(写真:試合後はメイウェザー<右>に称えられた那須川だが、屈辱を味わった)

 31日、「RIZIN.14」がさいたまスーパーアリーナで行われた。注目のフロイド・メイウェザー(アメリカ)と那須川天心(TARGET/Cygames)のスペシャルマッチは、メイウェザーがKO勝ち。RIZINバンタム級タイトルマッチは昨年の同級グランプリ(GP)王者の堀口恭司(アメリカントップチーム)がBellator同級王者のダリオン・コールドウェル(アメリカ)を下した。RIZIN女子スーパーアトム級タイトルマッチは浜崎朱加(AACC)が昨年の同級GP覇者の浅倉カンナ(パラエストラ松戸)を破った。堀口と浜崎はそれぞれの階級で初代王者となった。

 

 寒波を吹き飛ばすような熱気がさいたまスーパーアリーナを包んだ。2015年末に旗揚げ以来、過去最多2万9000人を超える観客が集まった。その多くのお目当てはメインイベントとなったエキシビションマッチだ。50戦無敗のボクシング元世界王者メイウェザーと、キックボクシングの“神童”那須川の一騎打ちである。

 

(写真:メイウェザーに振り回された那須川。いつも以上に気合いが入っているようだった)

 とはいえ11月5日のカード発表から試合成立まで紆余曲折あった。一時は開催すら危ぶまれるほどだ。キックとグラウンドなしのボクシングに近いルールで、契約体重も約66.7kgで那須川より重いメイウェザー圧倒的有利なものとなった。前日計量時の2人の体重差は4.6kg。当初は同じ8オンスのグローブを使用する予定だったが、前夜のルールミーティングでメイウェザーのみ10オンスに改められた。

 

 それでも那須川不利に変わりはない。3分3ラウンドのスペシャルマッチ。那須川はリングに上がるまで何度か叫んだ。溢れんばかりの気合いと闘志を露わにした。対するメイウェザーは終始リラックスした表情でリングイン。その後も那須川を挑発するかのように笑みを浮かべ続けた。

 

 ゴングが鳴っても依然としてメイウェザーは那須川をからかうような素振りを見せる。しかし、那須川に容易く踏み込ませない。あくまでも距離感はコントロールしていた。試合前から「エキシビション」「エンターテインメント」を強調していたメイウェザーのギアが上がった瞬間があった。

 

(写真:左ストレートを当てたが、大きなダメージを与えるまでには至らなかった)

 きっかけは那須川の左ストレートだ。「渾身の一発」はメイウェザーの顔色を変えたという。高度なディフェンステクニックを披露し、那須川にパンチを当てさせない。そういった大方の予想を裏切り、メイウェザーが一気に攻勢を仕掛ける。

 

「圧力が倍以上。怖さがものすごく増した」

 メイウェザーとのパンチの威力は歴然たる差があった。ジャストミートしなくともフックを浴びてよろめく那須川。最初のダウンを喫した。那須川も意地を見せて反撃を試みたが、再びフックで倒される。3度目のダウン後、立ち上がって戦う姿勢を貫いた。

 

 最後はタオルがリングに投じられ、試合の幕は引かれた。1ラウンド2分19秒TKO。那須川はコーナーで涙する。この試合は公式戦ではないので記録には残らない。「心には一生残る」と那須川。20歳の若武者は「本気でいけると思っていた」と“初黒星”を悔しがった。

 

(写真:「立とうとしてもなかなか立てなかった」と何度もぐらついた)

 2人の体重差、実力差からマッチメイク自体に疑問を呈す向きもあった。「公平性を担保すべきでは?」という質問に、榊原信行実行委員長は「競技化すればするほどつまらなくなる。(今回は)リスクを恐れずに生まれた作品。これからもギリギリを攻めたい」と答えた。「今回のことで競技化しようとは1ミリも思わない」とエンターテインメント性を重視する方針は崩さない。その一方で「もう少し天心に寄ったルールでできれば良かった」と本音も明かす。

 

「果たし合い」という表現を繰り返していた榊原実行委員長。今回の一戦で那須川が受けたダメージは少なくない。メイウェザーへの挑戦は勇敢だと称賛されるのか、蛮勇と批判されるのか。ファイターは勝負に命を賭している。どこまで選手を守るべきか。格闘界はまたひとつ難題を突き付けられた。

 

 一本勝ちで掴んだ新設タイトル

 

(写真:打撃でも浅倉<左>に主導権を握らせなかった浜崎)

 新設された女子スーパーアトム級、バンタム級のタイトルマッチが行われた。まずは女子スーパーアトム級。“ジョシカク”のエース候補は昨年女子スーパーアトム級GPを制した浅倉だ。これまでRIZINの“ジョシカク”を引っ張ってきたRENA(シーザージム)に2連勝した。

 

 しかし、今回の対戦相手・浜崎はMMAではRENA以上の実力者と言ってもいい。2015年、アメリカのInvicta FCの世界アトム級を獲得。2度の防衛を果たしている。2018年よりRIZINに参戦し、2連勝。初代女王の座をかけて浅倉と対戦したのだ。

 

(写真:36歳の浜崎は経験と実力の差を見せつけたかたちだ)

 共に寝技を得意とするが、スタンディングでの攻防となった。打撃で優位に立ったのは経験で勝る浜崎だ。浅倉に距離を掴ませない。2ラウンドには腕をうまく取ると、グラウンドに転じて最後は腕ひしぎ逆十字で極めた。浅倉も脱出しようと試みたが、逃げ切れずにタップした。

 

「得意なかたちで一本取れた」と浜崎。「これから強い相手を準備される。しっかり勝っていきたい」と意気込んだ。敗れた浅倉は「打撃も寝技もまだまだ敵わなかった。強いことはわかっていたけど、世界のレベルの強さを感じた」と唇を噛んだ。

 

(写真:「もっともっと日本の格闘技界を盛り上げたい」と意気込む堀口)

 バンタム級は団体の垣根を越えた一戦となった。RIZINvs.Bellator。MMA日米バンタム級最強決定戦だ。身長で13cm、リーチでも堀口を大きく上回るコールドウェルは、レスリングで培ったグラウンドテクニックで勝負してきた。

 

 序盤から低く、鋭く飛び込んでくるコールドウェルに苦しめられた。グラウンドではコールドウェルが攻勢、堀口が守勢に回った。「セコンドは『1、2ラウンドは取っている。3ラウンドも取りに行け!』と言っていたが、自分の中では負けている印象があった」と堀口。3ラウンドに勝負をかけた。

 

(写真:グラウンドで攻め込まれながら、してやったりのチョークで引っくり返した)

 コールドウェルにテイクダウンを奪われ、ロープ際に追い込まれた。しかし、すべては「想定通り」だった。「彼が負けている試合でギロチンチョーク(フロントチョーク)があった。チャンスがあればと思っていました」。堀口は相手の首をとらえ、締め上げた。コールドウェルがギブアップし、堀口が勝利した。

 

「日本で戦っているのに負けるわけにはいかないでしょ」とマイクパフォーマンス。観客を大いに盛り上げる逆転劇だった。榊原実行委員長は「積極的にRIZINとBellatorを交流させていきたい。いずれは選抜同士の対抗戦も」と展望を述べた。コールドウェルは「素晴らしいファイター。今まで戦った中でもベストです。アメリカでケージの中で戦ってほしい」と再戦を望んだ。堀口も敵地に臨むことは辞さない構えだ。

 

(文・写真/杉浦泰介)