、リーフラスと二人三脚で歩を進める。

 

(取材・文・写真/杉浦泰介)


◎バックナンバーはこちらから