樋口: まさにファイン・チューニングの話ですね。これは実業界においてもいえることですが、外から採る人材と生え抜きとを、どう組み合わせていくのか。その戦略が描き切れていないと巨人のようになってしまいますね。

 

<この原稿は『月刊現代』(講談社)2005年2月号に掲載されたものです>

 

 といって純血主義では強いチームはつくれません。すべてアウトソーシングに任せるというのも無責任です。頑張ればレギュラーポジションを確保できるという道筋を示し、事例を示していくことが大切になります。

 

二宮: 私は“五角形の法則”と呼んでいるのですが、プロ野球の強化方法は基本的には次の五つです。①ドラフト②トレード③FA④外国人⑤育成(ファーム)――。この五つがバランス良く組まれ、正五角形に近いチームが好成績を残すというのが私の持論です。

 

 一昨年の阪神などはその典型ですよ。FAで獲った広島の主砲・金本知憲が打線の軸となり、外国人もジェフ・ウィリアムスが見事にクローザー役を果たした。トレードでも日本ハムから移籍した野口寿浩がレギュラーの矢野輝弘が欠場した穴を埋めました。

 

 ドラフトでは5位入団の久保田智之が中継ぎとして活躍し、生え抜きも7位入団の“雑草”藤本敦士などが成長を遂げました。監督としての星野仙一氏(現シニア・ディレクター)の手腕はもちろんですが、GM的存在として“五角形”を機能させたことが優勝の原動力になったと私は見ています。

 

 逆にいえば、成果の表れない球団は“五角形”のバランスが崩れているということです。

 

 育成機関の二軍は――

 

樋口: まさに、そこなんです。その五角形の中でも、とりわけ軽視されているのが育成機関の二軍ですね。かつて二軍は育成機能を持っていて、一軍選手をつくるための教育訓練機関だったわけです。ところが二軍は利益を生まないということで、どんどん圧縮される傾向にある。

 

 ここにFA制度が導入されて以降のプロ野球入団者数のデータがあります。FA制度が導入されたのが93年ですが、それ以前の10年間、1年あたりどのくらいの選手たちがプロ野球に身を投じたかという平均で89・1人です。ところが93年以降の10年間は、1年あたり74・8人です。しかも、二軍の選手の見切りをつけるまでの期間も短縮している。

 

 理由はFA権を行使できる一流選手の年俸がはね上がったことで、そのシワ寄せが二軍選手にいってしまった。採用者を切り詰める方向に行ってしまった。どうしても球団は総人件費を一定の額におさえようとしますから、結果として二軍がリストラされることになったわけです。

 

二宮: 考えてみれば、これは由々しき問題ですね。採用人数が減るということは、私たちが素晴らしい選手と出会う可能性が減るということです。プロの場合、ドラフト上位者、すなわちアマチュアのエリートが必ず評価に見合った活躍をするとは限りません。むしろ、その逆のケースが多い。

 

 たとえば昨季、メジャーリーグの年間最多安打記録を更新したマリナーズのイチローは91年のドラフト4位指名選手(オリックス)です。メッツの松井稼頭央は3位指名選手(西武)。メジャーリーグ挑戦を表明している中村紀洋も4位指名選手(近鉄)です。

 

 過去の名選手の中には秋山幸二や西本聖、大野豊のようなドラフト外選手もいます。掛布雅之や工藤公康、福本豊は6、7位指名選手です。もし“狭き門”になってしまった今の時代なら、彼らのアマチュアでの実績はプロ入りできていなかった可能性が高い。“狭き門”の弊害は、こうした点からも明白だと思われます。

 

樋口: 解決策のひとつとして二軍の最低年俸保証の440万円をもっと下げるという考え方があってもいいと思います。最低年俸を下げることで採用者をもっと増やすことができる。ドラフトの契約金、まして“裏金”にいたっては言わずもがなですが……。

 

 そこで提案なのですが、プロ野球はもっと積極的に情報公開しなければならない。球団経営を監視する第三者機関をつくるべきです。昨季のプロ野球をにぎわしたドラフトの“裏金”なんて、政治の闇献金みたいなもので、とても不健康ですよね。それをチェックするにはまず、透明性を確保する仕組みを作らないといけないと思います。

 

(後編につづく)


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