そこまで世情にうといタイプだとは思っていなかったが「ディスる」という言葉を知ったのは、恥ずかしながらここ最近である。聞けばディスリスペクトの派生語で、相手を侮辱したり、軽蔑したりすることを意味する表現であるらしい。

 

 その伝で言えば、この映画は“ディスり満載”である。病気になった埼玉出身の生徒に対し、「そこらへんの草でも食わしておけ」。埼玉特有の伝染病は「サイタマラリア」。その他にも「ダサイタマ」「クサイタマ」「ウサンクサイタマ」……。もう、これでもかと言わんばかりに埼玉県民をディスり続けるのである。3月に私も鑑賞したが、いくらコメディーとはいえ、「埼玉をバカにするな!」と怒り出す人が出てくるのではないかと少々、心配したものだ。

 

 ところが、である。この「翔んで埼玉」、この手の映画としては興行収入31億円を超える異例の大ヒット作品となっているらしい。埼玉県民とおぼしき隣の席の学生が「オレ今日、通行手形忘れたから(埼玉県に)強制送還だよ」と口走ったのには笑ってしまった。埼玉の人間は懐が深い。

 

 ところで、その埼玉以上にディスられているのが北隣の群馬である。映画では恐竜が棲む「秘境」である。

 

「利根川を越えて“秘境の地”から埼玉に乗り込んできた選手たちが地元の人々の協力を得て都会のチームを倒す。そういう物語があってもいいじゃないですか」。そう語るのはラグビートップリーグ(TL)に所属するパナソニックワイルドナイツの飯島均部長である。

 

 ラグビー協会は2021年度からTLを3部制に移行する方針を打ち出した。本拠地主義に基づくホームアンドアウェー方式が採用される見通しだが、その際、群馬県太田市に拠点を置くパナソニックはW杯でも使用される埼玉県営熊谷ラグビー場を本拠地とする方針。「太田市と熊谷市は利根川をはさんで隣同士。3月にはウチと埼玉県、熊谷市との間で地域振興に関する3者協定を結んだばかり。早ければ来年の冬には移転を完了させたい」と飯島部長。

 

 映画のラストシーンではファミリーマート(狭山市)、しまむら(小川町)、山田うどん(所沢市)など埼玉創業の会社が次々に紹介され「日本埼玉化計画」が進行中であるとのナレーションが流れる。群馬という援軍を得た「北関東ラグビー化計画」もその一環なのか。令和は埼玉の時代かもしれない。

 

<この原稿は19年5月8日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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