第857回 カタール開催に潜む「正常性バイアス」の罠

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 その差、実に1470倍である。今回のサッカーW杯の開催国ロシアと4年後の開催国カタールの面積の差だ。カタールの面積は、日本の秋田県を、やや狭くした程度。人口は約267万人だから、茨城県や広島県よりも少ない。

 

 アラビア半島東部、ペルシャ湾に突き出た小さな半島国家ながら、世界有数の豊かさを誇るのは地下や海底に眠る無尽蔵のエネルギー資源に依る。社会保障は万全で医療費や教育費に加え、電話代、電気代も全て無料だという。

 

 まるでユートピアを絵に描いたような国だが、光に影は付き物だ。主に建設現場で働く出稼ぎ労働者の労働環境は劣悪で、こちらは世界最低レベルと報告されている。W杯のスタジアムはそうした人々の手によって建造される。人種差別を禁じているFIFAが、カタールの労働現場での人権侵害を問題視しないのはダブルスタンダードではないか、との指摘が欧米の有力メディアには散見される。

 

 開催リスクは他にもある。地域大国のサウジアラビアやエジプトなどからテロ支援を理由に国交断絶を通告されたのは昨年6月のことだ。ドナルド・トランプ米大統領が敵視するイランとカタールは海底でガス田がつながっていることもあり、関係が深い。ドイツサッカー連盟は「テロを支援する国でW杯を開催するべきではない」とまで言い切った。

 

 サポーターも用心が必要だ。在カタール日本国大使館の手引きには、こうある。<女性はなるべく肌を露出する服、体型がはっきり現れる服などは避ける方がいいでしょう><男性も短パンやランニングシャツ等は避けるようにしてください><賭博はイスラムでは禁止されています><飲酒、酒類の製造及び販売は原則として禁止されています>。ブックメーカーとやり取りしているところを見つかりでもすれば、すぐに“お縄”である。

 

 そもそも、なぜ2022年はカタールだったのか。立候補した日本、米国、カタールなどの中で、比較的評価が高かったのは日本と米国で、カタールはハイリスク国の扱いだった。賄賂が投票に影響を及ぼしたのは後の調査で明らかになるが、不正によるツケの請求書は誰かが支払わなければならない。まぁ、何とかなるだろう。これまでの大会も何とかなってきた…。老婆心ながらFIFA全体が「正常性バイアス」の罠に陥っているようにも映る。

 

<この原稿は18年7月18日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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