国際交流に積極的に取り組む高知ファイティングドッグスは昨年12月、ブラジルで野球教室を開催した。講師として参加したのがアイランドリーグ1年目を終えた石井大智だ。「ブラジル行きも野球教室の講師も初めて」という石井は約2週間、ブラジル各地で野球を広めて回った。「教えることで自分も成長できた」と語る石井にブラジル野球について聞いた。

 

  恵まれた環境に感謝

 最初、球団から「ブラジル野球教室の講師に決まったから」と言われたときには、「エーッ!」という驚きだけでした。チームに入って1年目を終えたばかりだし、もちろんこれまで講師をしたこともない。さらに海外渡航も6月にチーム遠征で韓国に行ったくらいで、もちろんブラジルなんて未踏の地でした。「え、本当ですか? 僕でいいんですか?」という感じでしたが、あれよあれよと話が進み、気がついたときには機上の人でした。ブラジルまで24時間の旅、長かったです(笑)。

 

 僕の中ではブラジル=サッカーというイメージがあり、「野球は人気もレベルもそう高くないんだろうな」と思い込んでいました。それが現地に到着して在ブラジル日系野球チームの方々と交流させていただくと、想像以上にレベルが高く、そして球場には多くのお客さんが詰めかけてくれました。到着してすぐにブラジルの野球熱を感じられましたね。

 

 気候は毎日40℃前後という暑さでしたが、カラッとしているから過ごしやすかったです。野球をするにもちょうどいい感じで、野球教室にはブラジルの子供たちが大勢来て、予定では午後3時までのはずが、夕方の5時、6時まで延長したほどです。「うまくなりたい!」という気持ちが強くて、「なんで?」「どうして?」といろいろな質問をされました。それは子供たちだけでなく、指導者の方も同じでした。「ブラジル野球を強くしたい」という熱意に、こちらとしても応えたくて時間が経つのなんて忘れていましたよ。

 

 今回、初めて講師をやって思ったのは、人に教えることで逆に教えられることもあるんだな、ということです。

 

 たとえば「じゃあボールを投げてみよう」というと、握り方など基本中の基本から教えないといけない。しかも「指2本を縫い目にかけて」と説明すると、それに対しても「なんで?」と聞かれる。そういえば少年野球のときに監督から、どうして2本の指を縫い目にかけるのかを教わったな、と思い出しながら、子供たちに教えていました。何を教えても、とにかく「なんで?」「どうして?」ですから、それに答えていくうちに、自分でも野球の基本を再確認できたように思います。

 

 その他、自分たちがいかに恵まれた環境で野球ができているかということも実感しました。現地で使っている道具は割れた金属バット、縫い目の切れたボール、革が破れたグラブなどで、今回、野球教室開催と同時にボールなどの道具も提供しましたが、選手たちが本当に嬉しそうだったのが印象的です。海外野球教室は初めての体験でしたが、これから個人としても海外交流を続けていきたいと思っています。

 

 ライバルはロッテ成田翔

 昨シーズンを振り返ると、ルーキーとして右も左もわからない状態から、後期はきちんと試合を作れるようになったと感じています。最初、アイランドリーグに入ったときには、周りに高校、大学の名門校出身者ばかりで「通用するのかな」と思ったものです。アマチュア時代と比べると打者も投手もレベルが高く圧倒されました。でも、練習を続けていくうちに先輩たちから「お前の球なら抑えられる」と言われ自信がつきました。

 

 高知に入ってからマウンドで気をつけているのは、考えすぎないことです。高専時代からマウンドでは気負ってしまうことが多く、コーチからは「もっと気持ちを出していけ。思い切って投げろ。試合の8割はピッチャーで決まるんだからな」と励まされ、ようやく後期に入ってからマウンドでも余裕が出てきました。

 

 ただ秋に参加したフェニックスリーグでは、NPBの2軍を相手にして大乱調。どこに投げても打たれるような気がして、まったく自分のピッチングができませんでした。シーズン中に福岡ソフトバンクの3軍とは戦っていますが、やはり2軍となるとグンッとレベルが上がるんですね。でも、逆にいい経験だったかなと思っています。NPBを目指す上で、まったく足りないことだらけだと思い知らされたので、今オフからトレーニングに励み、この秋にはドラフト指名されるように頑張りたいです。

 

 僕がNPBを目指しているのは、千葉ロッテの成田翔ともう一度、ライバルとして勝負したいからなんですよ。翔とは中学時代の同級生で、最初は僕の方が登板機会が多かったんですが、中2の途中から翔の方が出番が多くなって、立場が逆転。向こうは高3でNPBにドラフト指名されました。高専に進んだ段階で「本気の野球」は卒業したはずなんですが、翔がNPBに行ったことで、中学時代からのライバル心に再び火がつきました。まずはNPBに指名されて、彼に並ぶところが目標です。

 

 今季、僕は年齢でいえば大学4年生と同じです。投手陣を引っ張ってきた先輩たちが昨シーズン終了後にほとんど抜けて、自分が投手陣を引っ張る立場にならなきゃいけないと思っています。この1年で球速もアップして、目標の150キロも見えてきました。1年目に学び、そして吸収したことをいかして、チームの中心として頑張ろうと思っています。応援よろしくお願いします。

 

 そして、最後に改めて、ブラジル野球教室に協力いただいた方々にお礼を言わせてください。今回のブラジル訪問ではブラジル野球教室基金としてファンの皆様からの協力もいただきました。おかげさまで無事にブラジル4都市で野球教室を実施することができました。この場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。

 

<石井大智(いしい・だいち)プロフィール>
1997年7月29日、秋田県出身。野球を始めた小学生時代はピッチャー、中学進学後、軟式野球部に入部してからは投手、内野のレギュラーとして活躍。秋田工業高等専門学校では再びピッチャーを務めた。高校時代、県大会は2回戦止まり。中学の同級生・成田翔が千葉ロッテにドラフト3位で入団したことに刺激を受けNPBへの思いが再燃、高専5年生で四国アイランドリーグplusのトライアウトを受け、高知ファイティングドッグスにドラフト4位で入団した。ルーキーシーズンからローテーションの一角に食い込み、18年は21試合に登板。2勝4敗、防御率2.08、62奪三振の成績を残す。秋にはIL選抜の一員として宮崎で行われたフェニックスリーグにも参加した。右投右打。身長174センチ、体重75キロ。


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