(写真:新生・川崎のキャプテンは篠山。明るいキャラクターも魅力のひとつ)

「超」をテーマにさらなる進化を目指す3シーズン目を迎えるB.LEAGUEで、今シーズンより生まれ変わったチームがある。東地区から中地区に復帰した川崎ブレイブサンダースだ。親会社がチームを長らく支えてきた大手電機メーカーの東芝からIT企業のDeNAに変わった。新生・川崎が目指すものとは――。

 

 DeNAはプロ野球・横浜ベイスターズでの成功例から分かるようにエンターテインメント性を重視する企業である。着手したのは“EXCITING BASKET PARK”計画。ホームの試合開催日に川崎市とどろきアリーナ周辺で様々なイベントを実施する。既に4画面センターハングビジョン、天井スピーカーの設置を決めている。観客席のどこからでも見逃したシーンのリプレーやハイライトを確認でき、試合状況をより把握できるようになった。

 

 例年以上にプロモーションを積極的に仕掛けている。開幕直前に出陣式、必勝祈願といったイベントを開催した。「選手にとっては間違いなくモチベーションになっていると思います」(北卓也HC)。キャプテンの篠山竜青は「(出陣式を開催した)ラゾーナ川崎でのイベントはチームでは2度目。その時と比べても見に来ている方は増えてきている。クラブとしての成長を感じつつ、まだのびしろもあると思っています」と語る。

 

 主力は残留。不動のエース

 

 9月24日のティップオフカンファレンスにチームを代表して出席した篠山は「今シーズンのチームを漢字一文字で表すなら?」との問いに「新」と書き記し、「心機一転。新たな心持ちで臨むシーズン」と説明した。

 生まれ変わった川崎。だが変わらないものもある。

 

(写真:チームの象徴とも言える北HC。NBL時代に2度のリーグ優勝に導いた)

 北HC体制は8シーズン目となる。現役時代は東芝一筋で活躍したSG。アシスタントコーチを経て、11年からHCを務めている。キャプテンは就任5シーズン目となる篠山が務める。北HCが「私がいる限りは彼がキャプテン」と口にするほど絶大な信頼を寄せている。

「話術も上手いですし、皆を巻き込んで、同じベクトルに向かわせる力を持っている。それは彼にしかできない」

 

 ホームアリーナも変わらない。練習場の東芝小向体育館、その近くにあるクラブハウスを継続して使用している。

「現場としてはそれほど変わっていない。何不自由なくバスケをできる環境にしていただいている」と北HCは感謝の気持ちを述べた。

 

(写真:得点源のファジーカス。真面目な性格で練習熱心として知られる)

 北HCを含めたスタッフ陣に加え篠山、辻直人、ニック・ファジーカスら多くの主力が残留した。今年4月に日本国籍を取得し、帰化選手となったファジーカスがチームの得点源だ。リーグ初代得点王はシュートエリアの広いオフェンスマシン。210cmの長身でリバウンドでもチームに貢献する。7月に左足首の手術をしたが、今シーズンも川崎の主柱であることに変わりはない。

 

 新加入選手はバーノン・マクリン、シェーン・エドワーズの外国人選手2人のみ。いずれもNBAでのプレー経験を持つ得点能力の高い2m超えのビッグマンだ。北HCはエドワーズを「ハンドリングの巧いオールラウンダー」、マクリンについては「インサイド中心に得点を重ねるタイプ。スピードもある」と評した。2人とも攻撃的な選手だが、「ベースはディフェンス」というチームカルチャーを彼らに落とし込む。

 

 今シーズンよりB.LEAGUEは外国人登録枠を緩和する。登録は帰化選手を含む3人から帰化選手を含めず3人。オン・ザ・コートも4Q合計6人だったのが、1Q2人へと変わった。北HCの見立てによれば、「各チームのQ間の格差はなくなってくる」。帰化選手ファジーカスのプレータイムにも注目が集まるが、指揮官は「ニックの起用法はあまり変わらない」と1人30分以上使わないとの方針を変えるつもりはない。

 

 継承される“北イズム”

 

「仕事に対してすごく厳しい。チームのためにそれぞれが考えてやることには寛容。僕らがチャレンジする幅を持たせてくれる」

 そう北HCを評するのは佐藤賢次ACだ。指揮官がHCに就いた11年からACを務めている。

 

(写真:居残り練習にも付き合う佐藤AC。選手たちの兄貴分的存在だ)

 言わば“北イズムの継承者”が佐藤AC。北HCも「将来HCになれる人材。バスケを知っている。分析もできて、僕が気づかないことを教えてくれる」と高く評価しており、プレシーズンのアーリーカップでは運営会社社長に直談判し、2年連続で指揮を執らせている。

「育成の狙いもあります。彼は僕と一緒に8年やってきて、いろいろ経験をさせてあげたい。NBAのサマーリーグもACに指揮を執らせることもあるので、それをすごくいいなと思っていたんです」(北HC)

 

 佐藤ACは「あそこの場に立ってゲームを見る経験は限られた人にしかできない」と“HC体験”を振り返る。

「考えることはたくさんありましたし、その間にゲームは進む。ACとしてすべき役割など、いろいろ気付けることもあったんです。本当にありがたい経験でした」

 

 ACの仕事は多岐に渡る。

「HCと選手との橋渡し役、スタッフとコミュニケーションを取って、チーム全体のバランスをとることです。これはもう1人のAC勝又穣次と連携してやっています」

 選手個々を成長させていくことも重要な役割だ。全体練習後の個人練習に付き合い、個々のスキルアップをサポートする。ビッグマンは勝又ACが担当。佐藤ACはガード陣およびパスやドリブルなどガードにまつわるスキルトレーニングに取り組んでいる。

 

 以前は分析も兼任した。現在は岩部大輝アナリストが担当している。彼をチームに誘ったのが、佐藤ACである。2人は16年のウィリアム・ジョーンズカップに日本代表スタッフとして帯同した際に出会った。「その時の対応力や適応力を見て声を掛けました」と佐藤AC。何度か食事に行くうちに、岩部も川崎に魅力を感じるようになり、昨年12月からアナリストとして川崎に加わった。

 

(写真:組織力重視のチームカルチャーを根付かせた北HC)

 岩部アナリストが感じる川崎の魅力は「風通しの良さ」だ。

「僕が出した提案をマイナス方向に否定しない。『もっと良くするにはこうした方がいいんじゃない』というアドバイスをくれます。『こうしろ』と言うわけではないので、僕にも考える余地を与えてくれる。北さんも含めてそういう環境にしてくださっているので、すごく有り難いですね」

 

 それを受けて佐藤ACは「“北イズム”ですね。言われた作業だけやっていると、怒られる。僕も北さんにそうやって育ててもらった」と胸を張る。川崎には脈々と受け継がれてきた伝統がある。

 

“新”から“信”へ

 

 アナリストは映像分析、スカウティングが主な仕事だ。練習、試合での模様をビデオ撮影し、編集する。

「選手、コーチが映像にアクセスしやすい環境づくりです。例えば選手が“調子が悪いから、シュートが入ってきているときの映像が見たい”と言われた時、すぐに対応できるようにしています」(岩部アナリスト)

 

 代表的なシーンが昨シーズンあった。レギュラーシーズンでの栃木ブレックス戦。89-61で勝利した試合で、チーム最多の20得点を挙げた辻は6本の3Pを決めた。それまで「シュートフォームが納得いっていなかった」と悩んでいた日本代表のシューターを復活させたのが岩部アナリストだ。辻の良かった時の映像を見直し、修正を図った。辻は試合後のヒーローインタビューに岩部アナリストを招き入れ、感謝の気持ちを体現した。

 

(写真:2階席から練習を見守る岩部アナリスト。他とは違った視点でチームを支える)

 アナリストはコートレベルで選手たちと向かい合うコーチ陣とは違い、俯瞰の位置でチームを見つめる。映像やデータを用いて、物事を具体化する。

「北さんの言葉や気になっている事象をクリアにする。そうすれば北さんやコーチが選手に伝える時に役立つと思うんです」(岩部アナリスト)

 

 昨シーズン途中加入の岩部アナリストにとっては、初のフルシーズン参戦だ。

「昨シーズンはついていくのが精一杯だった。今シーズンは追うだけではなく、追い越したい。その余裕ができた部分で、いろいろな提案をしていきたいです」

 オフには他競技のアナリストと会い、情報交換を行なってきた。単身でアメリカに渡り、NBAのスタッフからも多くのことを学んできた。こうした試みも周囲が背中を押してくれる土壌が川崎にあるからこそ可能と言える。

 

 組織力が川崎の武器だ。それはコート内に限らない。「コーチングスタッフの仲もすごく良いと思います。同じ部屋にいて、すぐに話をできる環境にある」とは岩部アナリスト。今シーズン、新たにスタッフルームの配置替えをすることがあった。佐藤ACは「北さんが大事にしたのは皆の顔が見えて、すぐ会話ができることでした」と証言する。風通しの良い環境づくりは、こうした細かいところにも表れている。

 

(写真:開幕戦は他チームに先立って行われ、昨季準優勝の千葉ジェッツと対戦)

 今シーズン、川崎のスローガンは「Believe」。スタッフで話し合いを重ねて決めた。北HCは、この言葉に込められた思いを語る。

「B.LEAGUEが始まって2シーズン優勝できなかったのは、なぜかと考えた時に勝負の局面で自分の力を信じ切れなかった。チームの力を信じることを含めてBelieveだと。それと親会社が東芝からDeNAになったので、ファンの中には“今までと違うチームになってしまうのでは”と不安に感じられる方もいるかもしれない。新生ブレイブサンダースを信じて応援していただきたいとの想いも込めました」

 

“新”から“信”へ――。今シーズンは新生・川崎が信頼を勝ち取りにいく。目指すはリーグと全日本総合選手権大会の2冠達成。北HCが「魅力のあるクラブを一体となってつくっていきたい」と口にすれば、篠山が「毎日毎日進化していかないといけない。クラブ全体として成長できるシーズンにしたい」と意気込む。コート内外で問われる真価。今シーズンは新生・川崎の動向から目が離せない。

 

 今シーズンもBS11では「マイナビBe a booster! B.LEAGUEウィークリーハイライト」(毎週木曜22時~22時30分)をオンエア。今シーズンの初回放送は4日(木)です。是非ご視聴ください。


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