(写真:昨年5月に訪れた際の熊本城)
「熊本でUWFルールでの試合をやっていただけませんか?」
電話の主は、熊本プロレス祭り実行委員と名乗る者だった。
「熊本地震からもうすぐ3年になり、復興は進んではいますが、心の復興はまだまだです」
僕は、この言葉にハッとした。
「あれほどの地震だったので、当然メンタル面のサポートも必要ですね」
昨年の5月に熊本を訪れ、熊本城へ足を運んだのだが、いたる所に地震の爪痕が残っていて、胸が締め付けられた。救いだったのは修復工事中だったお城の天守閣を拝めたこと。僕が訪れた日、天守閣を覆っていた幕を震災後に初めて外したと新聞などで報じていた。
タイミングの良い時に来られたことを僕は嬉しく思った。
必然的に熊本城に特別な感情を抱くようになった。
この時に宿泊したところもまた熊本城に縁が深い。
城主だった加藤清正公の菩提寺である本妙寺。その境内にある宿だったのだ。
本妙寺は山の上に位置するのだが、境内から熊本の街が一望できる。
何でもこのお寺と熊本城の天守閣の高さが同じだというのだ。
「それって計算して作ったのだろうか? ただの偶然?」
僕は熊本のシンボルである熊本城にどんどん引き込まれていった。
この時から約1年が経過し、熊本城に思いを馳せていた時、前述の連絡が入ったのである。
「藤原組長とUWFルールでの試合は可能でしょうか?」
藤原喜明さんと試合ができるのは願ってもないチャンスである。
しかし、8月は昆虫の季節。昆虫ヒーローミヤマ仮面のイベントと被ってしまうため、頭を悩ませた。
今年3月から新たな戦略としてYouTube番組『クワレスちゃんねる』の動画配信を始めたこともあり、今年は特に昆虫イベントに力を入れるつもりでいたからだ。
「大会は、8月4日の日曜日ということですね……。それは、夏休みの一番良い日程かも。う〜ん、困りました!」
昆虫ヒーローの本分である昆虫イベントを広げていかないとミヤマ仮面としての未来がない。だが、古希を迎える藤原さんへのリベンジマッチも急がないといけない。
藤原さんには一昨年、カッキーライドでのスパーリングマッチで玉砕した。
がんから復活した姿を応援してくれている皆様にアピールする意味もあり、対戦したのだが、全く歯が立たなかった。無残な結果に終わったことで自分を責めた時期もある。
もちろん、生半可な気持ちでリングには上がったわけではない。
当たり前だが、リングは過酷な鍛錬をやり抜いた猛者だけが足を踏み入れることが許される聖地なのである。
そのことは、プロで何年も生活していたので、誰よりもよくわかっている。
リングに上がる以上、藤原さんから関節技で一本取るつもりでいたし、そのために自分ができる最大限の努力をしたつもりだった。
しかし、この時のスパーリングマッチでは、プロのファイトを魅せることができなかったのである。
リング上で丸裸にされ、現状を突きつけられた感じであった。
僕はあれから、つまらないプライドは綺麗さっぱり捨て去り、新弟子状態で練習に取り組んでいる。総合格闘技の練習をやり始めると、少しずつだが自信を取り戻してきた。こうなると元来のチャレンジ精神がムクムクと芽生え、無謀な闘いを恐れなくなっていったのだった。
昨年の夏は、カッキーライドのメインで、現在も新日本でバリバリに活躍している鈴木みのる選手に挑戦した。以前の自分だったら間違いなく躊躇していただろう。
あの復帰戦でボロボロにされたことは今考えると良かったのかもしれない。
こんなことを考えているうちに藤原さんと再戦することは運命だと思えてきた。
頼まれごとは試されごと! よし、やろう!!
もちろん、昆虫イベントの方も大切だが、穴を開けた分は動画を含め、別の形で取り戻せば良い。
藤原さんとのUWFマッチは、今しかできない。
しかも舞台は思い入れの強い熊本だけに、断ってしまったら一生後悔するだろう。
「8月4日は、熊本の皆様にUWFファイトを魅せます」
僕は、熊本プロレス祭り実行委員の方に熱い試合をすることを約束した。
会場は甚大な被害のあった益城町にあるグランメッセ熊本だ。
試合の前々日までに熊本入りを考えている。
試合前日は、熊本城の修復工事がどこまで進んでいるのか確認しに行くつもりだ。
あの大きな地震でも崩れなかった熊本城の『奇跡の一本石垣』を見習い、僕も不屈の闘志で耐え抜く試合をするつもりだ。
ただし、藤原さんの石垣ばりに硬い頭から繰り出す『一本足頭突き』には、くれぐれも注意したいと思う。
(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)
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