スポーツコミュニケーションズの好評連載「カープ・アイ」の執筆陣のひとりで『カープの考古学』を連載中の西本恵氏が講談社より『日本野球を作った男――石本秀一伝』を刊行しました。今回は出版を記念し、編集長の二宮清純がインタビューしました。

 

二宮清純: これはカープの初代監督の石本秀一さんの生涯をつづった大変な力作です。まずは石本さんの本を書こうと思ったきっかけを教えてください。

西本恵: 2008年に出版した『広島カープ昔ばなし・裏話』(トーク出版)という本の中でOB会の長谷部稔会長や草創期の入団4年目ぐらいまでの方たちを取材させていただいたときに、その当時のカープ創設のメンバーの方たちが、「今のカープがあるのは石本さんのおかげだ」とか、「石本さんがいなかったら今のカープはない」という話になった。それで興味をもちました。それまでも名前は存じ上げていましたが、取材で評判を聞くたびに石本さんは凄い方なんだなと改めて認識し、その時からですね、石本さんの生涯を追ってみたいと思ったのは……。

 

二宮: 石本さんは初代監督であって、しかも樽募金の発案者ということは私たちも知っていましたけど、この本ではそれ以前のことも深く掘り下げていますね。全10章のうち“カープ以前”がほぼ半分ですからね。

西本: 広島商業の監督として甲子園には6度出場して大正15年夏、昭和4年夏、昭和5年夏、昭和6年春の4度も優勝していますね。

 

二宮: 機動力を重視するカープの野球の原点は石本さんの影響と考えていいのでしょうか?

西本: 影響を受けていると感じることは多々ありましたね。広商時代からエンドランやバントで1点をとる野球をしていました。カープのプレーは石本さんからつながっていると今の野球を観ながらでも感じることがあります。

 

二宮: この本でも書かれていますが、石本さんというのは、一筋縄ではいかない人ですよね。策士でもある。新聞記者の経験もあり、ただの野球人じゃないですよね。今だったらGMのはしりのようなこともされていました。

西本: カープの初期のころは、石本さんが監督だけでなく、全部をやらなくちゃ球団がまわらないという状況でしたからね。自分の知恵やコネ、使えるものは全て使えという感じだったんじゃないでしょうか。

 

二宮: 西本さんが考える、石本さんの魅力は?

西本: 物事の風聞に対する反応が鋭いところです。記者をやられていたというのもあるのかもしれないですね。

 

二宮: 確かにアンテナは高い。あと、人を見る目があったということでしょうか。カープ初代エースの長谷川良平さんを発掘したのも石本さんです。

西本: ノンプロで活躍していたものの長谷川さんは167センチと小柄でした。普通なら「いらん」となりますが、石本さんはテストを受けさせ、合格にしました。石本さんは実際に投げさせてみて、「これは使える」と自分の目で見て判断した。人を見る目の確かさに驚きます。

 

二宮: チームづくりを見ていると、西武やダイエーでGMだった根本陸夫さん的な要素もあったのかなと思います。しかも石本さんはもう1つのプロ野球・国民リーグの監督の経験もあって、そこでも苦労されています。ここで得た経験は大きかったんでしょうね。

西本: そう思われます。とにかくありとあらゆる策を打つ。それが石本流だったと思います。

 

二宮: アマチュアの監督も務め、アメリカ遠征も行い、国民リーグにもいて、ありとあらゆることを経験しているという強みが、血や肉となったんでしょう。広島カープが球団創設2年目で大洋ホエールズに吸収合併されると決まったときも、周囲は大騒ぎでしたが、石本さんは「国民リーグに比べたら何とかなるだろう」と思っていたんじゃないでしょうか。

西本: 全てを受け入れながら、ありとあらゆる過去の経験から遡っていって自らが主体的に手を打っていく。第6章「カープつぶしに屈することなく」で述べていますが、あそこで後援会結成を提案するなんて、常人ではできませんよね。

 

二宮: そうですね。ところで表紙の石本さんの写真がいいですね。これはいつのですか?

西本: 昭和25年4月1日に撮ったものだそうです。

 

二宮: おお! カープが船出した春ですね。

西本: 講談社にこの1枚しか残っていない貴重な写真だそうです。

 

二宮: 次回作に期待します。

西本: ありがとうございます。この本を読んでもらって、今の広島カープにもつながる精神を読みとっていただければ幸いです。

 

『日本野球をつくった男――石本秀一伝』

〇第1章 戦争と中等野球

〇第2章 広島商業の黄金時代を築く

〇第3章 大阪タイガースの監督に就任

〇第4章 戦争に向かう日本――国民リーグ誕生

第5章 故郷広島にカープ誕生

〇第6章 カープつぶしに屈することなく

〇第7章 カープを追いやられる

〇第8章 三原脩からの招聘――球界初のピッチングコーチ

〇第9章 中日のヘッドコーチに――野球技術者として

〇第10章 ふたたびカープに

(講談社/定価:2300円+税/西本恵著)