貴闘力(大相撲・元関脇)<後編>「賜杯の夜、20軒のハシゴ酒」
二宮清純: 「この人と飲みたい」は引き続き貴闘力さんと、雲海酒造の本格芋焼酎『木挽BLUE』を飲みながらの相撲談義です。
貴闘力: いやいや、お待たせしました。他のテーブルのお客さんに呼ばれたので、ちょっとご挨拶に。
二宮: このお店(焼肉「ドラゴ」)はオーナーの貴闘力さん目当ての方も大勢来ているようですね。駆けつけ三杯、改めて木挽BLUEをどうぞ。
貴闘力: ふぅー。キリッと冷えた芋焼酎のロックが体に染み渡ります。木挽BLUEは香りが良く、さらに喉越しもスッキリしていて飲みやすいですね。
二宮: ドラゴ自慢の分厚いお肉とも相性抜群です。
貴闘力: あっ、肉はどんどん食べてくださいね。焼き過ぎ注意です。
二宮: お酒の方もじゃんじゃんどうぞ。
貴闘力: いやー、美味しくて息子(納谷・三段目)の十両入りまで節酒中なのを忘れそうですよ(笑)。
30過ぎの肉体改造
二宮: さて、店内には現役時代の写真が数多く飾られています。その中でやはり2000年春場所の優勝パネルはひときわ輝いて見えますね。
貴闘力: 20年近く経った今もお客さんから「あれはすごかった」と言われます。
二宮: そりゃそうですよ。大相撲の歴史の中で唯一の幕尻優勝なんですから、好角家なら誰もが覚えています。あのとき貴闘力さんは、前の場所で藤島親方(元大関貴ノ花・故人)から引退勧告を受けていたそうですね。
貴闘力: はい。たしか初場所の12日目だったか13日目だったか、先代(藤島親方)に「お前、明日負けたら引退だ」と言われました。前頭10枚目で12日目を終えて4勝8敗。大負けすれば十両陥落は濃厚でした。
二宮: 当時32歳。潔く退け、と。
貴闘力: 先代なりの親心もあったんでしょう。でも僕はびっくりして、「ちょっと待ってください」と。それで残り三番で2つ白星を積み重ねて、なんとか首の皮一枚つながりました。
二宮: それで迎えた春場所。番付は幕尻と呼ばれる前頭14枚目でした。板子一枚下は地獄ならぬ十両です。まさに崖っぷち……。
貴闘力: 次も負け越して十両に落ちたら、先代の言うとおり引退です。相撲界で親方は絶対ですから。でも、まだ引退するわけにはいかないと。それで肉体改造に取り組んだんです。
二宮: 30歳をとうに過ぎてからですか。どんなトレーニングを?
貴闘力: 説明するのは難しいのですが、要は体の後ろの筋肉を素早く動かそうとしたんです。背中や尻の筋肉を鍛えることで、それが可能になる。スピードも出るし、力を一点に集中できるんですね。僕は「連動式トレーニング」と呼んでいました。
二宮: そのトレーニングの効果は抜群でしたね。貴闘力さんは初日から12連勝。横綱、三役を含めて他に全勝力士はおらず、幕尻優勝が現実のものとして見えてきました。
貴闘力: 協会はさぞ慌てたでしょうね。13日目に横綱・武蔵丸、14日目に横綱・曙をぶつけてきたんですよ。僕は優勝したことよりも、協会が”貴闘力を潰しに来た”ことの方が痛快でした。
二宮: 曙対武蔵丸の横綱対決を飛ばしてまで、ですからね。
貴闘力: そこまでして平幕力士の優勝を阻止したかったんでしょう。
二宮: 両横綱には敗れましたが12勝2敗。千秋楽の相手は11勝3敗の関脇・雅山さんでした。貴闘力さんが敗れて12勝3敗となれば、最大5人による優勝決定戦の可能性もありました。
貴闘力: あの一番、雅山も気合い十分でした。立ち合いで突っかけてきて、二度目の仕切りでも突進してきた。その突きで一発で吹き飛ばされて、土俵際に追い込まれた。一瞬、「もうダメだ……」と思いましたよ。
むき出しのご祝儀
二宮: ところが、です。貴闘力さんが雅山さんの左腕をたぐるようにして体を入れ替えた。すると関脇はたまらず崩れ落ち、送り倒しで優勝決定。その瞬間、大阪府立体育会館の館内には座布団が舞いました。あのシーンは今も鮮明に覚えていますよ。
貴闘力: 必死に左腕にしがみついたら、相手の方から崩れていったんです。足もうまく抜けたし、もし右腕にしがみついていたら負けていましたね。
二宮: トレーニングの成果ですか?
貴闘力: はい。あの場所、バーンと当たられてもヒザが伸び切らず、左右の動きも速かった。土俵際でも余裕があればどうにでも体が動いたんですよ。
二宮: 優勝が決まってから、貴闘力さんは何度もタオルで顔をぬぐっていました。やはり涙が?
貴闘力: アハハハ。鬼の目にもなんとかですよ。
二宮: ふぅ。熱戦を振り返ったからか喉が乾きましたね。
貴闘力: 私も昔を思い出して熱くなりました。木挽BLUE、おかわりをいただきます。
二宮: どうぞ。ところで伺うまでもありませんが、これまで一番美味しかったお酒は、やはりこの優勝したときですか?
貴闘力: そうですね。まさに美酒でした。ただ、あまりはっきりと覚えていないんです。
二宮: 飲み過ぎましたか?
貴闘力: というよりも優勝決定の瞬間から、無我夢中だったからか夢のような感じで、天皇賜杯を抱いたこともうろ覚えです。
二宮: では、その後、大阪の繁華街・北新地に繰り出してからのことも?
貴闘力: 夢の中にいるような感じで、よく覚えていません。10軒、いや20軒はハシゴしたんじゃないですかね。行く先々で「ようやった! 飲め飲め!」でしたから、酔いも回ってフラフラだったでしょう。でも、最高の気分でした。
二宮: 20軒のハシゴ酒とは……。貴闘力さんは人気があったから、振る舞い酒もすごかったでしょう。
貴闘力: ご祝儀もたくさんいただきました。翌朝、目が覚めたら着物の帯や外套のポケットが祝儀でぎゅうぎゅうになっていた。若い衆に「数えてみろ」と言うと、一千万円はありましたね。でも、入れるところがなくていくらかは落としたんじゃないかなあ。
二宮: 落とした!?
貴闘力: 仲の良かったタレントのやしきたかじんさんからも300万円ほどいただきましたけど、もしかしたら(笑)。
幻の貴・貴対決
二宮: 貴闘力さんは藤島・二子山部屋に所属し、若貴兄弟による平成の相撲ブームの真っ只中にいました。当時を振り返って、どうですか。
貴闘力: 若貴は善玉、ベビーフェイス。かたやこっちは悪役、ヒールでしたね。
二宮: 同部屋ゆえに貴乃花さんとの対決はありませんでしたが、戦ってみたかった?
貴闘力: 当然、やってみたかった。僕は26歳で大鵬親方の娘さん(三女)と結婚したんですが、そのとき先代に「大鵬部屋に移籍させてください!」と頼んだんですよ。
二宮: 貴乃花さんと戦うために?
貴闘力: そうです。「今だったら3回やったら1回は勝つ自信があります!」と言ってね。でも「お前はバカか!」と一蹴されました。
二宮: 当時、貴闘力さんと貴乃花の対決が実現していたら、盛り上がったでしょうねえ。
貴闘力: 大相撲は興行ですから、お客さんが喜んでくれることが一番。貴・貴対決があったとしたら、すごく喜ばれたでしょう。
二宮: 貴乃花さんはこの話、知っていますか。
貴闘力: もちろん。「3回に1回? せいぜい5回に1回だよ!」と言って笑っていました。
二宮: アハハハ。藤島一期生対決は見たかったなァ。それにしても貴・貴対決なんて、貴闘力さんは昔から面白いことを思いつきますね。今も頭の中にはアイディアがいっぱい詰まっているのでは?
貴闘力: いっぱいありますよ。大相撲はこうしたらお客さんも呼べるし、力士になりたい子供も増える。そんなアイディアがいっぱいです。でも、それを実行するとしたら僕には時間がなさすぎます。今は店の経営が本当に楽しいんですよ。
二宮: 仕入れや買い出しも自ら出かけていると聞きました。
貴闘力: はい。とにかく、一人でも多くの人に喜んで食べてもらいたい。その思いでやっています。たとえば家族4人で月に1回、「あそこに行こうよ」と子供たちが楽しみにする場所になりたい。そしておなかいっぱい食べてもらって、「また来ようね」と笑顔で帰っていく。そういうお店にしたいんです。
二宮: 貴闘力さん、全然、悪役じゃないですよ(笑)。では、最後にもう一杯、木挽BLUEをどうぞ。
貴闘力: 結びの一番ですね。ふぅ、最後の一杯まで変わらず美味しいですね。しかし、お酒というのは不思議です。
二宮: というと?
貴闘力: 今日、何杯も木挽BLUEをいただきましたが、ひとつとして同じ一杯というのはなかった。そのときの話題や食べ物によってちょっとずつ口当たりや飲み口が違っていました。まるで相撲のようです。
二宮: 相手次第で変幻自在だと。
貴闘力: はい。木挽BLUE、相撲にたとえればどんな相手も自分のペースに引き込む懐の深い力士という感じです。
二宮: まるで現役時代の貴闘力さんのようです。
貴闘力: 僕の相撲で「スカッとした」と言ってくれるファンの人も多かったから、似ているかもしれませんね。味わい深くてスッキリしている……これはクセになりそうですね。アハハハ。
(おわり)
(文・写真/SC編集部・西崎)
<貴闘力(たかとうりき)プロフィール>
1967年9月28日、兵庫県生まれ。本名・鎌苅忠茂。中学卒業後に、藤島部屋(のちの二子山部屋)に入門。83年3月場所で初土俵を踏み、90年9月場所には幕内入りを果たす。91年5月場所で小結に昇進し、その後、長く三役から幕内上位に定着した。2000年5月場所は幕尻の前頭14枚目まで落ちたが、その場所で史上初となる幕尻優勝を達成した。02年9月場所を最後に現役引退。その後、年寄・大嶽を襲名し、大鵬部屋を継承するも、10年に賭博問題で相撲協会を解雇された。現在は焼肉店「ドラゴ」など飲食店を広く展開する。最高位は関脇。通算成績は754勝703敗、三賞(殊勲・敢闘・技能)14回、金星9個。
今回、貴闘力さんと楽しんだお酒は芋焼酎「木挽BLUE(ブルー)」。宮崎の海 日向灘から採取した、雲海酒造独自の酵母【日向灘黒潮酵母】を使用し、宮崎・綾の日本有数の照葉樹林が生み出す清らかな水と南九州産の厳選された芋(黄金千貫)を原料に、綾蔵の熟練の蔵人達が丹精込めて造り上げました。芋焼酎なのにすっきりとしていて、ロックでも飲みやすい、爽やかな口当たりの本格芋焼酎です。
提供/雲海酒造株式会社
<対談協力>
ドラゴ 横綱通り店
東京都江東区清澄2-9-11
TEL:03-3641-1129
営業時間:月~土17:00~24:00(LO23:00)、日・祝17:00~23:00(LO22:00)
定休日:無休
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今回、貴闘力さんと楽しんだお酒の名前は?
お酒は20歳になってから。
お酒は楽しく適量を。
飲酒運転は絶対にやめましょう。
妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。