(写真:「エースで4番」投打の柱は日本代表にも選出される藤田)

 開幕間近の日本女子ソフトボールリーグ。昨季はトヨタ自動車レッドテリアーズの優勝で幕を閉じた。3位決定戦でトヨタ自動車に敗れ、その雪辱に燃えているのが太陽誘電ソルフィーユだ。リーグ6度の優勝、5度の準優勝を誇る強豪。ここ3シーズン連続で決勝トーナメントに進んだものの2位、2位、3位。勝負強さに欠けた。チーム在籍31年目、監督就任14年目を迎える山路典子監督に今季に懸ける想いを訊いた。

 

――シーズン開幕が近付いています。まずは今季に向けての意気込みを。

山路典子: ここ3年で決勝トーナメントに進んでいても優勝はできていません。過去を振り返ってもウチはギリギリの戦いばかり。今年もそういう戦いが予想されますので、どれだけ勝負強く戦えるかがカギになります。まずはリーグ戦で上位4チームに入り、決勝トーナメントに進出を決める。そこから先の戦いを考えられるようにしたいと思っています。

 

(写真:現役時代は捕手としてシドニー、アテネ五輪に出場した山路監督)

――昨季はリーグ戦で12勝10敗。4位で決勝トーナメントに進みました。

山路: 自分たちが勝手に転んだような感じでした。前半は苦しい戦いばかり(5勝6敗)でした。ウチのチームの課題ですが、悪い流れを断ち切れない。そこで踏ん張れるか否かでチームの真価が問われると思います。昨季は前半戦を終えて断ち切ることができましたが、それはスケジュール(日本代表の活動などで6月から約3カ月間、リーグが中断)の問題でたまたま切り替えることができただけです。

 

――昨季苦しんだ経験が成長に繋がっていると感じますか?

山路: 繋がっていてくれればいいのですが、まだまだ脆い部分がチームを見ていて感じられます。“あの経験が生きた”と言うには、シーズンが始まってみないとわかりません。一方で私は最悪のケースを想定しておかなければいけない。悪い流れに陥った時にどう断ち切るか。その手を考えておくことも私の仕事だと思っています。

 

 捕手的思考

 

(写真:ベンチで入社7年目の青木<17>を指導する山路監督)

――最悪のケースを想定する。それは監督がキャッチャー出身ということとも関係していますか?

山路: そうですね。私の思考は間違いなくキャッチャー心理からきていると思います。選手の調子や状態が良ければ、チームも乗っていってくれる。そんな時でも私は最悪の事態を想定し、選手の調子や状態が悪くなっても崩れないようにチームをコントロールする。そこを強く意識しています。

 

――昨季より青木千春選手を主戦キャッチャーとして起用しています。彼女の成長がチームのカギを握ると?

山路: 間違いなくそれはありますけど、まだ彼女には課題が多く、そこまで背負わせるには早い。まずは自分自身をコントロールできるようにならないと、ピッチャーやチームをコントロールできません。

 

――キャッチャーを見る目は厳しい?

山路: 周りからも結構そう言われるのですが、私自身は厳しくしているというよりは最低限やらなければいけないところを教えているつもりです。そこをしっかりできていると、試合を作れますし、間違いなく自分自身を守ってくれる。

 

――経験値がモノを言うポジションでもあります。

山路: ええ。それは間違いありません。ただリードは永遠の課題だと思っています。今、私がキャッチャーをやっても100点満点はとれません。その場に応じて状況は変わりますし、相手もいる。そこはずっと付いて回るものだと思っています。だから私が注意しているところはそれ以外の部分、自分自身でコントロールできること、していかなければいけないことです。

 

――前キャプテンの佐藤みなみ選手を抑えキャッチャーとして起用する考えもありますか?

山路: そうですね。いろいろな使い方ができると思います。

 

「あるものをどう使うか」

 

(写真:今季からキャプテンを務める11年目の山本。ポジションはサード)

――今季からキャプテンは山本晴香選手です。

山路: 山本は全体を見る目があり、ソフトボールをよく知っています。彼女はチームの事をいろいろ考えられるので、基本的には任せています。

 

――選手からは「監督は個性を生かしてくれる」という声があがっています。

山路: もちろん個性を生かすことも大事ですが、その場その場の状況において変化させることも必要です。日本リーグはベンチ入りが最大で25人ですが、ウチはそもそも21人しかいません。だからそれぞれの役割だけでは戦えません。例えば守りだけ、走塁だけというわけにはいきません。私はいろいろなことをみんなに求めていく。例えば二刀流の使い方もそうです。他のチームではあまり見られていないと思いますが、藤田(倭)は投打の軸として使っている。攻守両面で結果を出してもらいたい。それを「個性を生かす」と捉えてもらえているのかもしれません。

 

――藤田選手に加え、尾﨑望良選手も二刀流です。2人の存在はチームにとって大きい?

山路: 2人とも打撃がいいので、二刀流起用が可能になります。もしそれができないのであれば、違う起用法を考えます。私自身考えることが嫌いじゃない。ウチだからこそできるやり方で勝負したいと思っています。

 

(写真:昨季は自己最多の7勝。防御率1.14と活躍した尾﨑)

――昨季は右投げの藤田選手と左投げの尾﨑選手をピッチャーとDP(指名選手)で起用し、対戦打者に応じて細かく使い分ける継投を行っていました。こういった起用ができるのも太陽誘電ならではでしょうね。

山路: そうですね。私は相手が何をしてくるかわからないというのが一番嫌です。だから相手に読まれないようにいろいろなことを仕掛けていきます。

 

――監督が思うチームの魅力は?

山路: 何でも好きにできるところですね。王道ではありませんが、いろいろなことに挑戦し、選手の持っているものを最大限に引き出せるのではないかと思っています。

 

――チームの今季のスローガンは「革新」です。監督自身は変えたいと思っていることはありますか?

山路: 私自身を変えるというよりは、今いるこのメンバーをどう生かすかを考えたいです。ないものねだりをするのではなく、持っているものをどう使うかに注力したい。

 

 二刀流の二枚看板

 

(写真:昨年の世界選手権では5本塁打。日本代表でも二刀流)

 個性を生かす山路監督の代表的な起用法が、藤田と尾﨑の二刀流である。藤田は高卒11年目の28歳、尾﨑は大卒9年目の30歳。ともに日本代表に選出経験があり、2019年度前期女子TOP強化指定選手のリストに入っている。

 

 右投げ右打ちの藤田は「エースで4番」、まさにチームの大黒柱である。MVP1回、最多勝3回、本塁打王と打点王は1回ずつ獲得している。山路監督も「私は日本代表で4番を打ったことがありますが彼女の方が全然上です。一振りで試合を決めることができる選手」と絶大なる信頼を寄せる。

 

 その藤田は指揮官に恩義を感じている。

「山路さんは自分を見つけてきてくれた監督。自分の良い部分も悪い部分も知っている中で起用してくれている。自分に何が合うのか、どういうふうにすれば結果を出せるのか。それを考えて伝えてくれる」

 

 昨季、投げては5勝7敗、打っては打率2割3厘、5本塁打、11打点だった。リーグ戦でのチームの苦戦も「自分自身の実力の無さです」と責任を感じている。だからこそ今季には期するものがある。

「いい結果を残せなかったので、チームの柱として貢献したい。ピッチングではチームが決勝トーナメントに行けるように10勝以上あげたいです。バッティングは勝負強さが自分の魅力だと思うので、“ここぞの一発”にこだわりたい」

 

 その藤田を「年齢は私より下ですが、すごく尊敬する選手。チームにとって、とても心強い存在です」と語るのが、もう1人の二刀流・尾﨑だ。昨季は2本塁打だったが、ピッチャーとしては藤田を上回る7勝をあげた。

 

(写真:「バッティングは器用じゃない」という尾﨑。長打力が魅力だ)

 山路監督は尾﨑をこう評す。

「投げるボールひとつひとつに素晴らしいものがあると思います。バッティングに関しては打率こそ高くありませんが、パワーもありますし、チームが打てないところで打ってくれるので貴重な存在です。私が対戦するキャッチャーだとしたら嫌なタイプですね」

 

 今季も二刀流の二枚看板を擁し、リーグ優勝を目指す。「かたちにとらわれず個々の持ち味が出でいるチーム。みんながみんな同じバッティングではない。監督がそれぞれの長所を生かそうとしてくれている」と藤田。また尾﨑も「個々の能力を生かす指導をしてくださる。だから年を重ねるごとに自立する選手が多いという気はしています」と語る。

 

 個性派集団をどう束ね、どう使いこなすか。7度目のリーグ制覇は山路監督の采配にかかっている。

 

 BS11では「ザ・チーム」(毎週土曜21時~21時30分)を放送中。アスリート個人ではなく“チーム”に焦点を当て、仲間と共に困難や苦境に挑み続ける「ひたむきさ」や「折れない強さ」を描いています。4月6日(土)の放送回は日本女子ソフトボールリーグの太陽誘電ソルフィーユとビックカメラ高崎BEE QUEENを特集します。是非ご視聴ください。


◎バックナンバーはこちらから