4日、JA全農世界卓球団体選手権東京大会7日目が行われ、チャンピオンシップ・ディビジョンの女子準決勝で日本代表(ITTF世界ランキング3位)と香港代表(同4位)対戦した。日本はトップバッターの石垣優香(日本生命)がストレート負け。今大会初黒星を喫する嫌な展開となった。続く石川佳純(全農)と平野早矢香(ミキハウス)がともにフルゲームの接戦を制し、2対1と逆転する。最後は石川が締めて、3対1で日本が勝利。31年ぶりに決勝行きの切符を手にした。明日5日に中国代表(同1位)と団体世界一をかけて対戦する。一方、男子日本代表(ITTF世界ランキング3位)は準々決勝でドイツ代表(同2位)に1対3で敗れた。日本はここまで全6試合で4試合を戦ったメンバーで臨んだが、丹羽孝希(明治大)がティモ・ボルに1−3敗れる厳しいスタート。第2戦で水谷隼(DIOジャパン)がフルゲームで取り返すが、第3戦を松平健太(ホリプロ)が落とすと、水谷がボルにストレート負け。37年ぶりの決勝進出はならなかった。もうひとつの準決勝は7連覇を目指す中国代表(同1位)が順当に勝ち上がり、5日の決勝は中国対ドイツと3大会連続の同カードとなった。
(写真:勝利に沸く女子日本代表メンバー (c)RG/ITTF)
◇チャンピオンシップ・ディビジョン
・女子準決勝
日本 3−1 香港
(石垣0−3リー、石川3−2ジァン、平野3−2ン、石川3−2リー)

 最後はやはり石川が決めた。21歳のエースは決勝進出を喜んだ。「みんなで勝ち取った勝利」。チーム一丸となって、世界ランキング4位の強豪・香港を破った。

 トップバッターを務めたのはカットマンの石垣だ。ここまで4戦無敗と絶好調。ケガの福原愛(ANA)の代役として最後に代表入りしたが、もはやその存在感は主役級である。得意のカットは今大会冴えに冴えまくっている。対する香港の1番手はリー・ホチン。ロンドン五輪の団体メンバーでもある21歳の新鋭は世界ランキング14位と、石垣にとっては格上だ。

 第1ゲームからお互いに点を取り合うシーソーゲームとなった。石垣がカットで相手を揺さぶれば、リーも強打で応戦。一進一退の攻防は石垣が4度のゲームポイント奪いながら、リーが粘った。最後は13−12から3連続得点を奪われ、石垣は第1ゲームを取られた。続く第2ゲームは序盤にリードを奪いながら、徐々に追い上げられ、なかなかペースを握れない。このゲームも先に10点取ったのは石垣だったが、4連続得点を許し、最終的にはリーにゲームを制された。接戦でゲームを2つ落とした石垣は、気落ちしたかのように第3ゲームは一方的な展開になった。2−11であっけなく敗れ、トップバッターの責務を果たせなかった。石垣の大会での連勝は4でストップ。「勢いに乗りたかったのに負けてしまって申し訳ない」と下を向いた。

 今大会大活躍のカットマンについた初めての負け。「昨日は石垣さんのおかげで勝てた」と石川。その準々決勝のオランダ戦の第2戦に出場し、リー・ジャオとのエース対決で敗れた。相手に行きかけた流れを引き戻したのが石垣だった。石川はその“借り”を返さなければならなかった。香港はジァン・ホアジュンをぶつけてきた。前回のドルトムント大会で銅メダル獲得に貢献し、世界卓球の個人戦(ダブルス)でも3つのメダルを獲得しているジァン。ランキングはリーの方が3つ高いが、実績を考えれば彼女が香港のエースである。
(写真:2勝を挙げチームに貢献した石川 (c)RG/ITTF)

 石川は第1ゲームを8−11で落としたものの、第2ゲームは得意のフォアの強打も冴え、11−8で奪い返した。第3ゲームはミスが目立ち6−11で取られたが、第4ゲームは11−9の接戦を制し、再び取り返した。第5ゲームは3球目攻撃から先制点を奪うと、順調に得点を重ねた。11−6でこのゲームを取り、右手でガッツポーズ。エース対決を制し、平野へとつないだ。

 そして、準決勝の勝敗を分けたと言ってもいいのが第3戦だった。日本は平野、香港はン・ウィンナム。世界ランキングは平野が22位、ンが33位ではあるが、対戦成績では分が悪かった。日本が香港を破った昨年の東アジア競技大会でもフルゲームで負けており、ここ数年は勝てていなかった。

 その相性を象徴するかのように序盤はなかなかペースを掴めなかった。第1ゲームを8−11で失うと、第2ゲームは先にゲームポイントを奪いながら、10−12と逆転された。そして第3ゲームは4−9まで追い込まれ、絶対絶命のピンチに。だが、ここからが平野の真骨頂だった。世界卓球は個人戦と合わせて13大会連続出場。ロンドン五輪団体の銀メダル獲得にも貢献した29歳。何度も修羅場をくぐり抜けてきた経験値は確かだった。

 この時点でのスコアも「そんなに離れてましたか?」と覚えていないほど平野は集中していた。連続得点で6−9と迫ると、2ゲームをリードしている相手がたまらずタイムアウトをとった。“まずは自分のかたちを作らなければ”と試合中模索していたンの攻略法をやっと見つけたのもこの頃だった。チキータ(バックハンドの横回転レシーブ)に手を焼いていた平野はサーブなどで、試合を組み立てていった。デュースまでもつれたゲームを12−10で制した。

 劣勢からの逆転に敗色濃厚だったムードも一変する。第4ゲームは11−2と簡単に奪うと、第5ゲームは序盤から得点を重ねリードした。粘るンの反撃に遭ったが、サーブで相手を崩し10−8とマッチポイントを手にする。そこからデュースに持ち込まれたが、11点目はネットと台のエッジに当たるラッキーな得点が入り、再びマッチポイント。勝負どころで運も味方した。

 最後は平野のバックハンドのクロスが決まり、勝利を決めた。0−2からの大逆転劇に会場は大いに沸いた。日本の村上恭和監督は「団体戦の雰囲気に引きずり込んで、相手を金縛りにした。僕の監督生活の中でも体験したことがない逆転。すごい精神力です」と平野に脱帽。ベンチの後ろで平野の戦いを見守った石川は「ジャンプして拍手したかった」ほど感動したが、次の試合に出場するため努めて冷静さを保った。それでも試合後に「本当に尊敬できる先輩」と涙するほど、この1勝は計り知れないほど大きいものだった。
(写真:劇的な試合を制し「卓球をしてきて良かった」と平野 (c)RG/ITTF)

「つないでくれた4番。絶対に私が勝って帰ってくる」。そう決意してコートに立った石川。この試合のオーダーには「石川が2勝とって、他の3試合で1勝とる」という村上監督の狙いがあった。その期待に応えるべく石川はコートで躍動した。

 第1ゲームは快調に飛ばし、11−4で先取する。しかし、第2、3ゲームは落としてしまう。それでも指揮官の信頼は揺るぎなかった。「今大会はずっと苦しんでいる。でも最後は勝つんだろうな」。ヒヤヒヤの勝利だった昨日とは違い、この日の石川には力強さがあった。順調に得点を奪うと、最後はサーブから崩して強打する3球目攻撃という得意のかたちで試合を締めた。3対1で香港を下し、悲願の決勝進出を決めた。

 奇しくも決勝に進出した1983年は東京開催だった。選手全員はまだ生まれていないが、村上監督は混合ダブルスに出場しており、女子の中国との決勝は観戦していた。31年前に敗れた中国は今も世界の頂点に君臨する卓球王国である。現在の世界ランキング上位6位を独占。つまり大会のエントリーに1人が漏れてしまうほど分厚い選手層を誇るのだ。今大会も全て3対0で勝ってきている。日本の村上監督は「どのチームも1勝していない。まずはひとり。そこから何かが起こるか分からないようにしたい」と波乱を狙う構えを見せる。そして「1勝を狙いにいくのではなく勝ちにいくオーダーを作る」と断言。1971年の名古屋大会以来の栄冠へ、真っ向勝負で挑む腹づもりだ。

・男子準決勝
日本 1−3 ドイツ
(丹羽1−3ボル、水谷3−2オフチャロフ、松平2−3フランツィスカ、水谷0−3ボル)

「日本の新しい扉を開ける」と倉嶋洋介監督が意気込んだ準決勝だったが、日本の前にはドイツという大きな壁が立ちはだかった。特にドイツの“顔”であるボルには、無敗の2人に土をつけられるなど完敗を喫した。
(写真:日本の決勝進出を阻んだドイツのボル (c)RG/ITTF)

 先鋒として登場した丹羽は、ここまで4連勝中と勢いに乗っており、日本では水谷に次ぐ安定感を示していた。ボルとは日本が敗れた前回の準決勝で対戦しており、その時はストレート負けた。ただ丹羽も高校生だった2年前とは違い、ドイツ・ブンデスリーガで経験を積み着実に力をつけてきている。ボルを相手にどこまで勝負できるか、腕の見せどころだった。

「1番の僕が勝てば流れがくる」。丹羽はいつも通り積極的に攻撃を仕掛けた。第1ゲームは得意の速攻で点の取り合いとなった。接戦を18−16で制した丹羽は、1ゲームを取るとガッツポーズをした。逆に言えば1ゲームを取るのもやっとの相手という表れでもある。幸先良く先制した丹羽だったが、ここからボルの反撃に遭う。「競り合いとなった時の戦いは、ティモ(・ボル)選手の方が上だった。まだまだ差があると感じました」。そこからボルのペースで試合は展開し、5−11、4−11、12−14と3ゲーム連続で奪われた。快進撃を続けてきた丹羽の連勝がストップした。

 斬り込み隊長の先制攻撃は失敗に終わり、日本にとっては苦しい展開が続く。ドイツが誇る看板選手はボルだけじゃない。世界ランキング4位、ロンドン五輪のシングルス銅メダリストのドミトリー・オフチャロフもいる。2番手で登場したオフチャロフに対するのは日本のエース水谷だ。水谷にとっての世界卓球4度目の準決勝は、これまで0勝5敗とまだひとつも勝てていない“鬼門”だった。ドイツという壁を越えるためにも、準決勝で勝つことは水谷自身が越えなければいけない壁だった。

 さらに対オフチャロフ戦も3連敗中。ただ最近の内容は決して悪くなく、本人の苦手意識もそれほどない。第1ゲームは11−8で取ったが、続く2ゲームは落としてしまう。1−2と追い込まれた4ゲーム目からはサーブなど戦術を変えた。これが功を奏し11−6で奪い返すと、第5ゲームは11-8で競り勝った。フルゲームの末、オフチャロフを破った瞬間、コートに倒れ込んで喜びを表した。これで水谷はグループリーグから10連勝だ。前回のドルトムント大会で敗れた相手に雪辱を果たし、自身準決勝初勝利。エースがついに扉をこじ開け、日本は1対1のタイに持ち込んだ。

 エースが二枚看板のひとつを打ち破り、見えてきた勝機。そして迎えた第3戦が日本としてはドイツの二枚看板の存在を考えると、是が非でも勝ち取りたい試合である。重要な役割を任されたのは、今大会5試合で3番を任されている松平だ。ここでの勝敗が命運を分けると言っても良かった。ドイツは若手有望株の21歳のパトリック・フランツィスカを起用してきた。

 松平は第1ゲームは接戦で落としたが、悪くない入りだった。その後は2ゲームを連取。しかし長身のフランツィスカに「最後まで自分のプレーをさせてもらえなかった」と、2ゲームをいずれも5−11で奪われ逆転負けした。これで1対2のビハインドと日本は追い込まれた。「僕が流れを止めてしまった」と肩を落とした松平は今大会3勝3敗と振るわなかった。昨年のパリで快進撃を見せた時のようなプレーの躍動感はなかった。

 結局、第4戦で10戦全勝の水谷がボルにストレートで敗れ、ついに万事休す。ボルとは1勝13敗と対戦成績で大きく負け越していた水谷。「最後まで対応できなかった」と、3ゲームで6点、5点、6点とほぼ成す術がなかった。倉嶋監督は「2番で勝った勢いが出るかと思ったが、落ち着いた感じが出てしまった」と残念がった。日本は決勝への壁はまたしても破れなかった。「やはりドイツは強い」と倉嶋監督。4大会連続のメダルの色はまたしても銅メダル。日本は世界ランキング30位以内に5人が入るなど確実に層は厚くなった。現在の2強である中国、ドイツに追いつくためにはエース水谷に並ぶ存在の出現が必要だろう。
(写真:水谷は今大会10勝1敗と獅子奮迅の活躍を見せた (c)RG/ITTF)

(文/杉浦泰介)