アンリトゥン・ルールというくらいだから、もちろん明文化されているわけではない。ここからここまではセーフで、ここからはアウトという基準もない。ガイドライン的なものはあるが、それも絶対ではない。要するに相手に対し礼を失するような行為やプレーは慎めということだ。下手をすると命に関わることだってある。

 

 これから書くのは今から30年前の話である。10月のある日、米国の教育リーグに参加した若手主体の巨人はメサの球場でサンディエゴ・パドレスの1A・ルーキー連合軍と戦った。ヤングジャイアンツは奮闘し、7回までに9点のリードを奪った。ここで打席に立った小沢浩一(松江農林-三菱自動車水島)はベンチからの送りバントのサインを受け、中腰に構えた。

 

 敵のベンチは、これを「死者に鞭打つ行為」と見なした。報復の対象とされた小沢は喉元に死球を受け、その場に倒れ込んだ。呼びかけても返事がない。緊急事態発生である。ひとりの関係者が消防署に電話をかけ、程なくして隣のサブグラウンドにヘリコプターが到着した。生憎メサの上空には強風が吹いていて、離陸には時間がかかった。メサから病院のあるフェニックスまで約20分。4人乗りのヘリコプターは紙飛行機のように揺れながら、病院の屋上に舞い降りた。

 

 屋上には3人の医師が待ち受けていた。エレベーターでそのまま手術室へ。すぐさま呼吸停止寸前の小沢の喉元に穴が開けられ、気道を確保するパイプが突っ込まれた。手術は3時間に及んだ。小沢が意識を取り戻したのは集中治療室に移されてからだった。

 

 ヤングパドレスを率いていたのが現サンフランシスコ・ジャイアンツ監督のブルース・ボウチーである。謝罪するでもなく彼はこう吐き捨てたという。「悪いのはキミらだ。キミらがあんなこと(大量リードでのバント)をしなかったら、犠牲者は出なかったんだ」。随分な言い草だが、それが米国流だ。

 

 U18アジア選手権大会に出場している今夏の甲子園のヒーロー吉田輝星(金足農)が“侍ポーズ”を封印するという。高野連からの「侮辱行為と取られる可能性がある」との指摘を受けてのものだ。国際試合においては、その方が賢明だろう。何かが起きてからでは遅い。異文化に触れるのもいい経験だろう。

 

<この原稿は18年9月5日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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