サッカーロシアW杯で日本代表はベスト16という成績を残しました。選手、西野朗監督、スタッフたちはとても勇敢に戦ってくれたと思います。日本代表の戦いを振り返ってみましょう。

 

 決勝トーナメント1回戦の相手はFIFAランキング3位のベルギー代表でした。攻守において、タレントがそろっているチームです。ただ、DFに関しては組織としてそこまで統制が取れているというわけではなかった。隙はありましたね。

 

 相手の左サイドが攻撃的な選手だったため、その裏を突く作戦がはまったのがMF原口元気が決めた先制点でした。MF柴崎岳が出したスルーパスも完璧でした。あれ以上強くても、弱くてもあのパスは通りません。彼が司令塔としてゲームをコントロールしていましたね。追加点のMF乾貴士のゴールも素晴らしかったです。彼の得意の左サイドから右足で巻くようなかたちでした。彼の強みが活きた得点でした。

 

 しかし、ベルギーが本気になってから日本はバタバタと失点を重ねました。僕は今の日本代表に、あの時、打つ手はなかったと思います。ベルギーは190センチのMFマルアヌ・フェライニと187センチのMFナセル・シャドリを投入してきました。わかりやすい日本対策でした。リード時の残り時間の使い方とともに高さ対策も課題として残りましたね。

 

 何も問題はないパス回し

 

 グループリーグでの戦い方も少し振り返りましょう。まずはコロンビア戦。立ち上がりから勢いよく攻め立てました。その姿勢がPK奪取につながったのでしょう。ただ、前半は数的有利をうまくいかせなかった。敢えて片方のサイドにコロンビアの選手を引き付けてフリーの人間を多く作るといったことができませんでした。セーフティーなパスが多く相手を押し込めず、その点をハーフタイムで修正しました。柴崎が積極的に相手のDFラインの裏にボールを落としていました。彼の長所が存分に出た大会だった気がします。

 

 セネガルと引き分けて、迎えたポーランド戦。非常にデリケートな条件で迎えました。勝ち点、得失点差、得点数とセネガルとことごとく重なり、最後はフェアプレーポイントが勝敗を分けた。日本はポーランド相手に0対1で負けていましたが、パスを回して時計の針を進めました。世間ではこの戦い方が物議をかもしました。僕はルールに則ってやっているので、何も問題はないと思います。

 

 西野監督はMF長谷部誠を伝達役として途中からピッチに送り込みました。そして指示を徹底させブーイングが起こってもやり通した。西野監督も腹をくくった決断だったと思います。あれでよりチームがまとまったように僕は思います。目の前の戦いに敗れても絶対に決勝トーナメントに勝ち残る、という強い意志を感じました。

 

 大会を通して鹿島アントラーズファミリーの活躍が目立ちました。クラブOBの僕も嬉しいです。柴崎はものすごい勢いで成長の階段を駆け上がっています。鹿島に戻ってきてくれるのは、当分先になりそうです。今回のレギュラー組で唯一JリーガーだったDF昌子源もずいぶん成長しました。派手さはないですが、よく相手を抑えていたと思います。海外のクラブが獲得に動いてしまうか心配です。今回、メンバーに入ったものの試合出場が叶わなかったDF植田直通もベルギーリーグへの移籍が決まりました。アントラーズの主力選手ですから、中断あけのアントラーズが危うい(笑)。今いる選手たちの奮起に期待したいですね。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。