「本気のベルギーに対抗できなかった」。敗軍の将がしぼり出した一言が、この試合の全てだろう。日本代表はまたしてもベスト8の高い壁にはね返された。

 

 後半の途中まで2対0とリードしていながら、アディショナルタイムも含め、残り25分で3つのゴールを決められた。かさにかかって攻め込むベルギーは、まさに“赤い悪魔”だ。FIFAランキングを額面通りに受け止める必要はないが、3位と61位。最後は地力の差が如実に表れた。それでもポット4の身分での日本の決勝トーナメント進出には、一定の評価が与えられてしかるべきだろう。

 

 期待値の低い船出だった。コミュニケーション不足を理由にボスニア出身の監督が解任されたのが本番2カ月半前。焼け火ばしと化したバトンを手渡された西野朗には、戦術を練る時間も選手の時価を見定める時間もなかった。だが、必ずしもそれは悪いことばかりではない。腹をくくった指揮官の立ち居振る舞いは、指示から迷いを消し去り、采配に凄味を与えていた。

 

 余談だが、選挙に負けた政治家が必ず口にする言葉がある。「時間がなかった」。失礼ながら、その政治家は仮に時間がたっぷりあったとしても負けていたと思うのだ。時間がないならないで、どう戦うか。西野はその手本を示してくれた。そして、それこそはJリーグ25年の財産ではなかったか――。というのも1993年にJリーグが誕生していなかったら、96年、28年ぶりに五輪出場を果たすことはできなかっただろう。もちろん西野が脚光を浴びた“マイアミの奇蹟”も起こり得なかった。その後、ガンバ大阪の監督に就任し、采配に磨きがかかることもなかった。個人的には代表監督は“地産地消”のフェーズに差し掛かっていると考えている。もう日本人でいいのではないか。

 

 西野の功績は、まだある。ポーランド戦での残り10分でのパス回しだ。もし同時刻にキックオフした同組のセネガルが同点に追いついていたら、W杯史上に残る悪手として西野采配は酷評されていただろう。攻めるなら攻める、守るなら守る。どちらが正しいのでもない。重要なのは指示を徹底することだ。そしてブレないことだ。それによりピッチに一糸乱れぬ意思統一がなされた。判断なら誰でもできる。監督は決断しなければならない。覚悟なきリーダーに運は味方しない。そのことを強く認識させられた2週間だった。

 

<この原稿は18年7月4日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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