元貴乃花親方などのモノマネで人気の松村邦洋がTBS系「アッコにおまかせ!」で「今年(2018年)の漢字一文字は『貴』ですよね」と語ったことが随分話題になっていた。

 

 

 その意見に同意する。2017年11月に弟子の貴ノ岩に対する元横綱・日馬富士の暴行事件が発覚して以来、元貴乃花親方に関するニュースがワイドショーに流れない日はなかった。

 

 昨年10月に日本相撲協会を退職してからも元貴乃花親方は話題の中心であり続けた。

 

 愛弟子・貴景勝の九州場所優勝、貴ノ岩の弟弟子に対する暴行、そして引退、景子夫人との離婚、長男・優一の芸能活動を巡る意見のくい違い……。2018年は、まさに「貴」の年だった。

 

 私も何度かコメンテーターとしてワイドショーに呼ばれたが、「こんなに毎日、貴乃花関連のニュースばかりやっていて視聴者は飽きないんですか?」と問うと、決まって「いや視聴率がとれるんですよ」という答えが返ってきた。

 

 言われてみれば、確かにそうだ。視聴率のとれないネタをワイドショーが扱うわけがない。民放は各局揃って元親方にお歳暮でもおくるべきだろう。

 

 こうしたテレビ界隈の喧騒をヨソに、元親方は「花田光司」としての仕事を開始している。

 

 昨年12月18日には東大安田講堂で、東大の院生に向けて「日本相撲界のイノベーション」と題した講義を行った。取材した記者によると、パワーポイントを使う手付きこそ怪しかったが、話しぶりは堂に入ったものだったという。

 

 講義では相撲界のセカンドキャリアについても言及した。元親方がそうだったように、相撲界には中学卒業後すぐに角界に身を投じる者が少なくない。現在の日本人横綱では稀勢の里がそうだ。

 

 横綱・大関とは言わないまでも、給料の出る十両まで行けば大成功だ。しかし、大半の者は関取になれないまま角界を去っていく。気前のいいタニマチも、今では探すのが難しい。

 

 元親方も弟子たちの引退後の職探しには苦労したという。「やりたいことを聞いて、料理の道に進みたい子は料理学校に通わせたりしていました」と語っていたが、飲食の道で成功するのも、また一握りである。

 

 親御さんだって、先行きの見通しの立たない仕事に、息子を就かせようとは思う

まい。大横綱の千代の富士は「飛行機に乗せてやる」との誘い文句に心を動かされ、北海道からの上京を決意したというが、それはもはや昭和のおとぎ話である。

 

 また元花親方は「ひとりでも多くの少年少女たちと土俵の上で触れ合うため」の活動拠点づくりも明言している。

 

 四股をはじめとする相撲の基本動作は老若男女を問わず、体力づくりにはもってこい。ポスト平成の「社会体育」にもつながる。また土俵を中心にしたまちづくりが進めば、地域振興に資することもできるだろう。

 

 2019年も「貴」の年となりそうだ。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2019年1月20日号に掲載されたものです>

 


◎バックナンバーはこちらから