「勇気や希望を届けたい!」

 7月初旬、愛媛県を含め西日本広範囲の地域において豪雨による大きな災害が発生した。河川の氾濫や土砂崩れ、ライフラインの途絶など、予想だにしなかった災害が私たちの故郷を襲った。今回の災害により、各所にて多くの人命も奪われ、日々の平穏な生活を失ってしまった人々も少なくはなく、心を痛めている。

 

愛媛新聞社

 

 

 

 

 私自身は幸いにも災害に巻き込まれることはなかったが、「友人の自宅や職場には影響が出ている」という情報を伝え聞いている。

 

 このような状況に際し、『被災した地域の皆様の少しでもお役に立ちたい』という思いから、愛媛FCの選手たちやスタッフが県内の被災地域に出向き、現在も支援活動を献身的に行っている。更には、ホームスタジアムでの義援金集めにも取り組んでくれている。彼らの善意は本当に有り難い。

 

 今はJ2リーグ戦の真っ只中、試合や長距離移動、また日々の練習などで体力を消耗していることは容易に想像できる。それにも関わらず、炎天下の厳しい環境の中、地域の復旧作業に汗を流してくれているのだ。

 

 私たちの故郷のため、身体を酷使し必死になって活動している選手たちには、感謝の気持ちでいっぱいである。

 

 愛媛FCによる支援活動が開始されて約1週間が経過した7月15日(日)、ホームのニンジニアスタジアムにてリーグ第23節愛媛FC対徳島ヴォルティスの一戦が行われた。

 

 サポーターは勿論のこと、今節は選手やスタッフにとっても、気持ちの入る「四国ダービー」である。加えて、被災地への思いを込めた重要な戦いとなった。

 

 試合前、両チームの選手たちと来場者全員で今回の災害により犠牲になられた方々へ謹んで哀悼の意を表し、黙祷が捧げられた。

 

 サポーターも「被災地域の希望になろう」という言葉を書いた白幕(横断幕)を掲出し、ダービーでの勝利を祈願し、全力の応援で戦いへと臨んだ。

 

 試合はフィジカルで上回る徳島に、終始攻め込まれるという苦しい展開となった。しかし、愛媛FCのDF陣が闘志溢れるプレーを見せ、随所で踏ん張り、相手に得点を許さない。

 

 特筆すべきは、GK岡本昌弘選手の神懸かったセービングだった。幾度となく愛媛のピンチを救ってくれた。攻撃陣も相手選手との接触を恐れず、気迫が感じられるアタックを繰り返す。

 

 なかなか得点チャンスを創り出せず我慢の展開が続く中、後半に入り44分が経過した。『全力で戦い続ける選手たちの疲労度も限界まできているのではないか』と心配した。だが、それでも勝利への執念なのか、彼らの気力は衰えることはなく再度、敵陣内で攻撃を組み立て始める。

 

 MF田中裕人選手やFW吉田眞紀人選手が敵陣ペナルティーアーク間際までパス交換でボールを進める中、愛媛FC、そして愛媛サポーターや愛媛県民皆の祈りが天に通じたのか、奇跡のような瞬間が訪れる。

 

 吉田選手が敵DFを背負いつつ、FW有田光希選手の足元へとパスを送る。ボールを受けた有田選手がゴール前へ向けてロビングのパスを供給。しかし、相手DFに当たり、再び有田選手の足元にとこぼれた。次の瞬間、有田選手はトラップしたボールのバウンドに合わせ、左足を鋭く振り抜いたいた。矢のようなシュートは、愛媛県民皆の思いを乗せ、低い弾道で一直線にゴールへと襲い掛かる。ボールはGKが伸ばした手の先を擦り抜け、ゴールポスト右にヒット! 跳ね返ったボールはゴールマウス内側へと吸い込まれた。大大歓声に包まれるスタジアム! 両腕を広げ、被災地に捧げる執念のゴールを全身でアピールする有田選手。そして、チームメイトと抱き合い喜びを分かち合った。

 

「ラララララララララララー! オオオオー!」

 サポーターたちのゴールを称えるチャントが鳴りやまない!

 

 試合終了間際での劇的な決勝点。その後アディショナルタイムに入り、有田選手によるワールドクラスのゴールの余韻が冷めやらぬまま、時間は過ぎ去りタイムアップ。終了の笛と同時に選手たちがベンチのスタッフに駆け寄り、肩を組み輪となり、喜びを爆発させる!

 

 サポーターも仲間たちと抱き合い、歓喜の雄叫びを上げた。最終スコア1-0で愛媛FCが3年ぶりに四国ダービーを制した。試合後、「四国ダービー・ウィナーズフラッグ」を受け取ったFW西田剛選手が、それを誇らしげに掲げる姿が、とても印象的だった。

 

 本当に感動的な試合だった。選手たちやスタッフ、そしてサポーター、愛媛県民がひとつになって手繰り寄せた勝利だった。

 

 今シーズンの序盤、成績が低迷し、監督の交代劇を経験した愛媛FC。チームを立て直す中、ホームタウンが災害に見舞われ、精神的にも肉体的にもつらい日々を過ごすことになった。それでも、逆境を跳ね返すかのように、新しい指揮官の下、粘り強く戦い、最後まで諦めない、「伊豫魂」とも称される愛媛FCのサッカーを、取り戻すことができたのだ。

 

 この勝利を通じ、被災地域の方々に向けて、勇気や希望を届けられたことと思う。決死の思いで挑んだ今節。愛媛の皆が、ひとつになれたこの感動を、いつまでも忘れないで欲しい。

 

「この度の災害により被害に遭われた方々におかれましては、心よりお見舞い申し上げます。皆様が、一日でも早く平穏な暮らしを取り戻せますよう、お祈り申し上げます」

 

<松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール>

1967年5月14日、愛媛県松山市出身。愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。

 

愛媛新聞社


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