(写真:日本代表経験者を多く揃え、日々練習の質は高い)

 創部4年目ながら日本女子水球界のトップを走っているのが秀明大学だ。目下、日本学生選手権水泳競技大会(インカレ)は3連覇中、日本選手権水泳競技大会は実質2連覇中(初優勝は秀明大のメンバー中心で構成された秀明水球クラブ)である。現役時代は日本代表候補にも選ばれた加藤英雄監督は創部元年(2015年)から指揮を執り、同年からの約3年間は女子日本代表監督も兼ねていた。17年のユニバーシアードでは日本初の銅メダル獲得に導いた実績を持つ。秀明大は切れ味鋭いカウンターを武器に日本水球界を席巻している。

 

 創部元年からの快進撃

 

 秀明大女子水球部が誕生したのは3年前の4月だ。創部のきっかけは一本の電話だった。13年9月、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催が決まった日のことだ。秀明大の系列校である秀明英光高水球部を30年指導していた加藤監督に、秀明学園の理事長から連絡が入った。

 

「高校水球に未練はあるか?」と理事長から問われ、加藤監督は水球から離れることも覚悟した。だが、理事長の本意は違った。

「これはあなたが『うん』と言わなければできない計画だけど、秀明大学で女子水球部をつくろうと考えている」

 

 その翌日、理事長と直接会って見せられたのが「秀明大学ウォーターポロアリーナ」の図面だった。

「これを見た瞬間に断るという選択肢はなかったです。東京オリンピック・パラリンピックが決まった夜に電話があったので、あの図面はもっと前から用意してあった。東京オリンピック・パラリンピックに便乗してつくったものじゃありませんから。理事長に『なぜですか?』と聞くと『皆に言われる。経営者としては暴挙だと。でも誰かがやらなければ女子の水球は変わらない』と、おっしゃっていました」

 

(写真:国内初の女子水球専用施設。代表の合宿地として使用されることも)

 15年5月に、日本で唯一、女子水球専用施設「秀明大学ウォーターポロアリーナ」が完成した。総工費は約13億円。3階建ての施設には屋内プールのほか、トレーニングルームも備えており、天候に左右されず練習場所に困ることはなくなった。

 

 加藤監督は秀明大の強さの秘訣をこう説明する。

「選手の意識が高いこと。それと環境ですね。水球専用プールがあることに加え、サポート体制が整っています。あとは練習の質。他のチームと特別違うことをやっているわけではないと思いますが、“質の高い練習をする”ということは常に考えていますね」

 

 選手の意識の高さは、加藤監督が植え付けたわけではないという。「私が変えたとは思わない。変えたのではなく共鳴したんです。私が考える世界と戦うための水球に共鳴したからウチに来たのでしょう」。加藤監督はユース世代の代表監督を務めたこともあり、その時の代表選手が創部1年目に8人集まった。

 

 水球はGKを含め1試合7人が必要となる。ギリギリの人数ではあるものの、創部1年目から大会出場は可能となった。ここから秀明大の快進撃は始まる。インカレでいきなり優勝して見せたのだ。秀明大初代水球部の1人、風間祐李(4年)は「(初出場初優勝は)狙っていました。私たちの代で獲れなかったら、その後、優勝したとしても“後輩たちが入ってきたから優勝できた”と思われる。それが嫌だったんです」と振り返る。

 

(写真:「加藤先生の水球が一番だと思っている」と語る小川)

 風間と同期の小川栞璃は、人数が少なくとも勝ち抜く自信があったという。

「加藤先生が日本代表の監督だったこともあり、ウチの大学の施設(「秀明大学ウォーターポロアリーナ」)で代表合宿を実施していました。だから代表選手たちと一緒に毎日のように質の高い練習を積めていた自信もあったんです」

 

 “伝家の宝刀”カウンター

 

 身長190cmの巨漢で、コワモテの加藤監督だが、選手たちからは「お父さん」「親戚のおじさん」のように慕われている。今年の春に入学した野々村悠名は「上から目線ではなく、自分たちと対等に向き合ってくれていると感じます」と口にする。

 

(写真:秀明大には「水球はボールゲーム」というこだわりがある)

 時には、プールサイドに怒号が響くこともある。「怒る時はメチャメチャ怒る。でも愛があります」とは小川。中学2年時に加藤監督と出会い、高校時代から直接指導を受けてきた風間は「ずっと変わらないですね。水球のことだけではなく、人としても見ててくれている。私たちはそうやって育てられてきました。ひとつひとつの言葉に愛情があります」と語る。

 

 その加藤監督は「カウンターに関して、水球界で私よりしゃべられる人はいない」と豪語するほど、秀明大の“カウンター水球”に自信を持つ。今や代名詞となっている“カウンター水球”は、秀明栄光高校の監督時代から世界と戦うために取り組んできた戦術である。高い位置でボールを奪い、速攻に転じる。相手の陣形が整わないうちに得点のチャンスをつくることが狙いだ。

 

(写真:ゴール前では特に激しい攻防となる)

 水球は“水中の格闘技”と言われるほど激しいスポーツだ。選手がエクスクルージョンファウルを犯すと、20秒間の退水を命じられる。アイスホッケーなどと同じで、この退水時の攻防が勝敗のカギを握る。秀明大では数的優位、不利な状況に置いた実戦形式の練習をベースに取り組む。相手の脅威となるカウンターの切れ味は、日々のトレーニングから生み出される。

 

 秀明大の鋭いカウンターを可能にしているのは、水中での動きの速さだ。単純に泳ぐ速さだけを指しているのではない。水中でいかに機敏に動けるか。そのため秀明大は創部2年目からシンクロナイズドスイミング元日本代表の大金ユリカ氏をコーチに採用している。加藤監督によれば、「大金さんに選手たちを見させると、私には普通に巻き足をやっているように思えても、“左足が巻けていない”と言うんです」という。

 

 専門家を招いたことには理由がある。それは加藤監督自身の経験に依る。

「シンクロの立ち泳ぎの巻き足と、水球の巻き足は絶対的に違う。それは私が学生時代に感じたことです。大学の同期にロサンゼルスオリンピックで銅メダルを獲った本間三和子がいました。彼女の巻き足を見た時に驚いた。水中でのヒザの位置が高く、より自分の身体を水中から出しているので、可動域も全然違いました」

 

(写真:加藤監督の指導法は選手たちに自主性を求める)

 大金コーチが加わったことで、“カウンター水球”の威力は増した。創部2年目からインカレ連覇を達成。秀明大のメンバーを中心に構成した日本選手権も制した。その後も頂点に立ち続けた。翌年はインカレ3連覇、日本選手権では秀明大の単独チームとして日本一に輝いたのだ。

 

 今後は勝つだけではなく、「スピード感のある水球」で魅せることにもこだわっていくという。加えて、秀明大では水球クリニックを開くなど、普及活動にも取り組んでいる。加藤監督は「それが我々の使命だと思っている」と語る。言葉の端々に“水球愛”をにじませる57歳は、今日もプールサイドで檄を飛ばす。

 

 BS11では「ザ・チーム」(毎週金曜22時~22時30分)を放送中。<強いチームには勝利の方程式がある>をテーマに、スポーツの名門、強豪などに密着。それぞれのチームが持つ勝利への方程式を解き明かす。指導方法、練習方法、チーム独自のルール……。そのメソッドとは――。8月10日(金)の放送回では秀明大学女子水球部を特集します。是非ご視聴ください。


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