サッカーW杯ロシア大会はフランスの20年ぶり2回目の優勝で幕を閉じた。クロアチア戦での勝利は、対戦が決まった時からフランスの優位が伝えられていたので驚きはない。

 

 

 クロアチアが中3日であるのに対し、フランスは中4日。しかもクロアチアは決勝トーナメントに進出してから3試合連続で延長戦を戦っている。このうちの2試合はPK戦までもつれ込んだ。それによる体力面での疲弊が懸念されていた。

 

 果たして試合は予想通りの展開となった。先制したのはフランス。前半18分にオウンゴールで1点を先取。28分にFWイバン・ペリシッチのシュートで同点に追いつかれたが、34分、敵陣右CKからペナルティーエリア内でMFブレーズ・マテュイディが頭で合わせたボールはペリシッチの左手をかすめた。このプレーは故意によるものと判定され、FWアントワーヌ・グリーズマンが落ち着いてPKを決めた。

 

 フランスは後半にも2点を加え、追いすがるクロアチアの反撃を1点に抑え、4対2で危なげなく逃げ切った。

 

 フランスにはツキもあった。PKは微妙な判定だった。クロアチアのズラトコ・ダリッチ監督は「W杯の決勝であのようなPKを与えてはいけない」と悔しさを押し殺すように語った。

 

 今大会から導入されたVAR(ビデオアシスタントレフェリー)が迷っている審判に反則の宣告を促しているようにも見えた。

 

 20年ぶりの優勝により、監督のディディエ・デシャンは選手、監督の双方でW杯優勝を果たした史上3人目の人物となった。

 

 ひとりはブラジルのマリオ・ザカロ、2人目は西ドイツ(当時)のフランツ・ベッケンバウアーである。それについて感想を聞かれたデシャンは、こう語った。

「今回のほうが喜びは大きい。選手たちを見ているとハッピーな気分になる」

 

 20年前のデシャンの雄姿は、今も鮮明に記憶に残っている。チームの主役はジネディーヌ・ジダンだったが、中盤の底に仕事場を構え、ゲームをコントロールしていたのは174センチの小柄なキャプテン、若き日のデシャンだった。

 

 フランスと言えば「シャンパン・サッカー」である。コルクの栓を抜いた直後、シャンパンの泡が弾けるようにピッチを躍動するシーンは、パスサッカーの白眉とうたわれた。「将軍」ミシェル・プラティニを擁したフランスは、この華麗なパスサッカーで1982年大会と86年大会で連続してベスト4に進出した。

 

 残念ながらデシャンのチームにシャンパンの味はしなかった。彼は名を捨てて実を取ったのである。

 

 平均年齢25.57歳のチームに規律の重要性を説き、個人プレーに走りがちな選手は代表チームから締め出した。

 

 絵に描いたような堅守速攻は19歳の俊足FWキリアン・エムバペを得たことで、より凄みを増した。

 

 デシャンとフランスサッカー連盟との契約は2020年の欧州選手権まで。若手主体の「レ・ブルー」には成長の余白が十分過ぎるほど残されている。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2018年8月5日号に掲載されたものです>

 


◎バックナンバーはこちらから