第139回 ラグビーとは何だ、が全て分かる(ダン・カーター)

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 神戸のスポーツファンは幸せ者だ。元スペイン代表のアンドレス・イニエスタがヴィッセル神戸に入団したのに続き、今度は元ニュージーランド代表ダン・カーター(DC)の神戸製鋼コベルコスティーラーズ入りだ。

 

 

 サッカーとラグビーの世界的司令塔が神戸を中心に同時期にプレーする――。夢のような話である。

 

 元ラグビー日本代表で神戸製鋼OBの大畑大介が興奮冷めやらぬ口調で話す。

「ラグビー界の大スター、レジェンドです。もちろん世界的知名度で言えばイニエスタの方がすごいのでしょうけど、ラグビー界におけるDCとサッカーにおけるイニエスタではDCの方が断然上です。

 

 これがニュージーランドなどのラグビーが強国だったら、日本よりももっと大きなニュースになると思います。それにDCの方が男前ですよ(笑)」

 

 DCは“生きる伝説”である。オールブラックス(NZ代表)でのキャップ数は112。主にスタンドオフとして2011年、15年W杯の連覇に貢献した。世界最優秀選手賞には3度も輝いている。

 

 キック、パス、ラン。その全てが“神業”に映る。彼の判断どれもが最適解であり、彼が選択するプレーのどれもが最善手である。

 

 日本デビューは9月14日、秩父宮ラグビー場。相手は2年連続2冠のサントリーサンゴリアス。平日のナイトゲーム、雨予報にも関わらず前売り指定席は完売。スタジアムは1万7576人の観衆で膨れ上がった。

 

 最初の見せ場は前半4分。先制トライで得たコンバージョンキックはゴールまで約25メートル。角度は正面やや左。キックの妨げになるような風もなし。だがDCの“黄金の左足”から放たれた楕円球は右のポストをわずかに逸れた。

 

 この失敗、終わってみれば余興のひとつだったようだ。「通常だとそれで自信を無くす選手もいるかもしれませんが、自分の経験から“次の仕事に集中しよう”と思った」とDC。試合途中から降り出した雨をものともせず、後半は3本のキックを全て成功させた。

 

 キック以上に観客を沸かせたのが前半22分のトップリーグ初トライだ。神戸製鋼は自陣でDCのパスを起点に右サイドを突破した。大外を突く味方をフォローしていたDCは再びボールを受け取るや、そのまま右中間を独走し、歓声のシャワーを浴びながらインゴールに飛び込んだ。

 

 計21得点。試合は神戸製鋼が36対20でサントリーに完勝した。デビュー戦でDCはいきなりマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。

 

「難しいことを簡単にできる。それがDCのすごさ」。今季サントリーから移籍してきたスクラムハーフの日和佐篤は、目を丸くして語り、こう続けた。

 

「DCは細かいスキルがすごくうまい。基本的なことをしっかり忠実にやることがいかに大事かと感じました」

 

 DCのプレーにはラグビーというスポーツの魅力が全て詰まっている。ラグビーを見る目を養いたいなら、DCを追うことだ。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2018年10月7日号に掲載されたものです>

 

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