日本サッカーにおけるGK史は元日本代表・川口能活の出現以前と以降に分けることができる――。私はそう考えている。

 

 

 川口が出現するまで、日本のGKは「専守防衛」だった。守ってナンボである。

 

 もちろん、GKの一番の仕事は守備だが、川口は正確かつ素早いフィードにより、攻撃の起点としての役割も果たした。

 

 その川口が日本代表・育成年代のGKコーチに就任するというニュースが飛び込んできた。12月7日付けの日刊スポーツが報じたもので、川口からはすでに内諾を得ているという。

 

 本人も12月2日の引退会見で「GKとしてやってきたことを若い選手にフィードバックしたい」と指導者への転身に前向きな意向を示していた。

 

 川口は現在43歳。「まだ余力はある」と体力には自信があることをほのめかしていた。実技を交えながらの指導となるだろう。

 

 さて川口といえば、今から22年前の“マイアミの奇跡”について触れないわけにはいくまい。

 

 アトランタ五輪初戦で、U-23日本代表は優勝候補筆頭のブラジルU-23代表相手に1対0と歴史的な勝利を収めた。その立役者こそが28本ものシュートを浴びながら、ただの1度もゴールラインを割らせなかった川口だった。

 

 とりわけ前半30分の守りは神がかり的だった。スピード自慢のジュニーニョがミドルシュートからのこぼれ球を狙って飛び込んできたところを、敢然と突っ込み、弾き返してみせたのだ。

 

 もし前に出るタイミング0コンマ1秒でも遅れていたら、次の瞬間、間違いなくボールはゴールネットを揺らしていたことだろう。こうした“攻撃的守備”こそは川口の最大の持ち味だった。

 

 後日、川口は語ったものだ。

「僕はファーストタッチの感覚を大切にするんです。どんなかたちでもいいから、しっかりボールを触り、感覚をつかむ。これがうまくいけば、いい仕事ができるんです」

 

 想像するに、川口は熱血型の指導者になるのではないか。というのも、自らがその手の指導を受けてきたからである。

 

 1995年から約4年間に渡って、代表GKコーチを務めたジョゼ・マリオはスパルタ指導に定評があった。一日、数百本ものシュートを浴びせ、しっかりとキャッチする習慣を身に付けさせた。

 

 川口によると、キャッチがうまくいかないと、練習を終わりにさせてくれなかったという。野球でいえば“千本ノック”である。

 

 もっとも厳しいだけでは今の選手はついてこない。そこは川口も心得たもので「日本のゴールを守らなくてはという気持ちばかりでは自分本来の力が発揮できない。強い相手との対戦を楽しむくらいのメンタリティを持って欲しいですね」と語っていた。

 

 川口はGKとして五輪に1回、W杯には4回も選出されている。「世界を知る」GKコーチの登場により、日本サッカーの風景はどう変わるのか。それを楽しみにしたい。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2018年12月30日号に掲載されたものです>

 


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