二宮清純: 東京パラリンピック開催まで2年を切りました。日本代表の強化、大会成功に向けての準備など、やるべきことはたくさんあります。

中竹竜二: 来年のラグビーワールドカップ開催期間中にウィルチェアーラグビーワールドチャレンジという大会を東京で開催します。そこがひとつの勝負どころだと感じています。

 

伊藤数子: ラグビーワールドカップと同時期に大きな国際大会を開催することは2回目だそうですね。

中竹: はい。さらに翌年のオリンピック・パラリンピック開催国と同じとなると初めてのことです。これを機に今以上に日本ラグビー協会と連携を深めていきたい。その気運は高まってきていると感じています。ウィルチェアーラグビーとラグビーの日本代表が一緒に戦い、そして応援し合っていければいいですね。

 

二宮: ウィルチェアーラグビーに関わるようになって、改善すべきと感じた点はありますか?

中竹: 私は日本代表選手たちと一緒にいて施設の面で少しでも段差があると生活が不便になる現実を目の当たりにしてきました。選手たちにもっと良い環境を与えることができれば、競技に充てられる時間も増やせると思うんです。

 

二宮: 生活の中にまだまだ壁があるという印象ですか?

中竹: ええ。そこをもっと整備できれば、障がいがある人たちが自分の仕事や好きなことにもっと時間を費やせると思うんです。インフラが整っていないからこそ、食事、トイレ、移動に時間がかかってしまう。ウィルチェアーラグビーは競技用車椅子、タイヤバッグなど荷物が多くフロア移動は非常に大変ですから。時間短縮に必要なことは合宿施設であれば体育館、宿舎、食堂が同じ建物にあることです。そうすれば移動はスムーズにでき、その分だけ多くの練習時間に充てることができるようになります。

 

 コミュニケーションが大事

 

伊藤: 生活をともにしないとなかなか気がつけない点ですね。確かに選手たちからすれば、日常生活の時間短縮は様々な面から必要なことですね。

中竹: そこなんですよ。結局、これからの時代は時間なんです。いかに意味のある時間を過ごしていくか。障がいのある人たちの移動時に余分に費やしている時間は、本当はしなくていい我慢だと思うんです。それはハード面だけではなく、誰かがサポートできれば解消できることもあります。

 

二宮: ハードと共にソフト面も変わっていく必要があるでしょうね。

中竹: 日本人は、高齢者や障がいのある人にパッと手を差し伸べられないことが多い。街で見掛けたら、すぐに声を掛けられる社会になれば、みんながもっと快適に過ごせると思います。

 

二宮: まさに生活の質を上げる。クオリティー・オブ・ライフです。そのためにも、まずは無駄な時間を省けるようにしたいですね。これは本当に大事なことです。2020年東京パラリンピックはそのことについて考えるきっかけになるんじゃないでしょうか。

中竹: そうなると思います。“人間の目って不思議だな”と思ったのは、リオデジャネイロパラリンピックを観戦した時です。私は現地でウィルチェアーラグビーなど5日間ぐらい試合を観ました。各会場で両足が義足の選手や手足のない選手がプレーする姿を見て最初は衝撃を受けました。でも3日ほど経つと、“これが普通なんだ”と思うようになった。5日間で私の中での常識は変わりました。それと同じで、みなさんが“普通だ”と思えるようになれば、日本も変わる気がします。

 

伊藤: おっしゃるように障がいのある人たちと、もっと一緒に過ごす時間ができれば慣れてくるものだと思うんですよね。

中竹: そうなんです。私もそうでしたが、サポートしたい気持ちはあるのに、どこまでやっていいのかわからないんです。まずは「お手伝いしましょうか?」「何かお困りですか?」と聞けばいいんです。何も聞かずに自分の中で解決しようとすると、ためらってしまったり、やり過ぎてしまう。疑問がわいたら、会話することが一番大事なことの気がしますね。

 

伊藤: では2020年以降に向けては、どのような取り組みを?

中竹: 共生社会の実現が日本ウィルチェアーラグビー連盟、パラスポーツ関係者としてのミッションだと考えています。健常者と障がいのある人たちが共存、共生できる社会になればいいなと思っています。少しでもパラスポーツに興味を持っていただき、一緒に楽しむ場をたくさん作っていきたいですね。ウィルチェアーラグビーは気さくな選手が多いので、会場などでぜひ話しかけてみてください。

 

(おわり)

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中竹竜二(なかたけ・りゅうじ)プロフィール>

1973年生まれ。福岡県出身。小学1年でラグビーを始める。早稲田大学卒業後、イギリス留学を経て2001年三菱総合研究所に入社。2006年に母校・早稲田大学ラグビー蹴球部の監督に就任し、2007年度から2年連続で全国大学選手権2連覇に導く。その後、20歳以下の日本代表監督、コーチを歴任。2016年にはアジアラグビーチャンピオンシップで日本代表ヘッドコーチ代行として指揮を執った。2017年に日本ウィルチェアーラグビー連盟の副理事長、代表理事を務める。今年7月より再び副理事に就いた。現在は日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター、株式会社TEAMBOX代表取締役を兼任している。


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