森のプロレスでクワガタポーズの危機
カッキーライドのあたりから痛かった肩がかなり悪化している。
鈴木みのる戦を前にして僕は張り切りすぎたのか、古傷の肩を痛めてしまった。
スパーリング中に無理な返し方をした時に肩を捻ったと思われるが、日を追うごとに痛みが増しているのだ。大会が終わり2カ月以上も経っているというのに、いまだ痛みはおさまる気配がない。
「いや〜、まるで四十肩みたいな感じで腕が上がりにくい。困ったぞ」
肩の痛みに悩んでいる僕に娘は不思議そうな顔をしていた。
「そんな焦らなくてもしばらく試合ないんだから、ゆっくり治せばいいじゃん」
それがゆっくりもしていられないのである。肩が上がらないと圧倒的に困ることがあるのだ。
「肩が痛いとクワガタポーズがつらいのよ」
僕は娘の前でクワガタポーズをレクチャーしながら、涙ながらに訴えたのだった。
ミヤマ仮面の昆虫イベントは、夏の時期だけでなく、有難いことに年中イベントをやらせてもらっている。カッキーライドが終わってからも「中里郷土の森」や「アリオ北砂店」など都内だけでなく、三重県や愛知県などにも呼んでいただいている。肩が痛いからとクワガタポーズを封印している場合ではないのだ。
今月は、名古屋や静岡、お台場でイベントがあり、静岡では今年も富士スピードウェイで「森のプロレス」まで行うのである。
ミヤマ仮面のイベントは、昆虫が闘うクワレスだけでなく、人間のプロレスも年に数回やっている。
森のプロレスは、格闘技色の強いカッキーライドとは対極にあり、プロレスを見たことのない方を対象としている。三世代が楽しめる参加型のイベントプロレスを目指しているのが森のプロレスだ。プロレスを知らない方に興味を持っていただくためには、善悪のキャラクターがはっきりしていることが一番だろう。
その意味では極悪なレスラーがいると非常にわかりやすい。
「いま誰もがわかるようなヒールレスラーは誰だろう?」
僕は色々と考えた結果、極悪同盟のダンプ松本選手の顔が頭に浮かんだ。
「うん、知名度のある選手だし、出たら面白くなりそう」。この人選に家族も大賛成であった。
でも、年齢を考えると現役でやっているのかも疑問だ。
「すぐにオファーを掛けたいけど、どうやってダンプさんとコンタクトを取ろうかな……」
カッキーライドもそうだが、試合のマッチメークを一から考え、選手のブッキングも僕自身が手掛けている(鈴木みのる戦だけは実行委員長つくしの案)。もちろん大変な面は多々あるが、プロレスが大好きなので選手のアテンドも含めて楽しんでやっている。
ちなみに森のプロレスの時は、リングの設営から撤収まで裏方作業も全てこなしている。
進行や音響に至るまで気を配っているが、基本いつもやっている昆虫イベントのクワレスとの大差はない。昆虫が人間に変わっただけなのである。根っからのイベント屋なので、全てに携われるのは幸せこのうえない。
ただ一つ不安なのはクワガタポーズだけなのである。肩が痛いのは本当に憂鬱だ。
森のプロレスでは、初めてプロレスを見る方のためにミヤマ仮面がプロレスのルールや応援の仕方を説明するのが役目なのだが、ここで決まってお客様にやってもらうのがクワガタポーズなのである。クワガタポーズは会場を一体化する意味で効果的と考え、半強制的に全員にやってもらっている。
それだけにミヤマ仮面は肩が外れるぐらい全力投球でやらなければならないのだ。痛い顔なんてしていられなのである。
今回、ダンプ松本選手の試合の生実況をワールドプロレスでお馴染みだったあの辻よしなりさんがやってくださる。それだけにしっかりと会場を温めておきたい。僕は全身全霊のクワガタポーズをやると心に決めたのであった。
森のプロレスまでの間、肩の痛みを取ることだけに目を向けるのではなく、インナーマッスルの強化も必要だと今更ながら気がついた。
「よし、しばらくはチューブトレーニング中心でいこう」
考えてみるとカッキーライドの前後は、肩が痛くても無理してバーベルをやっていた。これまでやっているルーティンを止めるのは覚悟がいる。筋力が落ちてしまうのではという恐怖心が出てきてしまうからだ。
「リング上で美しいクワガタポーズをやるためにも今は我慢!」
僕はセーブしながら、当日までしっかりと肩を作ることに専念したのだった。
さて、富士スピードウェイでの森のプロレス本番では、満足のいくクワガタポーズを行い、幸先の良い口火を切ることができた。試合の方も第一試合から鈴木秀樹選手を中心に大いに盛り上がり、名物となってきた罰ゲームのレスラーのチョップやチビッ子たち参加の忍者体操で場内はヒートアップした。参加型の森のプロレスの真骨頂だ。リング周辺には多くの人が集まり、メインのダンプ松本選手率いる極悪同盟の登場時にはピークを迎え、大会は大成功で幕を閉じることができた。
「今回の森のプロレスは大いに攻めたかな。不安だった肩もしっかり上がってよかった」
主催者であるミヤマ仮面は肩の荷が下りたのか、痛みからも解放されたような気がした。
(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)