ラグビー日本代表は10月26日に世界選抜と11月3日にはオールブラックス(ニュージーランド代表)と強化試合を行い、連敗を喫した。日本の最前線に堀江翔太の不在を感じさせた。今回、彼は怪我の影響で代表から落選した。堀江はW杯イングランド大会の中心選手で、これまでも主力として活躍してきた。フッカーながらトリッキーなプレーが持ち味のラガーマンだ。2年前に堀江について書いた原稿を、復帰が待たれるこのタイミングで読み返そう。

 

<この原稿は『ビッグコミックオリジナル』(小学館)2016年5月5日号に掲載されたものです>

 

 内容は悪くない。しかし結果が付いてこない。そんな試合が続いている。

 

 3月12日、シンガポールでのチーターズ戦(南アフリカ)は最大で18点のリードを奪いながら31対32で逆転負けした。3月26日、同じシンガポールでのブルズ戦は27対30で敗れたものの、南アフリカの強豪を最後まで苦しめた。

 

「チームは日々、成長している。手応えはあるんです。7月まで続くので、最低でも1勝はしたいと考えています」

 

 サンウルブズのキャプテン堀江翔太は言い、こう続けた。

「他のチームと比べた場合、個人の能力は下の方かもしれないけど、戦術の理解度は真ん中より上。試合を重ねれば、もっとチームの状態はよくなってくるはずです」

 

 サンウルブズはラグビー日本代表を中心に結成したクラブチームで、今季から世界最高峰のラグビーリーグ「スーパーラグビー」に参戦した。

 

 2019年に日本で開催されるラグビーW杯をにらみ、日本代表の強化を目的としている。

 

 日本代表フッカーの堀江翔太は3年前からスーパーラグビーに身を置いている。ニュージーランド人ヘッドコーチ、マーク・ハメットからの信頼も厚い。

 

「ハマーさん(ハメット)は監督というより選手に近い感じですね。僕らの意見をしっかり聞いた上で、モチベーションを上げるようなやり方をしてくれる。その意味では人格者の印象を持ちます。

 

 一方で(前日本代表ヘッドコーチの)エディー・ジョーンズさんは“スタッフのやり方は絶対”という考えの持ち主で、僕らに“ああしろ、こうしろ”という人でした。

 

 正直言って、精神的にはきつかった。もうギャンギャン言ってきましたからね。しかし結果が出たということは、やり方は間違っていなかったということでしょう」

 

 昨年のスポーツ界のMVPはラグビー日本代表だった。9月に開催されたW杯イングランド大会で世界ランキング3位の南アフリカを撃破するなど、3勝をあげた。

 

 堀江は副キャプテンとしてキャプテンのリーチ・マイケルを支えた。エディーの方針を理解した上で、選手同士で話し合う場を設けたりもした。

 

「まるまるエディーさんの意見を聞き、実行しても実際の試合ではうまくいきません。大事なのは、僕ら選手たちがどう消化し、プレーにつなげていくか。そこはしっかり話し合ったつもりです」

 

 ポジションはフッカー。FW最前列の真ん中でプレーする。

 

 FWの中では比較的、器用な選手が多いポジションだが、堀江の場合、走って良し、パスして良し、キックして良しと、その万能ぶりは目を見張るものがある。

 

 とりわけ背中越しに、ヒョイと放る“背面パス”は、この異色のフッカーのトレードマーク。ラグビーが持つ魅力――激しさのみならず愉しさをも堪能させてくれる。

 

「実は中学時代にバスケットをやっていたことがあるんです。ラグビーの練習が週1回だったので、それだけじゃつまらなくて。バスケットで覚えたハンドリングの技術が生きているのかもしれません」

 

 そして、続けた。

「お客さんが喜んでくれるのであれば、1試合に1回くらいはお見せしたい。横に山田章仁のような気心の知れた選手がいれば阿吽の呼吸でできるんですが、慣れていない選手相手にやると、向こうも予想していないので捕りにくいようです。いずれにしても“フッカーのイメージが変った”といわれるのは僕にはありがたい。いろんな種類のフッカーがいてもいいんじゃないでしょうか。僕の場合は異色だと思っていますけど……」

 

 蛇足だが日本サッカー史上最高のストライカーと自他ともに認める釜本邦茂が少年時代、野球に親しんだことは広く知られている。これがサッカーに生きたと日本経済新聞の名物コラム「私の履歴書」で書いていた。

 

<私がヘディングの落下地点に苦もなく入れるのは運動神経が発達する時期にフライを追いかけたことと関係があると思っている。一つの競技に絞るのが今は少し早すぎるかもしれない>(2月29日付)

 

 釜本といえば右45度からの強烈な右足シュートが有名だが、ヘディングも強かった。野球少年時代に、その感覚が養われたのだとしたら、幼き日の“二足のワラジ”は無駄ではなかったということだ。

 

 堀江は少年時代、バスケットの他にサッカーも経験している。それがキックの正確性につながっているのだろう。

 

 二足ならぬ“三足のワラジ”について、堀江はこう語る。

「僕は子どもの頃から“この道一筋”というのではなく、子供が興味のあることは、どんどんやらせたらいい、という考え方です。“ちょっと、やってみぃ”でいいんじゃないかな。あんまり親が“あれやれ、これやれ”と押し付けるのはどうなんかと思いますね」

 

 堀江はトップリーグのパナソニックでもキャプテンを務める。今季の決勝の相手は日本代表を5人擁する東芝。大接戦の末、27対26で3連覇を達成した。

 

「最後の(東芝の)コンバージョンキックが成功していたら、僕らは負けていた。正直言って、蹴る前には負けたかな、と。あれは運以外の何物でもないですね」

 

 日本のラグビーシーンの中心に、堀江はいる。

「とにかく今はサンウルブズに全てを賭けています。僕らの活躍を見て、若い世代の人たちが“ラグビーのプロになる”と思ってくれたらうれしい。(海外とのホーム&アウェイ方式のため)しんどいし、きつい。しかし同時にやり甲斐も感じています。僕らの活躍が2019年につながると確信していますから……」

 

 この1月で30歳になった。W杯は33歳で迎えることになる。

「年齢的にはギリギリですかね。でも、まだやれます。僕にとっては最後のW杯だと思っています」

 

 3年後なんてすぐにやってくる。


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