(写真:トライアスロンにチャレンジする子供たち。まずは楽しむことから知ってほしい)

 このところスポーツ指導者のパワハラが問題になることが多い。学生スポーツからナショナルチームまで。海外でもないわけではないが、特に日本においては頻繁にあるようで、その原因として師弟関係の文化、軍隊教育から発展した体育教育などがあげられるようだ。

 

「指導」と「パワハラ」は何が違うのか?

 メディアの論調からすると、現状では指導者が選手に対して高圧的な態度をとるとすぐにパワハラ認定されそうで、少々指導者も委縮する傾向があるようにも感じる。どうなったらパワハラなのか……。

 

 個人的には、指導対象やその置かれた状況によって変わるので、すぐにどちらかに偏重してしまうことこそが怖いとは思っている。ただ、振り返ってみると、スポーツに刹那に、シリアスに取り組まないと許してもらえないような風潮は昔からあり、海外で競技活動を始めた時にそのギャップには驚かされた。

 

 皆がやっていることに合わせない、コーチに平然と口答えする、挙句の果てに勝手に練習を切り上げる……。どれも日本のトレーニングシーンでは見たことのないものだった。やりたい奴が、やりたいように取り組む。大人ならともかく、子供であってもそんなスタンスで、選手を尊重する姿に戸惑いながらも羨ましくもあった。

 

 将来を見据えた指導を

 

 それから25年が経過し、世の中もかなり変わった。今は日本でも指導者が選手との付き合い方に気を付ける時代でもある。そんな時代に合った大会が存在している。

 

「益子直美カップ小学生バレーボール大会」

 これは5年前から福岡県で開催されている小学生対象の大会で、全国的に見るとただのローカル大会だが、独特のルールが話題を呼んでいる。そのルールとは「監督が選手を怒らない」というもの。通常、子供のスポーツでも、いや子供のスポーツだからこそ、指導者が厳しい言葉で指導するというのが一般的である。なのに、大会期間中、監督は選手を怒ってはいけないのだ。

 

「監督が怒ったら私に言ってきなさい」と益子さんは子供たちに言うらしい。そして、その指導者を益子さんが怒るとか……。自身の体験からこのようなルールを考え付いたらしいが、現在の子供のスポーツ環境を先どりして考えたと思ってしまうような提案だ。そのおかげで大会会場は常に和やかな雰囲気が漂うという。「それでは競技スポーツではない」とおっしゃる指導者の方もいるだろう。しかし、指導の対象は小学生だ。まず覚えさせるべきは、スポーツの厳しさや、テクニックではなく、スポーツの楽しさ、向上する喜びであるべきである。怒ることがそれほど必要であると思えない。

 

 仕事柄、子供のトライアスロン会場にいることが多い。その時にいつも「親御さんは一歩下がって優しい笑顔で応援だけお願いします。子供に檄を飛ばすのはほどほどに!」と笑顔でお願いする。激しい親の言葉に委縮している子供たちを見るたびに悲しくなる。そしてこのスポーツが嫌いになるのではないかと心配にもなる。もちろん安全を脅かす行為など厳しく指導しなければいけない事項もある。それらと、頑張っているのにできないときに厳しい言葉をかけるのとは意味が違うはずだ。

 

 その歳その歳で求めるものも、指導の仕方も変わってくるはず。

 今ではなく、その子の将来を想像した指導を心掛けたい。

 

 益子さんのトライは全国に広がりつつあるようだ。

 今度は「親が怒ったらペナルティ」というキッズトライアスロンを作ってみようかな。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月に東京都議会議員に初当選。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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