「UWFイズムを一番引き継いでいるのは僕ですよ」

 マスコミ関係者に向かって僕はこう発言した。

 大真面目に言ったつもりだったが、大笑いされてしまった。

 

 それもそのはずだ。全身、昆虫ヒーローの格好をしていたからである。

「UWFはプロレス界にイノベーションを起こした団体。闘うスタイルや思想、興行形態など全てが革新的だった」

 ここまでは理解してもらえたが、ミヤマ仮面の出で立ちでは説得力がないというのである。

 

「今や国内にプロレス団体は数限りなくありますが、虫のプロレスは前代未聞でしょう? ガチスタイルで闘っている虫をエンタメ的にショーアップさせたのがクワレスです。これって究極のUWFイズムだと思いませんか?」

 ミヤマ仮面のコスチュームのまま僕は熱弁をふるったが、その真意は伝わらなかった。

 

 革新的な試みこそが、UWFスピリッツだと僕は言いたいのだ。その意味では坂本龍馬もUだ。そして、クワレスこそが、現代のUなのである。

 

 クワレスが誕生したのは今から15年前。

 スポーツジャーナリストの二宮清純氏との「クワガタが闘う競技を作ったら面白い」という会話がきっかけとなり具現化したのが始まりだった。話だけで終わらず実際に大掛かりなイベントまでも開催してもらったのである。この時はまだ遊び半分だったクワレスが、まさか自分のライフワークとなるなんて人生はわからないものだ。

 

(写真:クワレスイベントの様子。子供たちからの反応も良い)

 僕のクワレスへの情熱は年々上がっていき、次の世代をも巻き込んでいる。なんと17歳になる息子が、大学への進学を選ばず、生涯クワレス一本でやるというのだ。

 嬉しい反面、正直不安もある。

 

 つい先日もこのような質問をされてしまったからだ。

「そのクワガタのイベントって趣味でやっているのですか?」

 一般的に認知されていないのだから仕方がないが、やはり胸が痛む。

 クワレスがメジャーにならない限り、これからもそのような質問を耳にすることになるだろう。

 

 僕はプロレスを引退した2006年から、この昆虫イベントを生業としている。つまり趣味ではなく、完全に仕事として13年もやっているのだ。

 

 世界広しといえど昆虫イベントショーで生活しているのは僕たち一家だけであろう。

 昆虫ヒーローを名乗るミヤマ仮面は、多くの子どもたちにイベントを通して命や自然の大切さ伝えている。これが使命だと思っている。こんなやりがいのある仕事は他にない。

 

(写真:命や自然の大切さを伝えることが使命だ)

 しかし、志は高くとも知名度が上らないことには先細りし、消えてしまうだろう。

「もっと多くの人に早く届ける方法はないものかね」

 現状のイベントスタイルに不満はないが、亀のような歩みにもどかしさはある。

 

「絶対にYouTubeしかないでしょ」

 17歳の息子からの言葉を受けて、僕は嫌悪感を抱いていたYouTuberを今更ながら強く意識するようになった。

 

 正直、誰もが安易に手を出せるようなものは好きではないが、時代の流れに逆らっている暇はない。今から始めるには遅すぎるがトライする価値はある。言い訳となるが、ここ数年、病気やプロレス復帰などもあり、クワレスが後手に回っていた。

 

「思い立ったら吉日! YouTube作戦で勝負を賭けよう」

 親子で固く誓い合った。

「動画をやっていくうえで、まず揃えなければいけない最低限の機材は何だろう?」

 早速、2人でリサーチを始めた。

 

「チャンネル登録者数のとりあえずの目標は1000人。まずは1カ月に100人ずつ増やしていこう」。長く続けていくには、具体的に数値化してモチベーションを保つことが大切だ。

 昨年の冬から構想を練り、スタートさせたのは今年の3月からだ。番組タイトルは『クワレスちゃんねる』

 

 少々見切り発車ではあったが、週に2~3本のペースで配信している。何事もやりながら覚えていくしかないだろう。

 タイトル通り、内容はクワレスを中心にやっているのだが、虫を撮影するのは考えていた以上に難しい。小さな虫を迫力ある姿で映し出すには虫眼レンズのようなのが必要だ。光も重要なので照明機材も手を抜けない。

 

(写真:台湾で有名な虫博士<右>とクワガタ忍者)

「なんか完全にスタジオだね」

 気がつくと大きな照明機材が部屋を占拠していた。

 そして、何よりも驚いたのが、編集作業だ。たった5分の映像を作るにも編集に6~7時間もかかるのである。これは僕の担当ではないが、YouTuberは想像していた以上に大変な仕事なのだと気付かされた。どんな道でもプロはすごいのである。

 

 連日、『クワレスちゃんねる』を面白いものにするために親子で火の出るような打ち合わせを重ねている。お互いに無謀すぎる企画を出し合うが、できるだけ実現のために動くようにしている。

 

「クワガタって南国のイメージが強いから、沖縄へクワレスを広める旅なんかどう?」

 この企画を形にするために僕たちはすぐさま沖縄へ飛んだ。もう体当たりの旅だ。

 YouTubeを始める時にフットワークだけは軽くしようと決めた。

 考えすぎてしまい、行動に移せないのが一番ダメなパターンだからだ。

 

 先週は沖縄へ飛び、ハブに怯えながらも森の中を調査した。

 先月は、台湾で現地の方と山に入り、クワガタを探してみたが、これが面白い結果が出た。

 

 もちろん、これらの様子は全てYouTubeで配信している。

 映像を撮るようになって、行動範囲が爆発的に広がり、人との出会いが増えた。

 これは財産だと思う。

 

 明日からはイベントを兼ねて熊本に行く予定だ。どんな出会いが待っているのかワクワクする。ここまでの話を読み、興味を持った方は一度YouTube『クワレスちゃんねる』を見てほしい。そして、今後成長していくクワレスを応援してもらいたい。

 

 僕は、クワレスをメジャーにするためなら、地球の果てまでだって行くつもりだ。

 その本気度を是非とも映像で確認してもらいたい。

 

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)

 


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