「これでいいのだろうか……」

 11月11日に弁天島(静岡県浜松市)で森のプロレスを行ったのだが、選手たちの試合を観て、もっと自分が頑張らないといけないと強く思った。いつもなら僕はミヤマ仮面として大会の盛り上げ係を務めるのだが、今回はそれをやらずに現場監督に徹した。するとこれまで見えなかったことが目についたのである。大会をプロデュースしている立場として、何かが足りないと感じたのだ。

 

 最近、アウトプットが多いのも原因のひとつだった。

 クワレスにカッキーライド、森のプロレス、これに講演会や取材などを含めると、確かに僕のキャパ的にはオーバー気味だったのかもしれない。出力している分、新たなものを補充しないと枯渇してしまう恐れがある。

 

「よし、キャンピングカーで自分磨きの旅に出よう」

 思い立ったら吉日。僕は弁天島から自宅とは反対方向に西へ西へと車を走らせた。到着したのは、古都の奈良県である。

「いにしえからの宝を見てこよう」と、一目散に向かったのは、奈良国立博物館だ。こちらで開催の正倉院展で日本の宝を拝むことにした。人が多過ぎて展示物を見るのが大変だったけど来て良かった。もっと若い時に見るべきだったと後悔するほど素晴らしかった。

 

 続いて東大寺や春日大社と中学生の修学旅行のようなコースをたどったが、大人になってからの方が断然響く。また紅葉のシーズンだったこともあり、ロケーションも抜群だった。奈良はイイ!

 

 SNSで「奈良が面白い」と発信すると、橿原神宮へ行くことを何人かの方に勧められた。

 なんでも建国の聖地であり、初代天皇を祀ってあるという。日本の歴史と文化の発祥の地である以上、きっと何かを感じるはずだ。実際に行ってみると凡人の僕には特別に変わった変化は起きなかった。

 

 無我夢中で回っていたら、お腹が空いてきた。奈良に行くなら絶対に顔を出したいお店があった。それは、プロレスリング・ノアで活躍した力皇猛選手(写真)のラーメン屋である。彼がまだ練習生だった頃、道場で一緒に汗を流していた時期があったからだ。

 

 大相撲の世界からプロレスに転身し、慣れない生活に大変だったと思うが、歯を食いしばり頑張っていた姿が強く印象に残っている。年齢も同じということもあり、意識していた部分があったのかもしれない。その後のノアでの活躍は自分の事のように嬉しかった。

 

 さて、ナビを頼りにお店に到着すると、すでにお客さんが並んで待っていた。お店が繁盛している様子がうかがえる。ところで力皇選手と会うのは、おそらく20年ぶりになるが、果たして僕のことを覚えているだろうか……。僕はノアをすぐに辞めてしまったという過去もあり、どのような見方をされているか正直不安でもあった。

 

「垣原さん、お久しぶりです。よく来てくれました。ありがとうございます」

 僕の不安をよそにあの頃と全く変わらない優しい笑顔で大歓迎してくれた。

 体格も現役の頃と変わらずデカイ!

 

「痩せなきゃいけないんですけどね」

 彼が痩せられないわけがラーメンを食べてみてわかった。お世辞抜きに驚きの美味しさなのだ。

 僕の好きな太麺の時点でテンションが上がったが、さらにスープを一口飲んで完全に『麺場 力皇』の虜になった。ちゃんこ鍋に入っている鶏のダンゴが入っているところも相撲時代のスパイスが入っていて良い! またこれが美味いのだ。ガチで作り方を教わりたいほど自分好みの鶏ダンゴであった。

 

 いや〜、行列ができるのも納得の味だ。やはり美味しいものをお客さんに提供する以上、自分が美味しいものを知っておかないと駄目に決まっている。それは痩せないわけである。

 

 帰り際に最近ニュースで大きく報道された森嶋猛選手の暴行事件について触れてみた。

「本当はいい子なんですけどね……」

 ノア時代のかつてのパートナーの悲しい結末に心を痛めている様子だった。

 あんな大きな身体とプロレスセンスを持ち合わせているのに本当に勿体ないと心底思う。僕も森嶋選手を練習生の頃から知っているだけに今回の逮捕は本当に残念だ。

 

 プロレスでの栄光は永遠ではない。そこを早く理解した上で、力皇選手のように一から真面目にコツコツと頑張るべきなのだろう。僕も自分に強く言い聞かせた。

 

 さて、奈良を後にした僕は九州に入り、福岡県の門司港レトロや小倉城を駆け足でまわり、すぐに佐賀県に移動して巨石スポット巡りを敢行することにした。10メートル級の大きな石がゴロゴロある巨石群(写真)を見るには本格的な山登りを覚悟しなければならないという。それを証拠に入り口でスタッフの方から杖を渡された。

 

「これはすごすぎる! 間違いなくパワーをもらえる。圧巻だね」

 問答無用なその大きさにひれ伏すしかなかった。文句なしのパワースポットである。

 佐賀には巨石群だけでなく吉野ケ里遺跡もある。弥生時代の暮らしや文化を目にするために足を運んでみたが、敷地面積からしてとんでもない広さだった。失礼な話、佐賀は地味なイメージを抱いていたが、このスケール感を体験すると一気に見方が変わる。やはり自分の足で経験する事の大切さを痛感する。

 

 佐賀の隣にある福岡のうきは市には、クワガタの師匠が管理してくれているミヤマ仮面の森がある。

 僕は森に到着するなり、おもむろにスクワットや腕立て伏せで汗を流した。

この森こそ一番のパワースポット。自然と体を動かしたくなるのだ。

 

「来年は、この森を拠点に何か面白いことをやろう」

 自分でも抑えきれないほどメラメラと野心が湧きあがってきた。

 

 翌日、マリンメッセ福岡でのクワレスや山口県でのトークイベントを挟み、キャンピングカーでの旅は更に続いた。向かったのは広島県の平和記念公園だ、原爆ドームをどうしても見ておきたかった。

 

「どんな過酷な状況に置かれても希望を捨てなければヒロシマのように復活できる」

 僕は、がんのことなどとても小さなことのように思えた。

 垣原家のルーツは広島にある小さな島だと聞いている。

 

「よし、諦めずにテッペンを目指そう」

 今回の旅で、もっともっと上を目指していく覚悟ができた。

 

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)


◎バックナンバーはこちらから