力道山やジャイアント馬場と名勝負を繰り広げたザ・デストロイヤーが、さる3月7日(日本時間8日)、米ニューヨーク州の自宅で死去した。88歳だった。

 

 

 正式なリングネームはジ・インテリジェント・センショーナル・デストロイヤー。マスターの学位を持つインテリレスラーは、しかしリングに上がるとセンセーションそのものだった。

 

 少年時代、ブラウン管の向こうのデストロイヤーは本当に怖かった。「白覆面の魔王」という看板に偽りはなかった。

 

 必殺技の「足4の字固め」はボボ・ブラジルの頭突きやフリッツ・フォン・エリックのアイアンクロー、ディック・ザ・ブルーザーのニードロップのようなパワー系の必殺技とは一線を画していた。日本マット界に初めて登場した“複雑系”のフィニッシュホールドだった。

 

 当時の少年で、この技を真似しなかった者はいないのではないか。家の居間で、教室の隅で、あるいは公園の砂場で……。仲間が2人集まれば、この技を掛け合ったものである。

 

 足4の字固めとは言い得て妙で、上から見ると数字の4によく似ているのだ。

 

 当時、裏返しにされると掛けた方がダメージを受けるという説があった。それで実際に試したところ、さらに痛みが増幅したことを覚えている。掛け方にもよるのだろうが、あれは俗説だった。

 

 デストロイヤーにも受難の時代があった。新日本プロレスを主戦場としていたジョニー・パワーズの必殺技「8の字固め」が「4の字固めの2倍の威力を誇る」と話題になったのだ。

 

 だが、何度真似しても完成型は「足4の字固め」と同じなのだ。今にして思うと、これはある意味、新日本のプロパガンダの成功例だったと言えるかもしれない。

 

 いずれにしても、足4の字固めは、老いも若きも熱狂する、この国で初めての「国民的必殺技」だった。そしてデストロイヤーこそは、その「家元」だったのだ。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2019年4月1日号に掲載されたものです>

 


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