23日、J1第4節が行われ、埼玉スタジアムで浦和レッズと清水エスパルスが対戦した。Jリーグ史上初の無観客で実施された試合は前半19分に清水が先制。対する浦和は76分にMF原口元気がこぼれ球を詰めて同点に追いつく。その後も両チームチャンスを作るが決めきれず、1対1で引き分けた。

 互いに好機生かせず、痛み分け(埼玉)
浦和レッズ 1−1 清水エスパルス
【得点】
[浦和] 原口元気(76分)
[清水] 長沢駿(19分)
 わずか22年と、Jリーグの歴史は深くないとはいえ、初の出来事である。目の前に広がる光景はやはり異様だった。

 2006年から8年連続で観客動員数でJリーグNo.1の浦和レッズ。ホームの埼玉スタジアムは、多くのサポーター・ファンが詰めかけ、通常はチームカラーの赤で染まる。赤が膨張色であることを差し引いても、その存在感は絶大である。またサポーターの熱狂的な応援は、相手チームに脅威になるはずだ。しかし、この日のスタンドは青と緑が目立った。座席の色がそのまま目に入り、席を埋めるはずの観客がひとりもいなかったからだ。浦和は8日の埼玉スタジアムでのサガン鳥栖戦で人種差別的な横断幕の掲示されたことにより、Jリーグから処分を受けていた。それがこの試合を無観客で開催することだった。

 試合へのボルテージを煽るための選手紹介もなければ、選手が入場する際の音楽も鳴らされなかった。エスコートキッズを連れることもなく、およそ公式戦とは思えぬ雰囲気でキックオフの笛は吹かれた。

 監督や選手の声がピッチ上で響き渡り、ボールを蹴る音も聞こえた。プレーに対するスタンドからのリアクションはゼロ。カメラのシャッター音が時折こだました。まるで練習試合なムードが漂う中、最初にチャンスを作ったのは、ホームの浦和だった。開始早々にDF槙野智章がミドルレンジからシュートを放った。

 18分にペナルティエリア(PA)内左でMF大前元紀がシュートを放つ。ここはGK西川周作がセーブし、CKとなった。大前は左からのCKでキッカーとなると、ショートコーナーを選択。リターンパスを受け、右足でセンタリングを上げる。ファーサイドで構えていたMF六平光成がトラップし、右足を一閃した。六平のシュートは飛び込んだ西川に当たり、ゴール正面にこぼれた。それを詰めたのがFW長沢駿。191センチの長身FWにとって、19日のナビスコカップに続く、公式戦2試合連続ゴールは、Jリーグ初得点だった。

 清水は26分に右サイドバックの吉田豊がオーバーラップで駆け上がる。PA内にいるFWミリヴォイエ・ノヴァコヴィッチにボールを預けると、ヒールキックでのリターンパスを受け取り、吉田はゴールほぼ正面でシュートチャンスを迎えた。しかし、左足から放たれたボールはゴール左へと外れた。試合後、清水のアフシン・ゴトビ監督は「試合を終わらせることができたかもしれない」と試合のカギに挙げるワンプレーだった。

 一方の浦和は、DF宇賀神友弥とMF原口元気の左サイドを中心にチャンスメイク。22分に原口、27分に宇賀神がシュートを打ったが、いずれも清水の守護神・櫛引政敏に阻まれた。前半は清水が1点をリードして終えた。

 後半開始と同時に、浦和ベンチが動く。ミハイロ・ペトロヴィチ監督はDF永田充とMF関根貴大を投入し、メンバーのテコ入れを行う。19分にはFW李忠成をピッチに送り込み、残り25分以上の段階で交代カードを使い切る。

 その積極策が実を結んだのが、31分だ。右サイドを強引に突破した関根が、DFのチェックを受けながらも粘りに粘って中にパスを送る。ゴール前でボールを受けた李が相手DFともつれたが、こぼれた球にいち早く反応した原口がゴールネットに叩き込んだ。途中出場の2人がからんだ得点。ペトロヴィッチの交代策がズバリ当たった。特にこの日がJリーグデビューとなったルーキーの関根は思い切りのいい突破が光った。無観客という異質な状況でのデビューとなったが、「大勢の観衆の前ではやったことがないので、いつも通りのプレーができた」とユース出身の18歳は振り返った。

 その後は浦和の攻勢が続くがゴールを割ることはできなかった。アディショナルタイムに突入し、両チームに決定機が生まれたが、清水の六平のシュートは西川が好セーブ。関根のクロスに合わせた李のヘッドはバーを越えた。試合は同点のままタイムアップ。Jリーグ史上初めての無観客試合は、互いに決定機を生かせずドローに終わった。

 やはり独特の雰囲気に戸惑う選手は多かった。「いいプレーに対しての拍手や声援はすごく勇気づけられる。試合で起きた時はいつも以上のプレーができる。やはりサポーターの皆さんあっての選手」と槙野は改めて実感したという。清水のゴトビ監督は「ファンがいなかったので試合を楽しむことができなかった。これで最後になって欲しい」と訴えた。

 浦和は今日のゲームを「再出発の第一歩」と位置付けた。ただ、他のクラブも、これを対岸の火事としてはいけない。突き付けられた“警告”は浦和のみならず、Jリーグ、そして日本サッカーへのものだと認識すべきだ。安心で安全なスタジアムづくりへの第一歩がこの日、ピッチに刻まれたと捉えるべきだろう。

【川崎F、多摩川クラシコ制して今季初白星】

 味の素スタジアムで行われたFC東京対川崎フロンターレの一戦は、川崎Fが4対0でFC東京を下した。川崎Fは序盤からボールを支配すると前半31分、FW小林悠のゴールで先制。前半終了間際にはFW大久保嘉人が追加点を決め、リードを広げて試合を折り返した。後半に入っても川崎Fのペース。14分に大久保、34分には小林のゴールでFC東京を突き放した。

 大久保、2G1Aで大勝貢献(味スタ)
FC東京 0−4 川崎フロンターレ
【得点】
[川崎F] 小林悠(31分、79分)、大久保嘉人(45分+4、59分)

 昨季の得点王がエンジン全開だ。大久保は2ゴール1アシストの活躍で、苦しむチームを初勝利に導いた。

 序盤から大久保の動きはキレキレだった。18分にはMF中村憲剛のスルーパスに抜け出し、ゴールネットを揺らしたが、これはオフサイド。しかし、幾度もDFラインの裏をとり、相手守備陣を脅かし続けた。

 すると31分、大久保が先制点を演出した。相手陣内でMF米本拓司のパスをカットし、PA手前までドリブルし、左前方の小林にパスを通す。受けた小林が左足でゴール右下へ流し込んだ。

 前半終了間際には、自身がゴールを奪った。相手のCKのこぼれ球をMFレナトが拾ってカウンター。小林、左サイドのDF谷口彰吾につながり、谷口がクロスを上げる。これに大久保がダイビングヘッドでゴールに叩き込んだ。大久保は「普段から逆サイドを狙ってほしいと言っているので、本当に良いかたちで(クロスを)上げてくれた」とアシストしたルーキーを称えた。

 後半も川崎Fが主導権を握った。面白いようにパスを回し、FC東京に奪いどころを絞らせない。大久保も時には中盤までポジションを下げてボール回しに加わるなどして、攻撃のリズムをつくった。

 14分には、この試合2ゴール目を決めた。中盤で相手のボールを奪ってからのショートカウンター。大久保は小林からのスルーパスに抜け出すと、GKと1対1の場面で冷静にゴールへ流し込んだ。「相手のDFラインが上げようとしているのが見えた」と大久保。ダメ押しゴールを決め、勝利を大きく手繰り寄せた。川崎Fは34分にも小林が追加点を奪い、4対0の圧勝で初勝利を飾った。

「今日はチームの距離感が良かった。ディフェンスになった時、一度ブロックを組んで、みんなが良い距離感を保っていた。そこでボールを奪えれば攻撃に移っても良い距離にいるのでパスがつながる。だから、良い攻撃ができたと思う」
 大久保はこのように勝因を語った。前節の大宮アルディージャ戦では、自身のゴールで後半41分に勝ち越しながら、アディショナルタイムに2失点して敗れた。屈辱的ともいえる敗戦を経てからの初勝利だけに、大久保は饒舌だった。

「フロンターレの良いところは、勝てば乗っていくところ。(これから)ドンドン乗っていきますよ」
 大久保は最後に今後の躍進を誓った。桜前線とともに、個人もチームも高みへ駆け上がる。