(写真:就任初年度は優勝、2年目は準優勝の岩渕監督)

 今季の日本女子ソフトボールリーグは開幕戦第1試合が昨季の決勝カードとなる。パロマ瑞穂野球場でトヨタ自動車レッドテリアーズ対ビックカメラ高崎BEE QUEENが激突する。2012年から交互に優勝している両チーム。昨季決勝で敗れたビックカメラ高崎は王座奪還に燃える。今季は高卒ルーキー3人を加えた23人体制で臨む。就任3季目の岩渕有美監督に意気込みを訊いた。

 

――いよいよ開幕が近付いてきました。17年から監督に就任して3度目の開幕です。

岩渕有美: 初年度も2年目も、今年も大きくは変わっていない。ワクワクする気持ちもあれば、不安な気持ちもある。正直、シーズンが始まってみなければわかりません。ただ昨季は開幕節から第1節まで約1カ月空きました。開幕戦後、切り替える時間がありましたが、今季は試合が続きますので、勢いが出るような開幕戦にしたいという思いもあります。

 

――開幕戦は22分の1に過ぎないのか、あるいはそれ以上の重みがあるのか?

岩渕: 私の中では22分の1ですね。やはり最後に勝たないといけません。最後の1試合に負ければ、天と地との差がありますから。

 

――昨季はリーグ戦19勝3敗で2位通過。決勝トーナメント初戦は、リーグ戦1位のトヨタ自動車を破りました。しかし、トヨタ自動車との再戦となった決勝では延長タイブレーカーの末、0対1でサヨナラ負けを喫しました。

岩渕: 選手の技術云々よりは、私自身が選手たちを生かしきれなかったという思いもあります。

 

――具体的には、モニカ・アボット投手に抑えられた攻撃面ですか?

岩渕: 打たなければ勝てませんからね。チャンスを全くつくれなかったわけではないので、点数が取れない展開ではなかった。

 

――バントやエンドランなどで仕掛ける必要があったと?

岩渕: 仕掛けもそうですし、打席に立つ選手にアドバイスを送ることもできたはずです。選手の動作ひとつひとつを感じ取って、もっと攻撃を工夫できたかと。

 

 中堅層の活躍がカギ

 

(写真:キャプテンの我妻<左>とは出身校が同じ。コーチ時代から良き相談役だ)

――今季から変えたいこと、新たに取り組んでいることはありますか?

岩渕: 今季は例年に比べて選手が23人と多いんです。でも頭数が多くなっただけでは強いチームにはならない。層の厚さを出すために、選手ひとりひとりが持っている可能性を最大限に生かしていきたい。今の段階ではレギュラーだけでなく、いろいろ選手が様々な場所で生きる選手起用をしたいと思っています。

 

――今季のキーマンは?

岩渕: よく聞かれるのですが、正直わかりません。それぞれがいいものを持っているので、それをどう生かせるかが重要だと思っています。キャプテンの我妻悠香をはじめ、内藤美穂、糟谷舞乃を中心とした中堅選手が活躍してくれると、選手層が厚くなると思っています。

 

――扇の要であるキャッチャーの我妻選手は監督就任当時からキャプテンを務めています。

岩渕: 年々成長しているとは思いますが、またひとつ違った目線でチームを見てほしい。これまでは自分が一生懸命やることでチームを引っ張ってくれていました。そこから余裕を持ち、全体を見られるようになれば、チームもさらに変わっていくんじゃないかという思いはあります。上野由岐子、森さやか、山本優のベテラン選手は言わなくてもわかってくれている部分がありますが、我妻ら中堅選手にはもっと下の子たちをうまく引っ張っていってほしい。

 

――チームには上野投手という絶対的なエースがいます。

岩渕: そうですね。上野に対する信頼はすごく大きいですし、それをあの子自身も分かっています。だからこそ他のピッチャーを使いながら、上野を混ぜていく試合になればいいとは思うのですが、こればかりは試合展開を見てみないと何とも言えませんね。

 

(写真:現役時代はアテネオリンピックで銅メダル獲得した外野手だった)

――監督が考える上野投手の長所は?

岩渕: 自分に妥協しないところですね。体づくり、トレーニングにしても自分との勝負で妥協せずにやり続けていることが彼女の強みです。ピッチングひとつとってもいろいろと考えています。ただ投げているのではなく1球1球、細かく考えている。

 

――その点を他のピッチャーにも見習ってほしいと。

岩渕: 間近で見て感じてほしいですね。“上野さんだからできるんだ”と考えるのではなく、長きに渡って投げ込み、走り込みを積み重ねてきたからこそ今がある。その姿勢を見て、本人に聞いてほしい。こんなにいい見本が傍にいるので、多くのものを学んでもらいたいと思いますね。

 

――主砲の山本選手は、2年前に首位打者、昨季ホームラン王とバッティングが絶好調です。

岩渕: いい活躍をしてくれていますね。ここぞという場面で勝負強さを発揮してくれています。

 

 理想はポテンヒット

 

(写真:肩の故障で一度は現役引退。13年に復帰した山本)

 ビックカメラ高崎、そして日本代表における投の柱が上野なら打の柱は山本だ。昨季は打率3割7分7厘、7本塁打、19打点。リーグ通算42本塁打は歴代トップである。昨年の世界選手権で最多の6本塁打を記録したスラッガーの理想のバッティングとは――。

 

――開幕戦に向けての意気込みは?

山本優: 22分の1ですが、初戦に勝つと勝たないとでは、気持ちの面でも変わってきます。そういった意味でも白星発進したいですね。

 

――昨季は準優勝でした。

山本: 決勝に向けて調子が上がってこなかったのが一番の反省点だと思っています。

 

――4番打者としてホームラン王を獲得し、日本代表としても大活躍しました。

山本: 満足はしていないですけど、数字的に見ればよく打った年だと思います。でも自分はホームランを打ちたいタイプではないので、それよりもチームが勝つことの方が重要です。

 

――ホームランよりも打率や打点に重きを置いていると?

山本: 数字は全然気にしないですけど、チャンスでしっかり打ちたいですし、チャンスメイクもきっちりしたい。ウチの打線はどこからでも点が取れるので、誰が塁に出て、誰が還すかという役割が毎試合違います。自分が打たないと勝てないわけではありませんので、“自分が打ってやる”という気持ちがそう強いわけではありません。

 

――17年に首位打者、18年にホームラン王。円熟の域に達しているように映ります。

山本: 16年に左肩を故障し、手術した翌年から良くなりました。そこから体が思うように使えるようになりました。前まではやりたいバッティングに対して、体が言うことをきかなかったんです。

 

――山本選手にとっての理想の打球は?

山本: ちょっと変かもしれませんが、自分の理想はポテンヒットです。

 

――ポテンヒット?

山本: ホームランはタイミングとポイントが合えば打てるんです。でもポテンヒットはフォームが良くないと、絶対打てない。タイミングを間違えていても、フォームが良かったらポテンヒットになる。良いフォームをキープすることがバッティングの調子を持続する秘訣なんです。

 

――ポテンヒットがコンスタントに打てるのはフォームがしっかりしている証拠だと。

山本: そうですね。ポテンヒットを嫌がるバッターの方が多いかもしれませんが、自分としては最高ですね。ホームランを打った時より気分がいい。

 

 信頼を勝ち取るシーズンに

 

(写真:自らの成長のため、あえて代表候補の多いビックカメラ高崎を選んだ勝股)

 東京オリンピックまであと1年。ビックカメラ高崎は日本代表候補を数多く揃える。高卒2年目の勝股は多治見西高時代から日本代表に選出され、“上野二世”と呼ばれる逸材だ。彼女はビックカメラ高崎のみならず、日本代表の未来をも背負っている。

 

――2年目のシーズンに向けての抱負を。

勝股美咲: 昨季の決勝トーナメントは全部上野さんが1人で投げ抜きました。私が少しでもチームの勝利に貢献できるようなピッチャーに成長していかないと。いつまでも上野さんに頼りっぱなしではダメだと思っています。

 

――悔しい思いが強かった、と。

勝股: やはり最後は上野さんが一番信頼されている。それをただ応援することしかできなかった自分がいました。少しでもチームや上野さんの力になりたいという思いはあります。

 

――日本リーグ1年目を終え、手応えはありましたか?

勝股: 通用する部分もあったと思いますが、実業団のチームは強いなと感じる試合がたくさんありました。

 

――実業団の強さとは?

勝股: 一度抑えても、次は絶対修正してくる。そういう対応力、工夫がすごいと感じました。

 

――昨年は日本代表として世界選手権に出場ました。

勝股: 貴重な経験でした。上野さんや藤田倭さんが投げている姿を見て、みんなからの信頼感を得ていると感じました。私自身もチャンスをいただいて、自分のライズが通用することもわかった。抑えられる球があるというのはすごく自信になりました。

 

(写真:今季はシュート系の変化球にもチャレンジ中だという)

――ライズボールへのこだわりは?

勝股: 一番こだわりがあって、一番自信を持って投げられるボールです。理想はライズで三振。いつもそのイメージを持って投げていますが、内野ゴロでも、とにかく抑えることを目標にしています。

 

――今季の目標は?

勝股: 少しでも信頼してもらって、たくさんマウンドに上がりたい。先発を任された試合はしっかり投げ切りたい。昨季は2勝しか挙げられなかったので、3勝以上はしたいですね。そのためには自分でアピールし、チャンスを掴んでいかないといけないと思います。

 

 19年前期の日本代表候補選手30人中11人がビックカメラ高崎の選手だ。毎年優勝を義務付けられているチームと言っていい。「期待していただけるというのはありがたいこと」と岩渕監督。山本は「それがモチベーション。勝たなくていいんだったらソフトボールを職業にしていません」と言い切る。

 

 岩渕監督の人間力を重視する指導は、前任の宇津木麗華監督(現日本代表監督)から引き継いでいる。

「“人として”という部分がすごく影響のあるスポーツです。どれだけ味方のことを考え、カバーできるか。そしてどれだけ相手のことを知るかが勝ちに繋がる。心技体のすべてが備わってこそ、強いチームができあがるんです」

 

 BS11では今シーズンも日本女子ソフトボールリーグを中継します。開幕戦(トヨタ自動車レッドテリアーズvs.ビックカメラ高崎BEE QUEEN)は4月14日(日)19時にオンエア。昨シーズンの決勝カードをお楽しみください!


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