伊藤数子: 2016年4月に日本ブラインドサッカー協会(JBFA)を含む障がい者サッカーの7競技団体を統括する団体として、日本障がい者サッカー連盟(JIFF)が設立されました。約3年が経ちましたが、各団体との連携は深まっていると感じますか?

塩嶋史郎: 7つの障がい者サッカーは、いろいろなイベントだったり、会合も含めてご一緒する機会は多い。ひとつの体験会を共同で開催するなど、そういう連携は結構できつつあります。JIFFの会合では、それぞれの団体と情報交換をしています。JIFFができたことで共有のスピードアップが図れているのかなと思います。団体同士の繋がりはこれからもっと発展させていきたいと考えています。

 

二宮清純: 各団体との連携を深めつつ、JBFAとしてはブラインドサッカーの普及活動も重要なミッションですね。

塩嶋: ええ。それには何より競技を理解していただくことが大事だと思います。競技の理解者の数が増えれば増えるほど、社会の障がいのある人たちに対する理解が深まることにも繋がる。視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現するのがJBFAのビジョンです。

 

伊藤: 普及のために取り組んでいることはありますか?

塩嶋: 小学校では「スポ育」という体験授業を行っていますが、2017年度は約370件実施しました。ある生徒はアイマスクをしてボールを扱い、またある生徒はガイド役を務める。そこでコミュニケーションの大事さを学ぶ。例えば視覚を奪われた状態の人に対して、ただ「右」と言ってもわかりませんよね。アドバイスを送る側から見れば「右」でもそれを受け取る側からすれば「左」だったり、「右斜め」かもしれない。「あっち」や「こっち」という指示語でも伝わらない。そういった体験が「スポ育」を通じて、できるんです。さらに日本代表選手を講師に迎えることで、そのプレーのすごさを知ることができる。先生や子どもたちに競技の魅力を伝えるとともに、視覚障がいのある人ができることとできないことを知っていただいています。

 

二宮: そのほかにはどういった事業を?

塩嶋: あとは個人版の体験プログラムとして「OFF TIME」、その企業研修版である「OFF TIME Biz」を実施しています。こちらは費用をいただいており、それがJBFAの財源のひとつになっています。新入社員や管理職の研修などいろいろな切り口で、コミュニケーションをテーマとしても使えますし、あるいはチームビルディングとしても利用できる。様々なメニューを揃え、企業にはいろいろな形でご提案させていただいています。それはJBFAの担当者と協議して、いつまでも同じではなく、進化させることを大事にしています。

 

伊藤: ブラインドサッカーから出てきたものをソースにして価値を提供する。素晴らしい取り組みですね。

塩嶋: ありがとうございます。企業によっては各所属部署でブラインドサッカーを取り上げることもありますし、CSRやマーケティング、あるいは本業という観点で関わっていただけているところもあります。やはり我々がどれだけブラインドサッカーを通じて価値を提供し、企業にどれだけ貢献できるかに注力しているんです。

 

 winwinの関係

 

二宮: 今は2020年東京パラリンピックに向けて追い風が吹いているかもしれませんが、いわゆる“ポスト2020”が重要になってきますね。

塩嶋: JBFAではいろいろなパートナー企業とお付き合いしていますが、2020年以降をお互いに意識してやっております。それにパートナー企業同士の連携も大事にしたいと思っているんです。最近では集まっていただく機会をつくり、お互いの親睦を深めています。

 

二宮: いろいろなスポンサーやパートナー企業が増えている中で、今後の事業展開はどのように考えていますか?

塩嶋: 「スポ育」「OFF TIME Biz」など事業ごとにパートナー企業も細分化して理解を深めていこうと考えています。スポンサードしていただく企業やパートナー企業などを、以前は業種などを考えずに全部同じ扱いにしている部分もありました。現在は個々の事業に合致したパートナー企業を繋いで展開していくというようなやり方をしています。それが良い意味で拡大はしてきていると思います。

 

伊藤: さきほどの企業研修などはすごく先進的な試みですよね。今は少しずつパラスポーツを知っている方や1回でも競技を見たことがある人は増えてきています。でも“すごい”“激しい”“カッコいい”で止まってしまっている人も少なくはありません。その中で、JBFAは企業研修に入り込んでいき、スポーツから生み出される新たな価値を使って事業されているわけですよね。

塩嶋: そうですね。そこで何か感じていただくというところが一番大事じゃないかと思いますね。昔はただ「協力してください」「応援してください」という感じの営業をやっていたんです。その時は全く相手にもされなかった。「スポ育」「OFF TIME Biz」などの事業で魅力的なものを作っていく。ブラインドサッカーの魅力を分かっていただきながら、その企業にとって価値を見出していただけるような仕組みづくりを目指しています。

 

二宮: サービスの付加価値ですね。winwinでやりましょうよ、と。

塩嶋: そうなんです。「OFF TIME Biz」はブラインドサッカーの体験ができるだけの研修と勘違いされている方もいるのですが、そうではありません。もちろんブラインドサッカーの体験もやりますが、我々が用意しているのはチームビルディングやコミュニケーションの大事さを学べるメニューです。そこを評価していただけているのかなと思いますね。

 

二宮: やはり企業でもコミュニケーションがとりにくくなっていると言われる中、“こういうやり方がありますよ”というヒントになりますよね。

塩嶋: そうですね。ブラインドサッカーという競技自体もゴール裏にいるガイドが「5メートル、右45度、シュート」などとわかりやすく指示をします。見える人、見えない人が混ざり合うスポーツなんですね。共生社会がピッチに反映されている。そういった面を訴求しやすいスポーツなのかなという気はしています。これからも我々は共生社会実現に向けて、尽力していきたいです。ただサポートを受けるだけに終わらず、きちんと還元できるような取り組みを進めていきます。

 

(おわり)

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塩嶋史郎(しおじま・しろう)プロフィール>

日本ブラインドサッカー協会理事長。1954年、栃木県出身。アクサ生命保険株式会社に勤務。1978年、日本団体生命保険株式会社(現・アクサ生命保険株式会社)入社。全国各地の営業店で営業所長、支社長、エリア営業部長などを務めた後、営業教育、人事研修、社員サービスなどの部署で活躍。ブラインドサッカーには2005年からボランティアとして関わり、2011年より日本ブラインドサッカー協会の理事、2012年に同副理事長に就任。2018年から現職に就く。2019年、日本障がい者サッカー連盟の理事にも就任した。


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