9日付けの本紙に寄稿したザ・デストロイヤーへの追悼文に対する反響の大きさは想定していた以上だった。1963年5月24日、東京体育館の天井裏から宮崎仁一郎カメラマンが撮影した写真のインパクトに依るものだろう。デストロイヤーの2本の太くて短い足でロックされた力道山の両足は確かに「4」の字を描いていた。<照明機具の放つ熱でリングに大粒の汗を落としながらシャッターを切った>。写真の下には宮崎カメラマンの証言が添えられていた。技を掛ける側も掛けられる側も、そして、その瞬間を切り取る側も皆、命がけだったのだ。昭和プロレスの尋常ならざる熱量を示して余りあるエピソードだ。

 

 行く所、行く所、足4の字固めの話題で盛り上がった。地域スポーツ振興の会議では経産省の幹部が、会うなり「懐かしくて思わず買っちゃいましたよ」と言ってカバンから本紙を取り出し、食い入るように足4の字固めを見つめていた。「僕たちの子供の頃と言えば遊びはプロレスごっこ。休み時間になれば、教室の隅で皆4の字固めを掛け合っていましたから」

 

 事務所近くの居酒屋では、年配の常連客がのれんをくぐるなり私に言った。「オレはデストロイヤーのマスクを持っているんだよ」。聞けば、少年時代、関東地区のプロレス会場で恐る恐るサインを求めると、裏口に来いと言われ、使い古しのマスクを一枚プレゼントしてくれたのだという。「そのマスクは今でもウチの家宝だよ」

 

 プロレス好きのバイブルとして知られる『四角いジャングル・ブック』(村松友視、小野好恵共著。冬樹社)にデストロイヤーに関するくだりがある。<あの頃、四の字固めって皆マネしましたでしょう。桃井かおりが、よく弟に掛けたと言ってたよ。(笑)>(小野)<一番真似される技って、コブラツイストと四の字固めですよね、プロレスの技では>(村松)

 

 コブラツイストと足4の字固めには共通点がある。プロレスごっこのレベルでも、痛いことは痛いのだが、骨が折れたりすることはない。それにイタタタッと声を上げると、相手は必ず力を緩めてくれる。掛ける側と掛けられる側には無言の信頼関係があり、殺生は許されない。だからこそ「国民的必殺技」にまで昇華したのだろう。さて足4の字固め、コブラツイストに続く第3の「国民的必殺技」は生まれるのか。

 

<この原稿は19年3月13日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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